第39話 妹たちの襲来3
シャールは突撃する妹たちから上手に距離を取って離れる。
だがリームとレームは諦めない。
「お姉様、リームは伯爵様と一緒に過ごしたいわ。いいでしょ?」
「レームも! ねえ、伯爵様を貸してちょうだい?」
出た。お得意の「貸して」だ。
「シャールはものではありません。貸すも何もないでしょう? よその家で非常識な行動は止めてちょうだい」
「お姉様のケチ! 伯爵様、聞いてください~。お姉様ってば冷たいんですよぉ? せっかく会いに来た妹を屋敷にも上げてくださらない。ドレスもアクセサリーも貸してくださらない上に、シャール様との時間も取り上げようとするんですぅ~!」
「そうですよぉ~! 援助だけじゃ足りないってお願いしているのに~!」
シャールは私の方へ歩み寄ると、凍てつくような視線を妹たちへ送った。
「帰れ」
リームとレームは信じられないとでも言うようにシャールを見つめる。
「これ以上くだらないことを喚くつもりなら援助自体を打ち切る。私が男爵家へ資金を渡していたのはラムのことがあったからだ。普通に暮らすには十分な額のはず。だが、お前たちはそれだけで満足せず一方的に我が家へ押し入ろうとした。自分の行動の意味が理解できんとは言わせん」
妹たちに対しても、シャールは容赦なかった。
「そ、そんなっ! リームは、ただ……」
「なんだ? 伯爵家のものを強引に持ち去ろうとしたのではないのか?」
「違っ……」
「それに、男爵家側でラムをメルキュール家に売っておきながら離縁しろと? ずいぶん身勝手な話だ」
追い詰められるリームを見たレームが、キッと私を睨む。
「お姉様、酷いわ! シャール様にあることないこと吹き込んだのね?」
「どうしてそうなるわけ?」
「だって、シャール様がレームたちよりお姉様の味方につくなんて変ですもの! お父様だってお母様だって、いつもリームお姉様とレームの味方なのに!」
うちの両親とシャールを一緒にしちゃ駄目でしょ……
父と母は自分たちに似た妹二人をそれはそれは溺愛しているのだ。
「そうだわ! お姉様のせいよっ!」
レームの援護に気をよくしたリームが私を見て再び勢いづく。
「聞いてください伯爵さまぁ~、お姉様の言うことを真に受けてはいけません。その女は虚言癖があるのですぅ~」
それはあなたたちでしょ!
……という言葉を飲み込み、シャールの出方を窺う。
傍若無人な招かれざる客を前に、シャールはメルキュール伯爵に相応しい冷酷で凶悪な笑みを浮かべた。
「ほう? 私の妻を侮辱するとはいい度胸だ。相応の覚悟はできているのだろうな」
「へ? 覚悟ですって?」
思わず裏声を忘れてレームが聞き返す。
「イボワール男爵家には追って使いを出そう。余計な手間だが、そろそろ身勝手な要求に我慢の限界が来ていたところだ。当初の約束よりも十分な額を払った。これ以降の資金援助は打ち切る」
「えっ、なっ!? どいういう……?」
リームとレームは、揃って目を白黒させ始めた。
「こっ、困りますわ! 援助を打ち切られたら我が家は立ち行きません。意地悪を言わないでくださいませぇ」
「責任を取る覚悟もなく、私に喧嘩を売ったのか?」
「喧嘩を売るだなんてとんでもないですぅ! リームとレームはぁ、伯爵様ではなくお姉様を……」
「愛する妻を侮辱されて私が何も思わないとでも?」
「えっ……? だって、伯爵様はお姉様を愛していないでしょ……?」
「こう見えても、私は愛妻家だ。ラムを気に入っている」
愛妻家だなんて、今初めて聞いたけれど。
(ここは黙っていましょう。早くリームとレームに帰ってもらいたいし)
私はシャールと妹たちとの会話に口を挟まないことにした。
しかし。妹は彼の忠告にもめげずにますます増長する。
「そんなわけがありませんわ! お姉様なんて変な髪色だし、地味だし、病弱だし、魔力持ちだし! 殿方がお姉様のような気味の悪い女を好きになるはずありません!」
妹の言葉に、私は「あちゃぁ~」と額を抑えた。
(「魔力持ち」は言っちゃ駄目でしょ。シャールだってそうなのに)
どや顔の妹は未だ気づかない様子だが、今のは魔法関連の仕事を生業としているメルキュール家全体を敵に回したも同然の言葉だ。
「ふむ、メルキュール家の金品を巻き上げるだけでは飽き足らず、我が最愛の妻を侮辱し、さらには家自体も否定する……と。イボワール男爵家はよほどうちと縁を切りたいらしい」
シャールの言葉を聞いて二人はようやく己の失態を悟った。
揃って青白い顔になる。
「ならば、望み通りにしてやろう」
いくら妹たちの好みの見た目でも、そこは各方面から恐れられているメルキュール伯爵。
凶悪な微笑みは迫力があった。
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