縛り、眺める者



「『パワーショット』――!! おい邪魔!」

「がッ……」


思う様に身体が動かず、味方の攻撃に被弾。

そして、転んだ彼がニシキを見れば。


ぞっとする、見下ろすその目。

『足りない』――そんな飢えた獣の様な目。


(こいつは、何をやってんだ……?)


ニシキの姿を見る者は――攻撃を止め、目の前の光景に絶句する。


「……縛りが要る」


そう言いながら、今度はその『斧』すらも投げ捨てていたのだ。


――何故。

防具も、武器も持たない者に。

こんなにも恐怖の感情が芽生えるのか。



「もっと、もっとハンデを」



目の前に居る男はそう言った。

先程まで隠密を駆使し、魂斧で者共のHPを削り取っていたニシキ。

なのに今、その全てを捨てて。


「ひっ」「な、何なんだよ……」「い、行けよお前ら!」


彼らは全員鳥肌が立っていた。

この男は、あまりにも自分達と違いすぎると。



「ッ、おらああああッ!!!」


威勢だけの言葉も意味が無い。

ただ叫び、闇雲に突っ込んでいく。


確実に、根本的な――『何か』が異なる者。

そう感じた時点で、彼らの敗北は喫していたモノで。

彼らがそれを理解するのは己が倒れた後だった。



《Reflect!》


「――っ」


まずは矢を反射。

そして雪崩れ込むPK職達。


「『スラッシュ』!」

「『ダブルエッジ』!」

「『パワーブレード』……ッ!」


数が多すぎて、逆に動き辛そうな彼ら。

後ろに下がって避けて――


「『ファイアーランス』!」

「ぐぁッ!?」


《Reflect!》


背後から撃たれたその火槍を、振り向きざまに斧を振り反射。


前の三人は――


――「おま、邪魔だって」「いッて……」「え、『エネミーバック』!!」――


二人は足を取られて転けて、一人はそのスキルを発動。


「『パワースウィング』」

「な――!? ぶえッ!!」


予定通り現れた一人にその武技を置き。


「『パワーショット』――!! おい邪魔!」

「がッ……」


突如俺の後ろに現れた彼に、離れたその弓使いは対応出来ず同士討ち。


……違う。

俺が求めているのは。

こんな、甘ったるい状況じゃない。


なんでだ?

彼らは有利なはずなのに、どうしてそこまで焦るんだ?

理解が出来ない。だからこそこっちも、もっと不利にならなければならない。



「縛りが要る」



呟く。

手に持つアイアンアックスを、インベントリに仕舞った。



「もっと、もっとハンデを」



武器は持たない。

そういう状況も――あるかもしれないから。

『何が』あっても、対応出来る様に。


《状態異常:毒となりました》


飲んだのは攻勢の毒薬。

これなら、『両者』とも終わるのが早い。


「ッ、お、おらああああああッ!」


ようやく突っ込んできた彼。

手に持つのは『片手剣』。


「っ」

「ぐッ!?」


武技も使わず、ただの振り下ろし。

当然隙は少ないはずなのに――そのモーションは舐めているかの様に隙だらけで。


足を引っ掛けながら避けた後、転んだ彼の手からソレをもぎ取れば。


《???様のアイテムです! 戦闘終了後返却されます》


「……装備出来るのか」

「か、返せ――」


「『スウィング』」

「がはッ」


片手剣を武技を試しに放つ――成功。

奪っておいてアレだが、驚いた。

ステータスさえ合っていれば装備出来るんだな。


「ぐッ、くそ――やれ!」


「――『パワースウィング』!」

「――『スティング』!」


片手剣の持ち主は逃げ、先程の二人が迫っていた。


「『パワーショット』!」

「『ファイアーボール』!」


そして更に遠くからの矢と魔法。

四方からの攻撃。


……避けるか? 避けないか?

二択の内選ぶのは後者。当然このまま攻撃を食らえば死。

ならどうするか。


『全て、叩っ切るのみ』。


このタイミング。

この距離。



――構えろ。

奪った剣でも、ソレは出来るはずだ。



「――――『黄金の一撃』」


《Reflect!》

《100,000Gを消費しました》


腰を落とし――円周上に刃を移動。


一つ、片手斧を弾き落とし。

一つ、ナイフを持つ手を切り裂いて。

一つ、矢を無効化。

一つ、火の玉を反射。



――「ぐッ、あ……」「手、手が」「ど、どうすりゃ良いんだよ」「ぐうッ!?」――



もっと、『余裕の勝利』を。

もっと、『危機的状況』を。


相反するソレを求めるべく――俺はまた手に持つ武器を遠くへ捨てた。



「来い」





「『スラッシュ』」

「ぐッ……クソ」


《経験値を取得しました》


「麻痺毒二つ、毒薬一つ、他色々……まだまだだな俺も」


結構ギリギリだった。

武器を無くした場合も想定して闘ったけど、結局片手剣に片手斧を奪って攻撃したし。


多人数といえど格下相手だ。

これじゃ、シルバーを守りながら余裕の勝利など――


「まだまだ足りない、そう思ってんの?」

「!?」

「いやぁお見事お見事。スゲぇよお前、もうプロ顔負け」


背中を叩かれる。

臨戦態勢――になる前に、その声で気付いた。


「キッド……」

「アラタにはさん付けなのに酷いな~」

「……すまん、キッド、さん」

「キモッ止めろ止めろ!」

「……」

「で、どうした? 何かあった? 相談のるけど」

「!」


そしてこの察知能力も俺にはないもので。


「これゲームだぜ? 流石にちょっと引いた。怖かったぞさっきまでのお前」

「……そうか?」


「おう。なんつーか、修羅みたいな」

「ははは」


「いやマジで。アラタに見せたらビビりそう」

「……それは困るな」

「誰も見せるなんて言ってねぇよ!」


笑うキッド。



「まあだからさ、楽しくやろうぜ。な?」

「!」



……ああ。



《――「はは、重すぎるぞドク。良い言葉を教えてやる。これは『ゲーム』だ」――》



その言葉は、自分が言っていたはずなのに。

確かにキッドの言うとおり、焦っていたのかもしれないな。


「……楽しい、そう思える事を――か」


「うんうん」


RL。

楽しいことは一つじゃない。


シルバーとやった採取クエストは元々好きだったし。

行商クエストみたいに、NPCと取引するのも好きだ。

もちろん、モンスターと戦うのも好きで。


強者と闘うのも楽しくて仕方がない。

だからこそその言葉が、驚く程簡単に俺の口から現れた。



「じゃあ俺と闘わないか、キッド」

「話聞いてた?」


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