第13話 伯爵夫人はパーティーに参加する
人々がざわめく、夜の王城。
ぼうっと光に浮かび上がるような建物には妙な威圧感がある。
私は新しく雇った侍女に着替えさせられ、緑がかった青色のドレス姿になった。
なんだかよくわからない間に、シャールがパーティーに必要な諸々を用意していたのだ。
(なぜ、採寸していないのに毎回サイズが合うの? 魔法でも使った?)
隣には、前髪を上げてめかし込んだシャールが立っている。性格は最悪だが、顔だけはいい。
「ほら、行くぞ」
差し伸べられた手を取るのが礼儀だとは知っている。しかし、癪だ。
「前回は、私を置いてスタスタと先に歩いて行ったような?」
「あれは、お前がやたらと私を怖がっていたからだ。手なんか差し出した日には全速力で逃げただろう?」
たしかに、言われてみれば、ラムはシャールに対して並々ならぬ恐怖心を抱いていた。
(まさか、シャール的には気遣ったつもり……だったと?)
いや、そんなはずはない。会場でもずっと別行動だったし。
だからこそ、他の貴族にも「夫に相手にされない惨めな妻」、「噂通りの出来損ない貴族」だと認識されて、クスクスと陰口をたたかれたのだ。
(思い出せば出すほど、パーティーにいい思い出がないわね)
ヒソヒソと悪口を言われても、直接嫌味を言われても、足を引っかけられたりジュースをこぼされたりしても、突き飛ばされたり蹴られたりしても……ラムは何も反撃できなかった。裏庭へ逃げ、一人シクシクと泣いていたのだ。
しかし、誰も来なかった……むなしい思い出である。
今日も今日とて、先に会場に入った余所の夫人や令嬢たちは、ストレス解消用の獲物が現れたと目を光らせラムを観察する。
「来ましたわよ、メルキュール伯爵夫人が。今日は伯爵様も一緒ですのね」
「最初だけではないのですか? だって、この間はパーティーが始まってもバラバラでしたし?」
「それもそうですわね」
聞こえるように話しているのか声が大きいので、シャールもチラリとそちらを向く。
しかし、すぐに私の手を引っ張り会場の奥へと進んで行った。
国王が現れ、宰相がシャールの功績を読み上げ、集まった人々がそれを称え、令嬢たちが「メルキュール伯爵様~」と黄色い声を上げる。
五百年の間に、この国の貴族令嬢は、式典を兼ねたパーティーで既婚者貴族に歓声を上げるようになってしまったらしい。どうでもいいけど。
シャールは煩わしいと思っているのが丸わかりの無表情だった。
そのあと、何人もの貴族がシャールに話しかけに来たけれど、そこでも彼は無表情で受け答えしている。なんだか、周りから脅えられているような……?
(もしや、コミュ症? 人見知り?)
私の知ったことではないけれど、もう少し心象をよくできるだろうにと思わないでもない。それでも、ひっきりなしに貴族がやってくるのは、シャールの影響力故にだろう。
群がる人混みに酔いそう……
「それにしても、もったいないですなあ! メルキュール伯爵なら、もっと良い縁談もあったでしょうに」
貴族の一人がそう言って私をチラリと見る。
ラムの記憶を辿るに……ご近所貴族のなんとか伯爵だったような?
たしか、彼には私と同い年の娘がいた。つまり、そういうことである。
その貴族に便乗して、他の貴族もヘラヘラ笑いながら口を開く。
「本当に。ねえ、伯爵夫人」
そこで私に振るの~!?
もうこれは、嫌がらせ以外の何物でもない。
(勘弁してよ。魔法でその似合わないカツラを吹き飛ばすわよ?)
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