第6話 魔法が使える妻について

「シャール様、奥様はただ者ではありません」


 屋敷で仕事をしていると、フエが部屋に駆け込んできた。

 

 彼には妻の様子の確認を頼んでいたのだが、ただ者ではないとはどういう意味なのだろうと、シャールは訝しむ。

 ラムの実家は浪費家の男爵家で、彼女自身は僅かばかりの魔力を持つ、体の弱い令嬢のはずだが。


「奥様は光魔法以外も扱えます。それに、かなりの手練れかと」

「どういうことだ?」

「本日、奥様と一緒にカノン様の様子を伺いに行ったのですが、学舎の中で大規模な空間魔法と幻影魔法を披露されて……一同は度肝を抜かれました」

「夢でも見たんじゃないのか?」

「いいえ、俺以外にも証人はいますから。嘘だと思うなら確認してください」


 不可解な内容に疑問を感じていると、フエはさらに報告を続けた。


「それから、侍女や使用人が次々に暇を出された件ですが……調べてみると、侍女と使用人がグルになって奥様を冷遇していました。特に一部の侍女などは、自分を旦那様に紹介しろと奥様に詰め寄ったとか」

「なんだと?」

「料理人も、奥様用の食事に残飯を提供しておりました。奥様はこの数ヶ月間、自由な外出も制限されていたらしく、本日までカノン様に会いにいけなかったと……。さすがの奥様も、堪忍袋の緒が切れたのでしょう。もう少し、あなたは彼女の様子に気を配っておくべきだったのでは?」

「…………」

 

 言い返す言葉もなく、シャールは黙って顔を背けた。

 

「あの男爵令嬢は、ただの病弱で気の小さい女じゃなかったというわけか」

「シャール様。前の奥様のせいで、今まで女性を毛嫌いしていましたけど、新しい奥様に興味は湧きましたか?」

「……ああ、少し湧いた」

 

 メルキュール家で、初めての顔合わせをしたときは、なんとつまらない女だと思った。

 始終何かに脅えていて、他人の顔色ばかりを窺う、自分の考えなど持たない人間。

 ラムに抱いたのは「都合がいい女」という感想だけだった。

 しかし、妻であれなんであれ、魔法に優れた人物は気になる。フエがあれだけ動揺するのなら尚更だ。


「フエ、ラムは屋敷に戻っているか?」

「ええ。散歩から帰ったあとは、お部屋に送り届けましたよ。本人が動き回っていないかまでは、保障できませんけど」

「そうか」


 シャールは椅子から立ち上がり、扉のほうへ進む。


「どちらへ向かわれるのです?」

「妻のところだ」

「いってらっしゃいませ。奥様と仲良くなれるよう、頑張ってくださいね」


 食えない笑みを浮かべるフエを横目に、シャールはラムの部屋を目指した。

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