第28話 伯爵夫人の恥ずかしい日記

 現在私は奮闘していた。

 というのも、前世の自分の恥ずかしい絵を始末しようと動いたところ、シャールに見つかり妨害されてしまったからだ。


「ラム……隠し部屋に入っていいとは言ったが、中を勝手に模様替えする許可は出していない。いますぐ、その手に持っているアウローラの絵を戻せ」

「いやあ、これは、飾るものではないと思うの。どこかに封印していいのでは……」

「アウローラを侮辱するのか」

「侮辱する気はないわ」

 

 ああ、面倒くさい。

 でも、自分の顔が大量に飾られているのは、いたたまれない気持ちになる。

 

「壁に飾って、傷んでも大変じゃない。保管の方がいいと思うのよ!」

「……ふむ、そういうことか。完全な状態での保管を良しとするタイプなのだな」


 シャールは何かに納得したようで、しげしげと絵を眺めている。

 そして、ふと、私を見て言った。


「そういえば、アウローラはどことなく、お前に似ているな。ラム」

「え、ええ~? そうかしら~?」

 

 ……実はそれ、私も思った。

 もともと、男爵家で一人だけ薄緑色の髪だった私。

 顔だって妹たちとは似ていない。

 髪型や雰囲気こそ違うが、絵の中のアウローラと同じなのだ。つまり、前世顔。

 絵なので誤魔化せたが、実物投影魔法が現代に残っていたら、一発でバレただろう。

 だからこそ、何も気づかれないうちに絵を封印したい。


(シャールがアウローラマニアだったなんて、誤算だわ。五百年前の品ばかりなのに、それをここまで揃える執念が怖い……おかげで助かる部分も多いけれど)

 

 いそいそと絵をしまい込む私の前に、シャールが一冊の本を取ってきた。アウローラが書いたものっぽい。


「ラム、お前はこういった書物を読み解くことはできるのか?」

「ええ、まあ……」


 書いた本人ですし。


「可能なら、これの解読を頼みたい。礼はする。アウローラ直筆の書らしいが、本の状態や文字からして、最古の文献だと思うのだ」


 何気なく渡された小さめの本を見て、私は戦慄した。


(こ、これ、大昔の日記帳~~~~!)


 よりにもよって、こんなに恥ずかしいブツの解読を頼むだなんて。シャール、恐ろしい奴だわ。

 パラパラとページをめくってみると、昔の思い出が蘇ってきた。それも十歳頃の黒歴史が。


『○月○日 師匠が怖い。今日こそ家出しようと思う』

『□月□日 師匠から王族の家庭教師を命じられた。権力者が嫌いだからって、全部私に押しつける気だ』

『△月△日 王子に求婚された。でも、王子は七歳。私はダンディーな騎士団長派』


 ……やっぱり、どうでもいいことしか書いていない、恥ずかしいだけの日記だった。


(よし、誤魔化しましょう)


 ささっと顔を上げた私は、シャールに向かってにこりと微笑む。


「アウローラの子供時代の日記ね。魔法に関する内容は載っていません」

「ほう、興味深……」

「それよりもっ! あっちの棚にある本は、魔法に関する内容っぽい雰囲気がするわっ! 解読するのは、あれにしましょう!」

「やはり、解読できるのだな、お前は。これは、どういう文字なのだ?」

「古代エルフィン語よ。五百年前の時点で、廃れかけていた言語だけど、魔法使いは好んで使っていたわ。魔法と相性がいいから」

「なるほど。お前が五百年前の人間の生まれ変わりというのも、あながち嘘ではないのかもな」


 シャールは、言われたとおり、棚に挿してある本を持ってきた。


(やったわ! 恥ずかしい日記を守り切ったわ!)

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