失う物
「お前って戦闘狂?」
鳩が豆鉄砲を食らった様な、そんな顔。
別におかしい事じゃない。
俺が楽しいと思う時の一つは――闘っている時だ。
勿論、ゆっくり散歩するとかも好きだけど。
この状況なら今の台詞に間違いない。
「……そうかもしれないな」
「ズコー!! 認めちゃったよ!」
「闘うのは楽しいからな」
「それは同感だが。相手オレだぞ? 格下の奴らからいきなり格上とか頭キーンってならない?」
「ははは」
「ま、やるってんならソレなりに覚悟してもらないとな」
「覚悟?」
「そりゃ、負けても『何も失わない』決闘なんてつまらねーだろ?」
キッドはそう言う。
意識した事なんて無かった。
負けた時――自分は何を失うのか。
もちろんPKされればGは失うが、今はそんな軽いモノじゃない気がする。
「もしテメーが負けたら、オレ所属のプロチームに入れ」
「……え?」
「お前はもう――自覚無しだろうが――そこら辺のプロより強い。RLだけじゃなく、この先現れるフルダイヴ系のゲームでも余裕で上位に立てる」
「……そんな事は」
「あるんだな、残念ながら」
笑って彼は言う。
どうしてそこまで言い切れるのか不思議だ。
「ハハハ、まー言ってオレも副業だし。リアルでお前がやってる仕事には支障ねえよ。ちなみに職業なに?」
「……ただの会社員だ」
「おっならOK! 優秀な奴が居たら捕まえて来い、そう言われてるんでな。声を掛けさせて貰った」
「ありがとう、でも俺は――そういうのは考えられない」
俺がRLを始めた理由。
それを今一度考えてみる。
そしてその答えは――
「『自由』じゃなくなるから、だろ?」
「!」
「分かるぜ。そんな当然の事」
もう一つの世界を、商人として自由に歩き回る。
そんな願望で始めたRL。
見透かす様に、彼は言って。
「この勝負は無しって事で――じゃあな」
手を振って離れていく。
……一つ、忘れている。
どうして俺は、彼に負ける前提で話を進めているんだろう。
「――『勝てば良い』、そうだろキッド」
「あ?」
足を止める彼の声。
雰囲気が変わる。
張り詰めたソレが――辺りに広がって。
「俺は何か可笑しい事を言ったか?」
「ハハ。本当にお前はスゲーよ。だから欲しいんだ」
「ありがとう。でも断るよ」
「……オレに勝てるとでも?」
「やるからには」
「へぇ――」
「!」
その指からスッと投げられた何か。
それを受け取れば――
《果たし状を受け取りました》
《キッド様との決闘準備状態になりました》
□
キッド様側ハンデ:開始時HP99%減少
キッド様側ハンデ:スキル枠90%制限
キッド様側ハンデ:小刀以外の装備不可
キッド様側ハンデ:回復不可
キッド様側ハンデ:時間制限超過時強制敗北
制限時間:10分
□
「えっ」
「覚悟が出来たら始めろ」
一瞬目を疑った。
そんなハンデ――見た事が無い。
「決闘のハンデも、色々あれば増えてくのさ。回数熟してないお前は知らねーだろうけど」
「……そうなのか」
「これなら決着がすぐで良い。プロは忙しいからな、ハッハッハ!」
「でも、これは……」
「自惚れんなよニシキ、あと十秒だ。過ぎたら決闘破棄」
「!」
この選択を押せば、決闘が始まる。
負ければ――『自由』では無くなる。
なら、勝つしかない。
俺の中ではもう……闘う以外の選択肢は無くなっていて。
《お互いに『決闘開始』が選択されました》
《決闘申請が受理されました》
《決闘は三十秒後に開始されます》
「ほんっとブラウンといい。お前ら本当に生産職か?」
呆れる様に笑う彼。
その戦闘が、始まろうとしていた。
□
ハンデ:スキル枠使用制限について
このハンデを適用した場合、所持しているスキルが制限され、
制限上限を超えると超えるまでに使用したスキル以外の全てが使用できなくなる。
□
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