ドク③
《第15ウェーブをクリア》
《三十秒後、次のウェーブに入ります》
《失ったHPとMPを回復します》
「……はっ! お、終わってましたぁ……」
流れに身を任せ、ゴブリンを倒していって。
気付けばもう5ウェーブが経っていました。
《残留を確認》
《第16ウェーブを開始します》
《制限時間は十分です》
《ハイゴブリンシャーマン LEVEL40》
《ハイゴブリンシャーマン LEVEL40》
《ハイゴブリンソルジャー LEVEL40》
《ハイゴブリンソルジャー LEVEL40》
《ハイゴブリンアーチャー LEVEL40》
《ハイゴブリンアーチャー LEVEL40》
「わあ、ついに全部ハイになっちゃいましたねぇ……『瞑想』、『気功術』」
ここまで集中したのは、本当に人生で初めてかもしれません。初がゲームってのも締まりませんが――何にせよドクは幸せです。
「『ヘビィスウィング』」
『ギャ!?……』
「『クラッシュ』」
《経験値を取得しました》
それは、脳が疲れた証拠でしょうか。
ハイゴブリンシャーマンを何時も通り倒していると、忘れていた過去の事が現れてきます。
忘れたい……何者でもない声。
《――「『春風伊吹』、またテスト学年一位だ」――》
《――「あの子いつも全力って感じだよね」――》
《――「手上げるの大体彼女だし、授業態度良すぎて引く」――》
《――「比べられる私達の身にもなってほしいよね」――》
ドクのパパは、おっきな病院の院長さんです。
そして小さな頃からパパに憧れて、同じ道を進もうと決めていました。
たくさんの人を医療の力で助けて――人の為に役に立ちたかったんです。
でも立派なお医者さんになるには、一杯頑張らないといけません。テストの成績だけじゃなく……日々の授業も、全てにおいて。
だからドクはがむしゃらに頑張りました。
小学生、中学生、今の高校――でもどうしてか、周りの視線は冷たかったんです。お友達もできませんでした。頑張ってるのに、皆ドクを避けていくんです。
そんな中で――本気で行動する事が。自分を出す事が怖くなりました。
☆
「――っ『溜竜蹴』!」
《経験値を取得しました》
《経験値を取得しました》
《経験値を取得しました》
《第17ウェーブをクリア》
《三十秒後、次のウェーブに入ります》
《失ったHPとMPを回復します》
「……ふぅう……」
息を吐きます。
過去の声を掻き消す様に、戦闘に入れ込みまして。
《――「『春風』さん?この前病院で見たけど大丈夫?」――》
《――「……へぇ!? い、いや、ドクはパパと一緒に居ただけです」――》
《――「あ――って事はあの院長さんの娘さん?えへへ、似てないね!」――》
《――「ふっふふ、パパと比べないで下さいよぉ」――》
そんな中、二年のクラス替えの後出会ったのが『千石銀』さんでした。
ドクなんか比べ物にならないぐらい可愛くて、気品もあって。
あれだけ出来なかった、お友達にすぐなってくれました。
そして、ドクは彼女を失いたくなくて。やがて仲良くなったレンちゃんも同じ様に思って。一人になりたくなくて。
日常の――彼女達の見える所では、あまり自分を出さなくしていきました。授業態度も控えめに。流石にテストは力を入れましたけど……。
……やがて時間も経って。
力をセーブするのが、当たり前になっていって。
そして本気を出す事を――自分を徐々に忘れてしまっていってしまいました。
RLをやるようになっても、それは何も変わらず。
ゲームの役割である回復と盾――それ以上の事は彼女達の足を引っ張ってしまうと思って、何より嫌われたくなくて、ロールに専念しました。
手を抜いているわけではありませんが、
その役目をしっかり行っていれば、必要とされると思ったからです。
《残留を確認》
《第18ウェーブを開始します》
《制限時間は十分です》
☆
「『溜撃』」
「ギャ……」
《経験値を取得しました》
《第18ウェーブをクリア》
《三十秒後、次のウェーブに入ります》
《失ったHPとMPを回復します》
「……」
そこから、銀ちゃんが急な事情であまりログインできなくなって。彼女がよく話していた『行商クエスト』の為に……レンちゃんと対人戦闘を頑張ろうって事になって。
それでもドクは、未だに闘う事に抵抗がありました。
というよりも――心の奥底でセーブが掛かって、身体が動いてくれなかった。
レンちゃんが居る時は彼女を守る事だけ考えて、それはニシキさんの言う様動きがぎこちないと自分自身が感じていて。
でも――これが正解だと思っていたんです。
《――「――レンはもう、君が居なくても大丈夫なんだ」――》
昨日。
そうニシキ先生に言われた時は、もう頭が真っ白です。
ゲームの中とはいえ。ドクが信じていた事は全て間違いだと言われた気分になりました。
そしてそれは正論で――もう、どうしていいか分からなくなって。
《――「はは。重すぎるぞ、ドク」――》
《――「良い言葉を教えてやる、これは『ゲーム』だ」――》
《――「要は『楽しんだ者勝ち』なんだよ。守るとか守らないとか関係なくな」――》
思い出す台詞。
それがドクの中にスッと入っていったのは。
先生は実はドクを、少しずつ、少しずつ『昔』の自分に戻してくれていっていたからなんです。
……最初。レンちゃんに連れられて、彼に会って、翌日PKKを見せてもらってから。
《――「そして最後に――例えこんな『雑魚共』でも。油断に、容赦だけはするんじゃない」――》
それは、ドクに見せる為だったのかもしれません。
でも先生が、あらゆる手でPK職達を倒していくところを見せてくれた時――何かこみ上げるモノがあったんです。
《――「ブラウンは強かったな……何をやっても効いてない気がしたよ。体力は間違いなく減ってるんだけどな。寧ろ強くなっていくような感覚だった」――》
《――「は、はえぇ。そんなの、諦めてしまいませんか?」――》
《――「いいや。それだけ強い相手ならこっちも全力で応えたいだろ」――》
先生のお話を聞いている時も。
沸々と――忘れていた何かを、思い出していく様な感覚が続いて。
《――「ドクちゃんこれ。ニシキさんから……」――》
《――「へぇえ!? 何ですかこの書類の束は!」――》
《――「あはは、ニシキさんのPK職対策ノートだって。暇がある時一緒に読もうね」――》
レンちゃんから渡された、何十ページもあるそのノートを見た時もそうでした。
見やすくて、分かりやすく纏められたそれは――ゲームの為のモノとは思えなかった。
そして気付いたんです。
ニシキ先生こそ、RLを誰よりも『本気』でプレイしているんだって。
そんな先生を見て、ドクは影響されていったんだって。
2人を守る為なんて理由を付けて――自分の持つ力を出さないのは間違っているんだって。
……ふふ、先生の言う様ドクは考えが重すぎるかもしれませんね。
《――「こんなものか?ドク」――》
《――「言っただろ、まだ『後ろ』を気にしてるぞ」――》
《――「大分良い顔になってきたな」――》
そして昨日。
先生は――ドクを完全に変えてくれました。
あの決闘中、初めて『本気』で闘う事が出来たと思います。
闘っている時――どんどんと、本当の自分に戻っていっている気がして。
楽しくて仕方が無くて。
無我夢中で身体を動かしていました。
《――《ニシキ様との決闘に勝利しました》――》
《――「はは、完敗だ。ドク」――》
そのアナウンスが聞こえた時は――もう、嫌な自分は消えていて。残ったのは、先生への感謝と……『強さ』への願望でした。
《第18ウェーブをクリア》
《三十秒後、次のウェーブに入ります》
《失ったHPとMPを回復します》
「……本当に、ありがとうございます」
☆
「『トルネードレッグ』」
『『ギャ……』』
《経験値を取得しました》
《経験値を取得しました》
そして今。
ドクは――アレから変わらず、本当に楽しくて仕方がありません。
先生は彼の闘い方を汚いと言っていましたが、自分は逆だと思っています。
勝利への貪欲さが見える彼の闘い方は、ドクは凄く純粋で、綺麗で好きなんです。
そしてそんな先生の『手』を教われている自分は、凄く幸せなんだって。
「――『ウィンドナックル』」
『ギギャァ!?』
「……だから」
《――「もっと強くなってくれ、俺を倒すぐらいにな」――》
笑って言ったニシキ先生の台詞。
「ドク、『本気』にしちゃいますよ」
それにドクも、笑って返す。
ゴブリン溢れる森の中。
まもなく――このクエストも、終わってしまうので。
「――『溜竜蹴』!」
《経験値を取得しました》
《経験値を取得しました》
《経験値を取得しました》
《経験値を取得しました》
《経験値を取得しました》
《経験値を取得しました》
「……先生。いつか」
「どんな『手』を、使ってでも」
「ドクは――貴方を倒してみせます!」
その声は、何者も居なくなった森の中に響いていきました。
……ふふっ、流石に恥ずかしいので直接は言えないですねぇ。
《第30ウェーブをクリア》
《三十秒後、次のウェーブに入ります》
《失ったHPとMPを回復します》
《プレイの制限時間を超えました》
《強制的にログアウトされます》
《 《 《ドク様が、ソロで『餓鬼王からの挑戦状』の第30ウェーブをクリアしました!》 》 》
《貴方の最大達成ウェーブ数は30です》
《『餓鬼王からの招待状』クエストの受注条件の一つを達成しました》
《ログアウトします》
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