第107話 平穏な村の小さな魔女2
その日も私は家の屋根に上り、勝手に作った魔法の煙をぷわぷわと放って、空にピンク色の雨雲を大量発生させていた。
近所の住人が、最近は日照りが続くとぼやいていたからだ。
(んー……飽きた。あとは、放置しても雨が降るよね)
私の魔法のおかげで、この村は今年も豊作だろう。
もっとも、皆は幼いのに大規模な魔法を使う私を不気味がっているけれど。
魔法でぽんぽんと屋根から飛んだ私は、庭一面に生やした、肉厚の巨大花の上にぽよーんと着地する。
薄紫と水色の淡い花からは、村長の家の奥さんがたまに作るお菓子のような、甘くていい香りがした。
(お菓子、食べたいけど……奥さんが焼くのは、村長の家にお客さんが来るときだけだし、そのお客さんが全部食べちゃうし。村人には回ってこないのよね。今日も焼いているみたいだけど)
少なくとも、私は今まで一度も口にしたことがない。
私は今度は、ふわふわと空を舞いながら、村の端から端まで移動する。
両親はもはや私の更生を完全に諦めたようで、何も言ってこなくなった。
(そうだ、今日は村の外に出てみよう)
私は普段、村の中だけで生活している。私だけでなく、ほぼ全ての村人がそうだ。
狭い世界での平穏な生活。それが彼らの全てだった。
(昔、『村の外へは出ちゃ駄目』って言われたような気がするけど。私はもう七歳だから、出ていいよね。だって退屈で倒れちゃいそう)
つい最近、私は誕生日を迎えたばかり。
すっかり一人前の村人になったと自負している。
だから、村を離れて、近くの草原に入ってみることにした。
当たりは明るい色の、子供の背丈ほどもある草で覆われていて、それがどこまでも続いている。
前に村に来ていた行商人が、草原の向こうには森があると言っていた。
(迷っても、空を見れば目印のピンク色の雲が浮かんでいる。そっちに進めば村だよね)
帰り道を確認した私は、さっそく冒険を開始した。魔法で草を色とりどりの石に変えて地面に敷き詰め、通り道を作って遊ぶ。
村の子供は私を遠巻きにするので、一人で過ごすのが日常だ。
昼に出発したが、夕方には森の入口にたどり着いた。
(そろそろ帰らないと。夜は暗くて雲が見えなくなる)
少し遅くなってしまったと、私は急ぎ村へ引き返す。
その頃、村が大騒ぎになっていたとも知らずに。
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