再会①


「そ、そんな」

「ん?」

「ニシキさんの貴重なお時間が」

「俺が遊びたいんだよ」

「で、でも」

「嫌なら――」

「い、嫌じゃありません……」


シルバーは分かりやすい。

さっき会った瞬間から、俺にどこか遠慮しているような。そんな感じだった。

最初に会った時とは全く違う――彼女らしくないその表情。


……もしかしたら、十六夜とかレンとかのおかげで察する力が上がってたり? いや調子に乗るのはやめとくか。

痛い目を見るのは俺だけじゃない、彼女もだから。


「ちなみに何で楽しくないんだ?」

「……」

「?」

「私が、ゲームへたくそだからです」

「下手って……具体的には?」

「身体、動かすの苦手で。戦闘が特に駄目で、このゲームに私、向いてません」

「!」


深刻そうに話すシルバー。

俺は、思わず笑ってしまった。


「な、何がおかしいんですか!」

「当たり前だろ。俺達商人だぞ」

「でも――ニシキさんは!」

「俺は戦闘が好きだ。だけどそれを知ったのは、大分後からだったよ」


それまではほとんど戦闘無しでRLを過ごしてた。当然ながら非戦闘でレベル上げもやってたっけ。


このゲームにはしっかりと、戦闘できないプレイヤーへの配慮もある。

王都に行くにはボスを倒さなきゃならないけどな……。


「嘘つきさんです!」

「嘘じゃないぞ」

「じゃっ、じゃあ! なんで行商クエストの時! PK職さん二人に……」

「え」


叫ぶ様に言うシルバー。


知ってたのか? あの時?

いや違う。それならあんな反応をする訳がない。きっと『その後』だ。


「……」

「……」


沈黙。


「あの時は……まだだったんだ」

「……」


「俺はただ、PK職に君の存在を知って欲しくなくて、それで一人で行ったんだ」

「どうして私に、黙ってたんですか」


「っ……俺はあの日、ゲームを辞めるつもりだった。最後のクエストにするつもりだった」

「! り、理由になってません」


「……ごめん。確かに滅茶苦茶だな」


結構な前の事だった。

それでも――まるで昨日の事の様に思い出せる。


あの時の俺は、何を感じていたのかを。



「君には笑っていて欲しかったんだ」

「……!」

「『奴ら』の存在なんて気にせず――シルバーにはクエストを楽しんで欲しかった。『それ』について触れなかったのは、本当にごめん。自分勝手なワガママだ」


「……ただのゲームですよ。なのに。どうしてそこまで私に」

「そりゃ、現実じゃ『行商クエスト』なんてないだろ」

「それは……」


今でこそチーフのおかげもあって現実も捨てたもんじゃないけど。

ぶっちゃけ、あの時はRLに逃げてたからな。


現実よりもゲーム。悲しいけれどそういう人間だった。

そのRLにすら嫌われていた気がするけれども。


「もう良いか?」

「えっと、えっと……じゃあ! なんで最後だったのにまだ遊んでるんですか!」


「え、そんなのどうでも」

「知りたいんです」

「……何も面白くないぞ」

「それでもです!」


どうやらシルバーはかなりの知りたがりらしい。疑い深いと言うべきか。

こうなったらとことん付き合おう。

別に隠すモノじゃない。



……あ。

って事は、不良に喧嘩売った事を話さなきゃ駄目なのか……。

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