再会②
あの後のこと。
行商クエストを終わった後、止めようと思っていたこと。
だが一週間RLを辞めて、どうしてもプレイしたくなったこと。
ソレを話した。
ゆっくり、分かりやすい様に。
「……本当、なんですか?」
「ああ」
こうして自分の事を喋るのは新鮮だ。
今思えば、本当に奇跡の連続だったんだな。
不良についてはちょっとオブラートに包んで話した。引かれたくないし。
後は……黄金の一撃と、失ったゴールドの事も隠した。
きっと言えば彼女は悲しむだろう。
それにしても、あのコンビニの奴らが居なかったら、俺はここに居なかったのか。
それでも感謝はしてないぞ。
そういえばアイツらどうなったんだろ……。闇討ちとかされないよな。
「……」
未だに信じられない、そういった表情のシルバーにもう一度俺は言う。
「だから、一緒に遊ばないか。結構採取クエストとか好きだったんだよな」
「わ、私もです」
「そうか。良かった」
☆
《グリーンソルデに移動しました!》
納品クエスト。
特定のアイテムをNPCに納品することで、ゴールドと経験値……他アイテムなども貰える事もある。
そしてその納品クエの内、戦闘フィールドに存在する生物、植物を取得し納品するのが――『採取クエスト』。
それが一番豊富なのがココ、グリーンソルデだ。まあ見るからに緑が大量に生えてるし。
「じゃ、じゃあクエストを……」
「あー。クエは後で受けたら良いぞ」
「え?」
「クエストを受けようが受けまいが、取れるアイテムは変わらないからな。ある程度雑に採取して、対応するクエストを受けて即達成すれば無駄がない。余った分は翌日に繰り越せるし」
「……!」
ぽかーんと口を開けるシルバー。
餌を待つ小鳥みたいだ。
「天啓、です」
「大袈裟過ぎだろ……」
☆
「それじゃ、とりあえず奥の方に行くか」
「はい」
グリーンソルデを歩いて行く。
シルバーはまだぎこちないが、少しずつ口調がやわらかくなってるな。
あの時みたいに話してくれるのは何時になるか。
「……」
「あー、シルバーは何で始まりの街に?」
「スライムさんで、斧の練習をする為です」
「へえ。ココじゃ駄目なのか?」
「……駄目です」
「? そうか――お、着いた着いた」
緑を掻き分けて辿り着く。
その場所に。
《緑林の辺境に移動しました!》
そこは木々の無い開けた場所で……ボロボロになった木造の小屋がある。
「……? 何ですかここ」
「採取スポットの一つだな」
プレイヤーは……居ないな。珍しい、取り放題だ。
俺はその小屋の方向へ。
「採取って。植物なんて無いですよ?」
「まあ良いから。来たら分かる」
俺も最初はそうだった。
でも、採取出来るのは『緑』だけじゃないんだ。
「!! キノコ! キノコがいっぱい!」
「ははは、良い反応をどうも」
口を大きく開けて叫ぶシルバー。
その小屋には、至る所にソレが生えている。
コレの採取クエは結構ゴールド貰えるんだよな。
《ブラウンマッシュルームを取得しました!》
「……っ」
「?」
「あー、いやちょっと」
そういやこんな名前だった。
アイツの顔が出てくるだろ。
「あっ、大きいやつ見つけました!」
「取って良いぞ」
「ベアーキノコ? 熊みたいに大きいからですかね」
「……」
「ニシキさん?」
「あー、ははは。デカいな確かに。彼みたいだ」
「彼?」
「何でもない」
ここまで来ると奇跡だ。
思い返すと、生産職のフレンドも戦闘に力入れてるよな。ブラウンとかベアーとか。
そういう意味では、シルバーみたいに非戦闘で絡むフレンドは今は貴重かもしれない。
というか誰も居ないぞ……。
クマーとか誘ったら採取すごく捗りそうだな。
「採取なんかで呼ばないで」 って言われそうだが。彼女は多忙だからな。
「まだまだ取っていくぞシルバー。今日は独占だ。運が良い」
「は、はい!」
本当に……久しぶりだな、こういうの。
☆
「はー……いっぱい採れました」
「おつかれ」
アレから小屋三つ回ってキノコ系アイテムを採取した。
現実と違い籠に大量の採取物が――という訳じゃなく、インベントリのカウントが増えているだけなんだが。
それでも達成感はある。
「? このフシギキノコって何ですか?」
「ああ、それ結構レアな素材だぞ。クエスト品じゃないが取引掲示板で高く売れる」
「はぇ~。食べたらどうなるんですか?」
「……試して良いぞ」
「えっ」
「一応、死にはしない」
紫色に光るそれを手に、彼女は考える。
やがて決心が付いた様で――
「……いただきます!」
「お、いった」
「あれ? この『混乱』って何です……わぁ!?」
「ははは」
そのキノコは、主に毒系の武器属性を付与するのに使われるらしい。
……って訳でプレイヤーが摂取すると、ランダムで状態異常が付与される。
彼女のそれは『混乱』。
身体が思う様に動かなくなる。前に進もうとしたら後ろにいったり、武器を振ろうとすれば自分に振ったり。
「助けて下さいよー! わー!!」
「そうは言ってもな」
「でも慣れたら不思議で楽しいかもー!!」
「だろ?」
笑ってそれを眺める。
このキノコのおかげ? か、彼女の表情は大分明るいものになっていた。
……さて。
問題は――俺達の周りに居る者共だ。
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