縛り、眺める者
「『パワーショット』――!! おい邪魔!」
「がッ……」
思う様に身体が動かず、味方の攻撃に被弾。
そして、転んだ彼がニシキを見れば。
ぞっとする、見下ろすその目。
『足りない』――そんな飢えた獣の様な目。
(こいつは、何をやってんだ……?)
ニシキの姿を見る者は――攻撃を止め、目の前の光景に絶句する。
「……縛りが要る」
そう言いながら、今度はその『斧』すらも投げ捨てていたのだ。
――何故。
防具も、武器も持たない者に。
こんなにも恐怖の感情が芽生えるのか。
「もっと、もっとハンデを」
目の前に居る男はそう言った。
先程まで隠密を駆使し、魂斧で者共のHPを削り取っていたニシキ。
なのに今、その全てを捨てて。
「ひっ」「な、何なんだよ……」「い、行けよお前ら!」
彼らは全員鳥肌が立っていた。
この男は、あまりにも自分達と違いすぎると。
「ッ、おらああああッ!!!」
威勢だけの言葉も意味が無い。
ただ叫び、闇雲に突っ込んでいく。
確実に、根本的な――『何か』が異なる者。
そう感じた時点で、彼らの敗北は喫していたモノで。
彼らがそれを理解するのは己が倒れた後だった。
☆
《Reflect!》
「――っ」
まずは矢を反射。
そして雪崩れ込むPK職達。
「『スラッシュ』!」
「『ダブルエッジ』!」
「『パワーブレード』……ッ!」
数が多すぎて、逆に動き辛そうな彼ら。
後ろに下がって避けて――
「『ファイアーランス』!」
「ぐぁッ!?」
《Reflect!》
背後から撃たれたその火槍を、振り向きざまに斧を振り反射。
前の三人は――
――「おま、邪魔だって」「いッて……」「え、『エネミーバック』!!」――
二人は足を取られて転けて、一人はそのスキルを発動。
「『パワースウィング』」
「な――!? ぶえッ!!」
予定通り現れた一人にその武技を置き。
「『パワーショット』――!! おい邪魔!」
「がッ……」
突如俺の後ろに現れた彼に、離れたその弓使いは対応出来ず同士討ち。
……違う。
俺が求めているのは。
こんな、甘ったるい状況じゃない。
なんでだ?
彼らは有利なはずなのに、どうしてそこまで焦るんだ?
理解が出来ない。だからこそこっちも、もっと不利にならなければならない。
「縛りが要る」
呟く。
手に持つアイアンアックスを、インベントリに仕舞った。
「もっと、もっとハンデを」
武器は持たない。
そういう状況も――あるかもしれないから。
『何が』あっても、対応出来る様に。
《状態異常:毒となりました》
飲んだのは攻勢の毒薬。
これなら、『両者』とも終わるのが早い。
「ッ、お、おらああああああッ!」
ようやく突っ込んできた彼。
手に持つのは『片手剣』。
「っ」
「ぐッ!?」
武技も使わず、ただの振り下ろし。
当然隙は少ないはずなのに――そのモーションは舐めているかの様に隙だらけで。
足を引っ掛けながら避けた後、転んだ彼の手からソレをもぎ取れば。
《???様のアイテムです! 戦闘終了後返却されます》
「……装備出来るのか」
「か、返せ――」
「『スウィング』」
「がはッ」
片手剣を武技を試しに放つ――成功。
奪っておいてアレだが、驚いた。
ステータスさえ合っていれば装備出来るんだな。
「ぐッ、くそ――やれ!」
「――『パワースウィング』!」
「――『スティング』!」
片手剣の持ち主は逃げ、先程の二人が迫っていた。
「『パワーショット』!」
「『ファイアーボール』!」
そして更に遠くからの矢と魔法。
四方からの攻撃。
……避けるか? 避けないか?
二択の内選ぶのは後者。当然このまま攻撃を食らえば死。
ならどうするか。
『全て、叩っ切るのみ』。
このタイミング。
この距離。
――構えろ。
奪った剣でも、ソレは出来るはずだ。
「――――『黄金の一撃』」
《Reflect!》
《100,000Gを消費しました》
腰を落とし――円周上に刃を移動。
一つ、片手斧を弾き落とし。
一つ、ナイフを持つ手を切り裂いて。
一つ、矢を無効化。
一つ、火の玉を反射。
――「ぐッ、あ……」「手、手が」「ど、どうすりゃ良いんだよ」「ぐうッ!?」――
もっと、『余裕の勝利』を。
もっと、『危機的状況』を。
相反するソレを求めるべく――俺はまた手に持つ武器を遠くへ捨てた。
「来い」
☆
「『スラッシュ』」
「ぐッ……クソ」
《経験値を取得しました》
「麻痺毒二つ、毒薬一つ、他色々……まだまだだな俺も」
結構ギリギリだった。
武器を無くした場合も想定して闘ったけど、結局片手剣に片手斧を奪って攻撃したし。
多人数といえど格下相手だ。
これじゃ、シルバーを守りながら余裕の勝利など――
「まだまだ足りない、そう思ってんの?」
「!?」
「いやぁお見事お見事。スゲぇよお前、もうプロ顔負け」
背中を叩かれる。
臨戦態勢――になる前に、その声で気付いた。
「キッド……」
「アラタにはさん付けなのに酷いな~」
「……すまん、キッド、さん」
「キモッ止めろ止めろ!」
「……」
「で、どうした? 何かあった? 相談のるけど」
「!」
そしてこの察知能力も俺にはないもので。
「これゲームだぜ? 流石にちょっと引いた。怖かったぞさっきまでのお前」
「……そうか?」
「おう。なんつーか、修羅みたいな」
「ははは」
「いやマジで。アラタに見せたらビビりそう」
「……それは困るな」
「誰も見せるなんて言ってねぇよ!」
笑うキッド。
「まあだからさ、楽しくやろうぜ。な?」
「!」
……ああ。
《――「はは、重すぎるぞドク。良い言葉を教えてやる。これは『ゲーム』だ」――》
その言葉は、自分が言っていたはずなのに。
確かにキッドの言うとおり、焦っていたのかもしれないな。
「……楽しい、そう思える事を――か」
「うんうん」
RL。
楽しいことは一つじゃない。
シルバーとやった採取クエストは元々好きだったし。
行商クエストみたいに、NPCと取引するのも好きだ。
もちろん、モンスターと戦うのも好きで。
強者と闘うのも楽しくて仕方がない。
だからこそその言葉が、驚く程簡単に俺の口から現れた。
「じゃあ俺と闘わないか、キッド」
「話聞いてた?」
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