第14話 伯爵夫人は物体を飛ばす

 魔力を込めて頭頂部をロックオン!

 食らえ、光と風の混合魔法、シャイニングつむじ風!


 どこからともなく出現したつむじ風が、意地悪な貴族の周囲に集まる。

 そして、光り輝きながら、頭頂部にある物体をフワリと浮かび上がらせた。

 その光景は、どこか神々しく、周囲の貴族たちが息を呑む。

 輝く風はそのまま、フサフサした物体を窓の外まで運び去って行った。


「つまらぬものを飛ばしてしまったわ」

 

 あんぐり口を開けたなんとか伯爵と、頭頂部がさっぱりした意地悪貴族が床に膝をついている。すると……


「ブハッ……」


 隣に立つシャールが吹き出した。

 ずっと無表情だったメルキュール伯爵の豹変に周囲がざわめく。


「ラム、またお前の魔法が見られて嬉しいぞ」


 シャールの言葉を聞いて、貴族たちがギョッとした様子で私に注目する。


「い、今の魔法は伯爵夫人が?」


 なんとか伯爵に向け、シャールが鷹揚に頷く。


「ああ、ラムは優れた魔法の使い手なんだ。で、そんな彼女より私の妻に相応しい人物との縁談とは?」

「ひっ……」

「いや、あの、その……」


 二人の貴族はモゴモゴ言い訳しながら、逃げるように去って行った。

 なぜかシャールだけでなく、私を見て脅えているように見えたけれど……


(カツラを吹き飛ばしただけなのに)


 もしかして、今の時代の人々にとって、魔法はそれほどまでに身近ではないのだろうか。とんでもない場所に転生してしまった。

 頭の上で存在感を主張する巨大シャンデリアを見上げつつ、私は小さく息を吐く。

 

「ラム、陛下に呼ばれているから、少しの間外す。すぐに戻るが」

「お構いなく」

「平気かもしれないが……気をつけろ。なるべく人の多い場所にいるように」

 

 どうして、そんな心配そうな目を向けるのだろう。

 ラムになんて興味がなかったくせに。

 

(まあいいわ)


 これを機に、現代の魔法事情や常識を勉強しようと試みる。

 社交の場は情報収集にもってこいの場所でもあるのだ。

 

(メルキュール家の人たちは、世間とズレているみたいで参考にならないのよね)

 

 シャールやカノンはもちろん、一番まともそうに見えるフエもたぶん変。

 使用人たちから庶民の事情は聞けたけれど、今の情勢や魔法に関してはなかなか難しい。

 

(世間に流れる情報と、真実は乖離していることがあるのよね)

 

 中枢に近いここなら、何かがわかるかもと踏んだのだけれど。

 取り立てて収穫はない。


 散々な結果を出した、ラムの社交の場への初参加。

 そこで、彼女は振る舞いを間違え、全方面から嘗められるようになってしまった。

 

 先ほどの貴族は私の見方を改めたようだけれど、まだまだ敵意を抱いた視線を感じる。

 一番は、ヒソヒソ話を止めない令嬢たちの群れだ。

 前回、ラムは彼女らにいびられ、なんの抵抗もできないまま逃げ出した。

 だから、令嬢たちは味を占めたのだろう。


(多少魔法を使えたところで、恐るるに足らず……と思っているのね)

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