第106話 平穏な村の小さな魔女
シャールの中でも、まだ戸惑いがあるだろうが、彼が私をこれまで通りに扱ってくれるのなら……今は甘えたいと思う。
相変わらず、離婚はしてくれないみたいだし。
「それから、双子にはこのことを伝えたい。カノンにもだ」
「そうね、あなたに任せるわ」
二人はメルキュール家の要だし、カノンは私の息子だ。
今話をしておいた方がいいというシャールの意見に私も同意する。
「お前についても、もっと知りたい」
シャールは私に話の続きを促す。
「イボワール男爵家にいた頃のラムについては、ある程度把握しているはずだから、アウローラの記憶で大丈夫かしら?」
「ああ、私はお前の過去について、巷に出回っている情報以外は何もわからない」
「あれは美化されすぎているわ。私は、ただ魔法が好きで好きで大好きで、勢いで極めてしまった人間ってだけ」
私はアウローラの生い立ちについて、シャールに話すことにした。
どうしてか、彼を見ていると、自分について伝えたいという感情が湧き上がってきたためだ。
彼が私を知りたいと思うのと同様、私も彼に自身について知って欲しいと強く感じた。
※
前世の私はごく平凡な村人の子として生を受けている。
過去にテット王国やレーヴル王国、オングル帝国があった場所に、一つの巨大な国家が存在した。
大国の隅に位置する、果実の栽培が盛んな小さくて平穏な村。アウローラが生まれたのは、そんな環境だった。
その頃の私にはきちんと両親がいて、別の名前も持っていた。
たしか、アンと呼ばれていたと思う。
もっとも、いつの間にか私は、両親から名前で呼ばれることがなくなり、「あれ」や「それ」と言われ、戦々恐々と接されていたけれど。
この世界に普通に魔法があった時代、魔法技術は一般の村人でも扱えた。
そこそこ魔法が使える村人は、小さな魔法を使い果樹栽培に役立てたり、家事負担を軽減させたりして平穏に暮らしていた。
アウローラの両親もそういった生活を送っていた。
だからこそ、彼らの中で私の存在は異質だったのだ。
幼い赤ん坊の頃から、息をするように教えてもいない魔法を操る私を見て、両親は度肝を抜かれたと言う。
些細なことは気に留めず、私は好奇心の赴くままに魔法を放っていた。
成長するにつれて、そのスケールは大きくなり、いつしか私は制御不能な子供として周囲に煙たがられるようになった。
手に負えない子供を「他と同じ普通の子」に育つよう、両親は何度も諭そうとした。
だが、無駄だった。
(だって、そんなのつまらない)
魔法が好きだった私は、思う存分それを楽しみたかったのだ。
(そんなに目くじらを立てなくてもいいじゃないの。日照り対策で広範囲に雨も降らせてあげたし、嵐だって防いであげたんだから)
平穏な村の、小さな魔女を止められる者は、もはやどこにもいなかった。
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