ドク②
☆
《警告!更なる餓鬼の軍勢が近付いてきます!》
《このウェーブをクリアすると報酬が獲得できます!》
《第10ウェーブを開始します》
《制限時間は十分です》
「ふう、ようやくここまで来たぁ……」
息を付きます。
正直、ニシキ先生に最初このクエストをクリアしろって言われた時は無理だと思ってました。
でも――今のドクなら。
「……なんて、余裕言ってたら失敗しちゃいますねぇ。ふぅー」
暑いVRの自分の身体。
思考を落ち着けるべく深呼吸。
《ハイゴブリン LEVEL40》
《ハイゴブリン LEVEL40》
《ハイゴブリン LEVEL40》
《ハイゴブリン LEVEL40》
《ハイゴブリン LEVEL40》
《ハイゴブリン LEVEL40》
《ハイゴブリン LEVEL40》
《ハイゴブリン LEVEL40》
《ハイゴブリン LEVEL40》
《ハイゴブリン LEVEL40》
《ハイゴブリン LEVEL40》
《ハイゴブリン LEVEL40》
《ハイゴブリン LEVEL40》
《ハイゴブリン LEVEL40》
《ハイゴブリン LEVEL40》
《ゴブリンシャーマン LEVEL35》
《ゴブリンシャーマン LEVEL35》
「ふふっ、多いですね……でもいつも通りやりますよぉ」
圧倒するようなモンスター名にも、何だか慣れて来ちゃいました。
ドクはまた隠密にて、シャーマンの方へ向かっていきます。
☆
『ギャギャギャ!!』『ギャギャ!』『ギャ――』
「ぐっ――『溜撃』!」
『ギャ……』
《経験値を取得しました》
シャーマン二体はサクッと倒して、ハイゴブリンの渦中へ。
時間制限もあるし体力も多そうな敵なので――隠密はもう解きました。
『ギャ!』
「うっ――ふふ、ゾクゾクしますねぇ!っと!」
『ギャギャ――』
「『神の息吹』!」
それは、HP・MPの回復に加え、全ステータスも数秒上がる便利な僧侶専用スキル!(リキャストは長いんですけど)。
攻撃が成功すると、僧侶のパッシブスキルである『錬気』スキルでHPとMPが回復するのでコレまでのウェーブではほぼ回復はしていませんでした。
しかしハイゴブリンは連携も上手く、ステータスだけのモンスターではなかったです。
ゴブリン達の攻撃を完全に回避するのは不可能でした。
ウェーブ10で初めて使わされましたが――
「――『トルネードレッグ』!」
『ギャ!?……』
『ギャ……』
『ギャギャ!?』
《経験値を取得しました》
《経験値を取得しました》
円周上の蹴り、ゴブリン達の攻撃後の隙を容赦なく狙いまして二体はお陀仏です!
これで残り十体、時間だけなら――
『「『――ギャ……!』」』
そう思ったのも束の間。
追撃しようとしたのに、ゴブリン達は何故かドクから逃げていきます。
「『バレットパンチ』!」
「ギャ……ギャ!」
「?何を――!」
バレットパンチで逃げる背中に追撃しましたが、反応せずそのまま走っていってしまいました。
そして見えたのは、ドクを取り囲むハイゴブリン達の姿。
『「『ギャ……!』」』
こんな行動は初めてでした。
来ても同時に攻撃するのは三体までだったから。
十体なら――『逃げ場』がない。
どうする?追って追撃を?
「……それじゃ背後を刺されちゃう」
「『ギャ――!!』」
「!」
攻めるにも攻められない。
思考がまとまる前に、ゴブリン達は囲むようこちらへ走ってくる。
だめ。
まともに立ち向かっても死にはしないけれど――『その後』が怖い。
『神の息吹』もリキャストはまだまだあるし、ポーションを使う余裕なんて持たせてくれない。
『「『ギャ――』」』
「――『跳躍』!」
寸でで迫るハイゴブリンの斧から、そのスキルで逃れました。
『跳躍』……ハイゴブリンの頭上を余裕で通り過ぎる程のジャンプ力を得る事が出来るスキル。連続使用は出来ませんが、回避に便利なスキルです。
ですが――そのゴブリン達の『圧』に、ドクは知らずのうちに押されていたみたいでした。
跳躍スキルは、発動後『溜める』事によってジャンプ上昇量が調整できます。
「た、高すぎ!これじゃ――」
ドクは、溜めすぎてしまいました。
ゴブリンの頭上より遥か上に跳んでしまい、明らかにオーバーなジャンプ。
『跳躍』の副作用。高く跳び過ぎると着地時に――
《状態異常:『移動不可』となりました》
「――きゃっ、ふふ……ドジっちゃいましたね」
『「『ギャ……!』」』
ゆっくりと迫るゴブリン十体。
動かない足は、僧侶のスキル『神の加護』により治せるからあまり実は問題ないんです。
でもドクは――それをしたくありません。
「……ニシキ先生なら、きっとここから勝てますもんね」
あの人は、ドクが聞いている限りでは壮絶な戦闘ばかりしていました。
動けなくなるのは序の口で……武器が使えなくなったり、全く見えない相手だったり、五人に囲まれたり。
一番の苦戦が、同じ生産職の方との戦闘と聞いたのは驚きましたけどねぇ。
そして先生は――その『逆境』のお陰であそこまで強くなったと思うんです。
「――んっ」
《状態異常:毒となりました》
ドクは攻勢の毒薬を服用。
体力は残り半分――じわじわと体力が減っていきます。
加えて移動不可。
ニシキ先生のとまではいかないですが、コレは自分にとって紛れも無い『逆境』。
「『気功術』――」
バフを掛けて、同時に集中を高めます。
もっと、この精神を研ぎ澄ませる。
もっと心の深くまで。
今ならもっと行ける気がする。
目を瞑って。
息を吸って吐いて。
響いてくる鼓動が、心地良くなってきて。
「――」
整って後、前を見る。
やがて――寸でで迫るゴブリン達。
『ギャ――』
「――あれ?」
それは不思議な経験でした。
ゴブリン、斧を振りかぶるそのモーションが。
やけに遅く感じて。
自分の身体が、勝手にさっきのイメージ通りに動いていく。
「『ウィンドナックル』」
『ギャ……』
『『ギャ!!』』
「『ツインキック』」
『ギャ……』
『ギャギャ……』
《経験値を取得しました》
《経験値を取得しました》
《経験値を取得しました》
全て見えるその動き……対処は余裕でした。
まずは迫る一匹へ拳を一発。
その後の二匹の攻撃を屈んで躱し、上段への蹴り二連打を二体へヒット。
「――とっ!」
『ギャ!? ギャ……』
『ギャギャ――!』
「ふふっ、やあ! っと――『ウィンドナックル』!」
右拳に握った麻痺毒をハイゴブリンに掛けて、麻痺したそれの首を左で掴み迫っていたもう一匹の攻撃の『盾』へ。
背後に居たもう一匹の攻撃も空いた右の武技で反撃。
思考が全て戦闘の為に費やされ、身体はそれに応えてくれる。
『今』が、楽しくて仕方ありません。
『「『ギャ――!』」』
これで――被弾なしのまま、連続で五回の攻撃が成功。
迫る者共。
それにドクは、目を瞑って――次の動作のイメージを一瞬で完成させていきます。
タイミングは1秒後。
構え。
スキルの軌道は円周上へ。
己の身体へ命令する。
――蹴り伏せて。
この、者共を――
「――『溜竜蹴』!」
放つ。
連撃スキル――五回の蓄積で発動できる特殊な武技。
思考と身体がリンクする感覚。
《経験値を取得しました》
《経験値を取得しました》
《経験値を取得しました》
《経験値を取得しました》
《経験値を取得しました》
その武技は溜撃とは異なり、トルネードレッグと同じく周囲を攻撃できる『範囲攻撃』の蹴り。
当然威力も折り紙付きです。
放ったそれは迫っていたゴブリンを一掃しました。
狙い通りの軌道ピッタリに、それがすっごく気持ちよくて。
後はもう――消化試合。
☆
《第10ウェーブをクリア》
《失ったHPとMPを回復します》
《状態異常:毒が回復しました》
《レベルが上がりました》
《餓鬼王からの挑戦状をクリアしました!》
《報酬として経験値を取得しました》
《レベルが上がりました》
《餓鬼王の印を取得しました》
《称号: 餓鬼王から認められし者を取得しました》
《クリア後退出を選択しない場合次ウェーブが開始されます》
《なお、次ウェーブからは報酬が得られません》
《続けますか?》
「ふぅ……こんなの、初めて……なに、これ……?」
あの逆境に追い込まれてから――ドクの身体はおかしいです。
にわかには信じれませんが……今自分は、『ゾーン』に入っているのでしょうか。
ドクはスポーツ選手じゃありません。でも――この体感は、文献でみたそれにそっくりで。
溢れるこの幸福感も、きっとそう。
「っふふ、たまりませんねぇ」
その感覚を、ドクはもっと感じていたくて。
当然の様にそれを手で選んでいました。
《継続が選択されました》
□
ドクのスキルとか
『格闘武技』
『ウィンドナックル』――そのままパンチ。
『ツインキック』――二連蹴り。
『トルネードレッグ』――周囲への蹴り。
『バレットパンチ』――中距離に拳の気弾を飛ばす。
『シラハドリ』――近接武技の無効化。
『神の加護』
自分または味方一人を対象に状態異常軽減効果、自身なら状態異常無効化
『神の息吹』
自分または味方一人を対象にHP、MP回復。
自身なら更に全ステータス上昇
『錬気』
ダメージを与えた時、HPとMPが微量に回復する。
『連撃』
スキルによる攻撃が当たるにつれ効果アップ
攻撃が外れるとリセット
1:AGIとSTR上昇
3:大ダメージを与える一撃『溜拳』を使用できる。このスキルはラッシュが溜まるとその分威力が向上。
5:大ダメージを与える範囲攻撃『溜竜脚』を使用できる。
7:三秒間無敵になる。
10:一定時間、格闘武技をクールタイム無しで使用できる。
『気功術』
一秒間の硬直。その後AGIとSTR上昇。次の武技威力の一撃を高める
『跳躍』――『ハイジャンプ』
1-3秒の溜め時間の後、大きくジャンプできる。ジャンプ高度によっては着地時にダメージを受け、『移動不可』となる。リキャストは3分。
『隠密』
『瞑想』
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