第78話 新たな聖人がやって来た

「街中で魔法使いが暴れたっていうのも、そっちの計画?」

「そうだ、予め味方を何人も紛れ込ませてある。そもそも、『弾圧に対して魔法使いの権利を訴えよう』と声を上げて魔法使いを王都に集めたのも我々だ」

「ええ~。念のために聞くけど、この国の本物の魔法使いも何人かは集まっていたのよね?」

「もちろんだ」


 無表情のミュスクルは身じろぎもせず、真面目な表情で質問に答え続ける。

 

「そういう人たちはどうなるの?」

「参加に当たり、住所と名前を名簿に書かせてある。いざというときに、利用したり脅したり捕縛するためにな」

「あらまぁ……怖いわ」

 

 全ては最初からモーター教の手のひらの上だったらしい。

 唆されて王都での訴えに参加した魔法使いは、馬鹿を見た上に身元を特定されるという散々な目に遭ったようだ。

 

「でも、もうこの国での騒ぎは収まるでしょう。騒ぎの元である聖人と聖騎士は捕まえたし、殿下も手を打っているわ」

 

 私は自白の魔法を解いたのと同時に、脱力したミュスクルが音を立てて床にぶつかり気絶した。

 精神に干渉する魔法なので、魔法をかけられた人間への負担が大きいのだ。

 だから、なるべく使いたくない類いの魔法である。

 

「ラム、お前は既にいくつか魔法を使っているが、体調は問題ないのか?」


 シャールは倒れた聖騎士そっちのけで私の心配をしてくれる。


「大丈夫よ。でも、今日はもう魔法を使わない方がいいかもね。これ以上は控えるわ」


 体調管理は大事だ。出先で倒れたら多くの人の手を煩わせることになる。

 そういう迷惑をかけるのは本意ではない。

 

 もどかしいけれど、ここは我慢だ。

 気絶したミュスクルをカオと同じ場所へ放り込んだところで、にわかに部屋の外が騒がしくなった。


「廊下の方かしら? 怒鳴る声や走り回る音が聞こえるわね」


 気になるので客室を出て外を確認する。シャールも後ろからついてきた。

 手近な一人を呼び止め事情を聞くと、「フレーシュ殿下に急な来客があった」と教えてくれた。なんでもその客は自らを「聖人だ」と告げたのだとか。


(それは……こんな時間に来られても無下にできないわね)


 尋問やら何やらしているうちに、時刻は夜になっていた。

 人の減った静かな廊下を、シャールの魔力で強化した体で、拘束済みのカオとミュスクルを引きずりつつ進む。

 

 おそらく聖人が来たのは二人の身柄の引き渡しを望んでのことだろう。

 とりあえず、無事な姿でも見せてあげようと思い、私はフレーシュのいる客室に向かう。

 城の人々から特に止められることはなかった。


 フレーシュがいる客室の前に陣取り、まずは扉にカオをくっつけ耳を澄ませて中の会話を聞く。

 私の後ろではシャールも聞き耳を立てているため、背中から覆い被さられるような体勢になっている。

 なんだか密着していて落ち着かない。


「なあ、ラム。本当に行く気か?」

「ええ、そうよ。弟子を助けてあげるのも師匠の役割ですから」

「助ける必要……あるのか? どうしてもというなら魔法は使うな。今日は既に何回も使っていただろう。必要なら私がやる」

「……まあ、今のシャールなら。カオレベルの聖人は軽く伸せるでしょうけれど。こちら側にはフレーシュ殿下もいるし」

「王子は関係ない」


 体をくっつけたまま言い放つシャールは、どことなくムッとしている様子に見えた。

 小声で喋っていると、中からフレーシュと聖人の話し声が聞こえた。

 いったん会話を中断し、聞き耳を立てるのに集中する。

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