再会③


「きのこ、いっぱいありすぎて大変です、嬉しい悲鳴ですね!」

「確かにな」

「私達本当にラッキーです!」


そう笑う彼女。

確かに幸運だ。でも、いくらなんでも出来過ぎなんだ。


ココに来た時に人がゼロなのはまだ分かる。

でも既に一時間ほど経った今、誰も来ないのはおかしい。


これは偶然じゃない。

『敵』が居る。



《??? LEVEL25》

《??? LEVEL22》

《??? LEVEL23》


小屋の中から、窓を通して覗く。

木々に隠れるその者共。


《??? LEVEL31》

《??? LEVEL29》


そして、更に東にある小屋の影。

見えていないだけで、恐らくもっと居る。


「ニシキさん?」

「ああすまん。ちょっと外出てくる、シルバーはそのまま続けてくれ」

「……? 分かりました」

「大した事じゃないから。悪いな、すぐ戻るよ」

「……ニシキさんっ!」

「え」


行こうとしたら、シルバーが手を掴んできた。


「……っ。あの時も、そうやって」

「!」


不意だった。

そういえば行商クエストで抜け出した時もこんな感じだったよな。


「大丈夫だから」

「……」

「前みたいに、『敵』が居ないか見るだけだ。俺はレベル49だし大丈夫」

「です、よね」

「ありがとう。シルバーはそのまま採取しててくれ。俺の分も」

「! はい」


「うん……じゃ、見てくるよ」


ごめんシルバー。

さあ、とっとと片付けよう。



「よっ……」


扉を開け、小屋から出る。


――「出てきたぞ」「アレが――」「どうするよ」――


突き刺さる視線。

だが、こちらへ向かってくるPK職は居なかった。


レベルも下だし、ただの様子見か――


「――『ウィンドショット』!」

「っ」


《Reflect!》


「――ぐッ!?」


そんな事は無いらしい。

飛んで来た矢を反射する――方向は。


《??? LEVEL33》

《??? LEVEL33》

《??? LEVEL32》


「ひっ」

「おい行くぞ、確定だ」

「仲間集めろ――」



「……?」


奴らは、その一矢だけで遠くに逃げる。

いや都合良くていいんだけど。


なんだったんだ。


「――ニシキさん」

「! どうした」

「……大丈夫ですか?」

「ん、ああ」


扉を開けて出てくるシルバー。ちょっとびっくりした。

彼女に伝えるべきか迷う。

周囲にPK職が居る事を。


「……」

「どうしました?」


インベントリを腰に抱え、彼女は俺を覗きこむ。

今――今は、黙っておこう。


彼女には、やっぱり不安になって欲しくない。

もし危害が及びそうになれば、『その時』だ。

一瞬でケリを付ける。その為の魂斧。


「シルバー」

「?」

「……いや、何でもない」



「私、こんな短時間でコレだけ採取出来たの初めてかもしれません」

「今日は『なぜか』独占だったしな。でも驚いたよ、シルバーは手際が良い」

「えへ~。そうですか~?」


キノコ小屋から非戦闘フィールドへ。

結構時間が経っていた。

その間にもPK職はウロウロしていたが、草陰に隠れるばかりで助かったよ。


「ほっくほくですね!」

「ああ。まだまだココには採取スポットがあるんだ」

「全く知りませんでした!」


……『ならまた行こうか』、そう言おうとして口を閉じる。


あの時――彼女と初めて組んだ日、俺はその台詞を言わなかった。

例えコレがゲームでも。

俺は、シルバーを置いて一人にしたんだ。


「ニシキさんって、本当に何でも知ってますね。凄いです。」

「……ん、買い被り過ぎ――」

「私――あの日、ニシキさんに会わない方が良かったです」

「!」


唐突なそれ。


……何でショックを受けてるんだ俺は。

分かってた事だろ。


「ニシキさんって酷いですよね」

「……ごめん」

「あの日から、私ずっとフレンド申請してたんです。一週間ぐらい。途中から諦めちゃいましたけど」

「……」

「……ニシキさん」


居たたまれない雰囲気だった。

突如と走り出した彼女は、俺に背を向けて立ち止まる。


「あの日も今日も――私、楽しかったです」

「えっ。じゃあ何で」


「だから酷いんです!」

「……?」


「だって。またニシキさん、しばらく会えなくなるんです。急に。あの時みたいに」

「!」

「そもそも私、レベルこんなんですし。戦闘も出来ませんし」

「……それは」

「お、王都? ならもっと色んなアイテムもあるんですよね? クエストの経験値も。楽しい事もそっちの方がいっぱいあるんですよね? ぶっちゃけ私も、さっきから申し訳なくて嫌なんです」


……ああ。

俺は何を躊躇してたんだ。


今までずっとそうだっただろ。

何も言わずに後悔するより、迷っているなら言うべきだと。


ハル、十六夜。二人の弟子。

今まで出会った人達が教えてくれた。

そしてそれはこれからも。


「だから、こんな私なんかに構わず――」


「今度は別の採取に行こうか。シルバー」

「へっ!? お話聞いてましたか」


「採取だけじゃない。まだまだ、RLには連れて行きたい場所が沢山ある」

「だっ、だから――」


「『俺が』、君と遊びたいんだ」

「!」

「貴重な商人仲間だ。当たり前だろ」


初クリアの行商クエスト。

彼女の笑顔を見れた時からそう思っていたはずなのに。

どうして自分は、この言葉をあの日に言えなかったのか。


「う……」

「?」


「わ、わー!」

「!?」


そのまま彼女は俺に背を向けたまま、見えてきた非戦闘エリアに走っていった。

元気だ。

置いていかれるぐらい。


「……無事に帰れて良かったな」


胸をなで下ろし、そう呟く。

何があっても良い様、常に左手に魂斧は持っていた。使う事が無くてよかった。


『あのっわ、私はもう! 時間なので落ちます』

『クエスト報告だけはするんだぞ』


『は、はい! そのっ、おやすみなさい!』

『ああ。おやすみ』

『おやすみなさいー!!』

『お、おやすみ」』


「……何で二回言った? って落ちてるし」


さっき言えば良かったのに、メッセージでそう報告する彼女。

見ればフレンド欄もオフラインになった。結局クエスト報告忘れてるじゃないか……。


まあ良いや。それは明日言えば良い。

で……彼女が居るなら、このまま帰る予定だったけど。



「丁度良いか」



さあ。

後ろの者共と話をしよう。

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