再会②


あの後のこと。

行商クエストを終わった後、止めようと思っていたこと。

だが一週間RLを辞めて、どうしてもプレイしたくなったこと。


ソレを話した。

ゆっくり、分かりやすい様に。


「……本当、なんですか?」

「ああ」


こうして自分の事を喋るのは新鮮だ。

今思えば、本当に奇跡の連続だったんだな。


不良についてはちょっとオブラートに包んで話した。引かれたくないし。

後は……黄金の一撃と、失ったゴールドの事も隠した。

きっと言えば彼女は悲しむだろう。


それにしても、あのコンビニの奴らが居なかったら、俺はここに居なかったのか。

それでも感謝はしてないぞ。

そういえばアイツらどうなったんだろ……。闇討ちとかされないよな。


「……」


未だに信じられない、そういった表情のシルバーにもう一度俺は言う。


「だから、一緒に遊ばないか。結構採取クエストとか好きだったんだよな」

「わ、私もです」

「そうか。良かった」



《グリーンソルデに移動しました!》


納品クエスト。

特定のアイテムをNPCに納品することで、ゴールドと経験値……他アイテムなども貰える事もある。

そしてその納品クエの内、戦闘フィールドに存在する生物、植物を取得し納品するのが――『採取クエスト』。


それが一番豊富なのがココ、グリーンソルデだ。まあ見るからに緑が大量に生えてるし。


「じゃ、じゃあクエストを……」

「あー。クエは後で受けたら良いぞ」

「え?」

「クエストを受けようが受けまいが、取れるアイテムは変わらないからな。ある程度雑に採取して、対応するクエストを受けて即達成すれば無駄がない。余った分は翌日に繰り越せるし」


「……!」


ぽかーんと口を開けるシルバー。

餌を待つ小鳥みたいだ。


「天啓、です」

「大袈裟過ぎだろ……」



「それじゃ、とりあえず奥の方に行くか」

「はい」


グリーンソルデを歩いて行く。

シルバーはまだぎこちないが、少しずつ口調がやわらかくなってるな。

あの時みたいに話してくれるのは何時になるか。



「……」

「あー、シルバーは何で始まりの街に?」

「スライムさんで、斧の練習をする為です」

「へえ。ココじゃ駄目なのか?」

「……駄目です」

「? そうか――お、着いた着いた」



緑を掻き分けて辿り着く。

その場所に。


《緑林の辺境に移動しました!》


そこは木々の無い開けた場所で……ボロボロになった木造の小屋がある。


「……? 何ですかここ」

「採取スポットの一つだな」


プレイヤーは……居ないな。珍しい、取り放題だ。

俺はその小屋の方向へ。


「採取って。植物なんて無いですよ?」

「まあ良いから。来たら分かる」


俺も最初はそうだった。

でも、採取出来るのは『緑』だけじゃないんだ。


「!! キノコ! キノコがいっぱい!」

「ははは、良い反応をどうも」


口を大きく開けて叫ぶシルバー。

その小屋には、至る所にソレが生えている。

コレの採取クエは結構ゴールド貰えるんだよな。


《ブラウンマッシュルームを取得しました!》


「……っ」

「?」

「あー、いやちょっと」


そういやこんな名前だった。

アイツの顔が出てくるだろ。


「あっ、大きいやつ見つけました!」

「取って良いぞ」


「ベアーキノコ? 熊みたいに大きいからですかね」

「……」

「ニシキさん?」

「あー、ははは。デカいな確かに。彼みたいだ」

「彼?」

「何でもない」


ここまで来ると奇跡だ。

思い返すと、生産職のフレンドも戦闘に力入れてるよな。ブラウンとかベアーとか。


そういう意味では、シルバーみたいに非戦闘で絡むフレンドは今は貴重かもしれない。

というか誰も居ないぞ……。

クマーとか誘ったら採取すごく捗りそうだな。

「採取なんかで呼ばないで」 って言われそうだが。彼女は多忙だからな。


「まだまだ取っていくぞシルバー。今日は独占だ。運が良い」

「は、はい!」


本当に……久しぶりだな、こういうの。



「はー……いっぱい採れました」

「おつかれ」


アレから小屋三つ回ってキノコ系アイテムを採取した。

現実と違い籠に大量の採取物が――という訳じゃなく、インベントリのカウントが増えているだけなんだが。

それでも達成感はある。


「? このフシギキノコって何ですか?」

「ああ、それ結構レアな素材だぞ。クエスト品じゃないが取引掲示板で高く売れる」


「はぇ~。食べたらどうなるんですか?」

「……試して良いぞ」

「えっ」

「一応、死にはしない」


紫色に光るそれを手に、彼女は考える。

やがて決心が付いた様で――


「……いただきます!」

「お、いった」


「あれ? この『混乱』って何です……わぁ!?」

「ははは」


そのキノコは、主に毒系の武器属性を付与するのに使われるらしい。

……って訳でプレイヤーが摂取すると、ランダムで状態異常が付与される。


彼女のそれは『混乱』。

身体が思う様に動かなくなる。前に進もうとしたら後ろにいったり、武器を振ろうとすれば自分に振ったり。


「助けて下さいよー! わー!!」

「そうは言ってもな」

「でも慣れたら不思議で楽しいかもー!!」

「だろ?」


笑ってそれを眺める。

このキノコのおかげ? か、彼女の表情は大分明るいものになっていた。


……さて。

問題は――俺達の周りに居る者共だ。

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