第41話 想いが通じない妻について
シャールは苦い表情で妻のラムを見つめた。
先ほどから自分の言葉が届いていないように思えて仕方がないからだ。
自分は本当にラムを好いているというのに、彼女は何か思い違いをしているのではないだろうか。
たしかに最初は妻に興味がなかったし、忙しさもあり蔑ろにしたのは事実である。
弱肉強食のメルキュール家の方針だと、その対応で合っていたのだ。
(今はそれを反省しているが)
幼い頃から当たり前に叩き込まれてきた価値観に疑問を持つ機会はあった。
だが、深く考えずに惰性で生きてきた。そのツケが今になり回ってきている。
豹変したラムに出会ってから彼女が気になってはいた。
気に入っているだけではなく、本格的に好意を抱いているのだと気づいたのは、妻から殴られた事件がきっかけだ。
ラムの言い分はもっともだと思った。
なぜ、自分は今までメルキュール家の異常さを改善しようとしなかったのか……気づいているようで、気になっているようで、その実何も考えずに受け入れていたことを今さらながらに思い知らされた。
そして彼女の拳で、当主である自分がメルキュール家を変えなければならないのだと自覚した。
(ラムは妙な誤解を抱いているようだが、私は殴られて喜ぶような性癖は持っていない)
共に学舎の訓練を見学したり、アウローラの話をしたりするうちに、ますますラムへの好意は募っていった。
だが、通じない。あり得ないくらいに自分の思いが彼女に届かない。いったいどうなっているのか?
まったくもって鈍い妻だ。それでも好きなのだから仕方がない。
シャールは女性に人気があるのだと周囲は言う。
しかし、学舎で青春時代を送ったシャールはそちら方面に疎かった。
ラムに振り向いてもらうにはどうすればいいのかさえわからない。
(本当にどうしようもないな。わかりやすく伝えるくらいしか方法が思いつかない。フエもバルも私と似たようなものだから当てにならん。使用人は……私に遠慮して正直な意見を控えるだろう)
自分はラムの夫だ。
おそらく、妻に振り向いてもらうために努力するのは当然の行動……
シャールは自分の気持ちを伝えるために全力でラムを誘惑することにした。
きっと、これが正しい夫婦のあり方なのだと信じて……
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