第104話 伯爵夫人の復活

 それから、私は数日間ベッドの住人になった。

 今朝、外出しても大丈夫とお墨付きをもらったところである。

 足が生えたレモン柄のドレスを着せてもらった私は、元気よく部屋の扉を開けて廊下に出た。

 相変わらずの古びた暗い屋敷だけれど、住む人の心持ちが変わったからか、以前より全体が明るく見える。

 あとはこの廊下を黄色く塗り替え、壁も水色と桃色のストライプにし、リボン柄のシャンデリアを五つほど追加すれば完璧だろう。


(エペがちゃっかり私にかけていた追跡魔法も向こうで解除して来たし、あの子がここに乗り込んで来るまでの時間は稼げたはず。仲の悪いフレーシュが、エペに私の居場所を教えるとは考えにくい……)


 フレーシュが単独でやって来る可能性は否定できないが、エペほどの無茶はしないだろう。彼はエペと違って、私の反応を若干気にする。

 ただ、感情が高ぶったときは本人の意思に反して魔法が暴走するので、安心はできない。

 やはり、メルキュール家を守るためのものを用意しなければ。


「でも、その前に……」


 シャールとの約束が待っている。


(アウローラだったことについて、きちんと話さなきゃ)


 ちょっと気が重いと感じつつ、私は開け放たれた扉から、彼がいるであろう執務室に足を踏み入れた。

 中にはカノンもいて、一生懸命シャールの仕事を手伝っている。

 レーヴル王国への旅の経験がよかったのか、カノンは以前ほどシャールに苦手意識を抱く様子は見られず、より親子らしくなったように思えた。

 一方、シャールは苺柄の机に向かい、何かの書類にサインしている最中である。


「シャール、カノン、復活したわよ!」


 部屋に入ってきた私を、二人は揃ってこちらを不審の目で見た。信用がないらしい。


「ラム、あと一週間ほど寝ていた方がいい。外国へ出かけた上に聖人を倒したり、変な魔法をかけられたり、転移したりしたのだから」

「そうですよ、母上。それでなくてもすぐ倒れるのですから」


 耳が痛い……。でも、そうもいかないのだ。


「フレーシュやエペは、そのうちメルキュール家まで訪ねてくると思うの。そのときに、この前みたいな騒ぎにならないよう、しっかり対策しておきたくて……学舎には、魔法経験の浅い小さな子供たちもいるから。それと……」


 私はまっすぐシャールの方を見た。


「……過去について、きちんと話すという約束を果たしに来たの」


 シャールは静かにペンを机において私を見つめ返す。


「聞こう」


 何かを察したカノンは、さっと歩き出し部屋を出て行く。

 別に一緒に聞いてくれてもいいのに気を遣わせてしまった。


(ひとまず、シャールに伝えて、他の人にも話すかどうかは彼に任せてみましょうか)


 私はカノンが座っていた椅子を借り、静かに腰掛けた。

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