第79話 聖人VS二番弟子

「……というわけで、我々は聖人の即時返還を求める。すでにこちらの城内にいるのは確認済みだ。隠し立てすればあとでレーヴル王国が困ることになるぞ」

「ずいぶんと強気に出たものだ。君の発言がモーター教総本山の意見と捉えていいんだね?」

「ああ」

 

 肯定する聖人の声はまだ若く、フレーシュや私と同年代に思える。


「ではレーヴル王国を代表して言わせてもらう。回収した聖人は我が国に混乱の種を蒔き、王都の大聖堂を破壊し、街の人間に多大な被害をもたらした。その件について、君たちの代表はどう考えているんだい?」


 フレーシュの言葉は、もっともな話だった。

 一方的にレーヴル王国側で魔法使いを弾圧して騒ぎを起こし、歴史ある王都の建物を破壊し、なんの罪もない人々を危険に巻き込んだ。しかも、大聖堂にいた人々は敬虔なモーター教徒である。

 

「言動には気をつけるのだな。そもそも、何故国王ではなく第一王子に過ぎないお前が出てくる?」

「聖人関連の窓口は僕なので」

「嘗められたものだ」

「こちらこそ、嘗められたものだよ。うちの陛下を出せと要求するなら、そちらだってそれなりの役職者を派遣してもらわないと。聖人なんて多少魔法を使えるだけの、本質的な宗教運営に全く関わりのないヒラ教徒でしょ?」

 

 さすがフレーシュ、私の二番弟子。


(言っちゃった……)

 

 理不尽を一手に引き受け、一方的に責められ続ける気はないらしい。

 今回の場合は、言いがかりを甘んじて享受しても、余計な責任を負わされるだけで、相手からは何も引き出せないのだとわかっている。

 モーター教と一国家の関係は対等ではないのだ。


(はっきり断っちゃったら角が立つけれど……あの子なら、大抵のことはどうにかできるでしょうね。やる気さえあれば)


 問題は、そのやる気がいつ発揮されるかわからない上に、発揮されても物騒な事態にしかならないところだ。

 フレーシュは昔から、気に入らないものは、なんでも全部凍らせてしまえばいいと思っている節がある。

 彼の魔力は三人の弟子の中でも飛び抜けて多い。

 今世の魔力量もこっそり量ってみたが、前世とさほど変わらないようだ。

 そのぶん細やかな魔力の操作が苦手で、なんでも大技になってしまう傾向が強いが。

 

 フレーシュが手を下す際は、大規模な魔法を展開することになり、結果多くの人や建物が巻き込まれるだろう。


(今世では前世より性格が円くなっているし、少しは成長しているみたいだから、多少はマシになっていると思いたいわね)


 聖人とフレーシュの会話はまだまだ続く。


「ふん、聖人を侮るのか。後悔しても遅いぞ」

「僕に勝つ気でいるなんて、おめでたい頭だ……無知って怖いね? 面倒だから今までモーター教には触れなかったけど、あまり騒ぐと全部凍らせてしまうよ?」

「多少魔法が扱えるくらいでいい気になるな」


 このままでは永遠に口喧嘩が続きそうだ。

 そのうち、勢い余って魔法合戦が始まる可能性も高い。

 そうなると、巻き込まれるのは城で働く人々だ。

 

 さすがに今世のフレーシュは前世よりは周囲を慮っている。

 しかし、まだまだ感情や魔法の生業が不安定な部分が多々見受けられた。

 

(止めに入りましょう)


 私は耳をつけていた扉を開くと、カオたちを引きずったまま中へ突入した。

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