閑話・錦の休日
透明少女の身繕い①
《RLショップへ移動します》
《RLショップへようこそ!》
《ここでは、ポイントを使ってアイテムや特殊衣装のレシピを購入できます》
「わ、わ……ここ初めて入ったよ、ニシキ……」
「結構豪勢だろ」
今日は日曜日。
十六夜との約束の日であり、俺達はまずRLショップへと足を運んでいた。
彼女の髪飾りを探しに――とのことだったが、本当に種類が多くてびっくりする。
流石課金要素なだけあるよ。
「まずはココである程度のデザインを絞ってからだな」
「分かった……ありがとね、ニシキ」
「はは、礼を言うのは早すぎるって」
色々と手に取ったり眺めたりする十六夜。
やはり女の子なだけあって、こういう可愛いものには興味があるんだな。
普段の装備じゃ暗殺者だから地味なものしか着れないだろうし。
こういう小さなワンポイントに拘るのも分かる気がするな。
「……俺はまあ、別に良いか」
彼女を眺めるだけってのもあれだし、俺も適当にアクセサリーとかを見てみるが。
どう頑張っても似合う気がしないから止めた。
兄さんみたいに華やかさが無いんだよな、自分には。
隠密の邪魔にならない様仕方が無い、そういうことにしておこうか。
☆
「うん、大体決まったよ……」
「そっか。結構悩んだな」
「こ、こういうの慣れてなくて」
30分程悩んで、十六夜は顔を上げた。
俺への相談とかは全く無かった為、一体どんなモノなのか見当も付かない。
彼女なりに秘密にしたかったんだろう。完成した後、身に着けるから隠す意味はあまりないと思うが。
「別に良いって――じゃ、アイツに依頼しなきゃな」
時刻は夜7時前。
予め言っていたぐらいの時間で良かったよ。
『お疲れブラウン。今から行って良いか?』
『おっ予定通りじゃん、オッケ~』
『ありがとう。んじゃ後で』
「大丈夫みたいだ。それじゃ――はは、依頼する人は信用できる奴だよ」
「……う、うん」
「ちょっと派手だけどな」
「……!」
見た目で人を判断するな――本当にその通りだと思う。
ブラウンは全てを任せても良い安心感があるんだよな。
……あんまり褒めると調子に乗りそうだが。
☆
「……」
「はえー、キミがニシキっちの言ってたコか~強そ~」
「実際強いぞ」
「っ、もう……」
アレから十六夜を連れブラウンの元へ。
今回も工房ではなく街での待ち合わせだ。
彼女とブラウンが並ぶと、なにか凄く対照的に見える。
実際色々真逆だろうし……対人戦が強いってのは共通点だけどな。
女性に強いなんて誉め言葉は適切か分からないが、十六夜はまんざらでもない様子だった。
「……こんな感じので、お願い……」
「おん! アレこんなに控えめなので良いの?」
「う、うん……」
「オッケー、それじゃ百万Gも要らなかったなー」
「っ、ひゃ、百万……?」
「アレ聞いてない?ニシキっちからもう代金預かってんだけど」
「ああそうだった、お礼もあるし十六夜は払わなくていいぞ」
「え……でも――」
「――ははッ、何たってこのヒト商人さんだから金持ってんの……ね?」
「そうそう。気にしなくて良いからな」
「い、いいの……?」
「ああ。寧ろコレまでの事を考えれば安いぐらいだって」
肩を叩くブラウン。
ぶっちゃけゴールドはいつもカツカツだが……今はそう言った方が十六夜に気を遣わせなくて済む。
彼の事だから機転を利かせてくれたんだろう。
「……余ったゴールドはチップにでも取っておいてくれ」
「りょーかい!」
だが利かせて貰いっぱなしは悔しいからそう言った。
……もったいないなんて思ってない、多分。
「それじゃ早速取り掛かるよ~コレだったらもうスグに……」
「……!」
「……っと違うな、もうちょっと掛かるかあ~。それじゃ出来るまで適当に街ぶらついといて!」
「……ど、どうも……」
「? あ、ああ」
十六夜を見て、ブラウンが明らかに言い直していた気がしたが――よく分からない。
意外と難しいモノだった……とか?
「ははッ行ってら~。あ、完成したらメールでイザヨっちに送るから戻ってこなくて良いよ」
「分かった、色々ありがとうな」
「あ、ありがと……」
「おん! それじゃごゆっくり~」
「……い、行こっか。ニシキ」
「ああ。それじゃあなブラウン」
何故か安心したような十六夜。
まあ良いか。後日ブラウンにはしっかりお礼をしないとな。
「――頑張りなよ~ニシキッち」
背中に掛かる声。
何だか分からないが、応援してくれてるし。
☆
《――「どうする?また喫茶店でも入るか?」――》
《――「きょ、今日はちょっと歩いてたいかも……」――》
十六夜がそう言って、アレから十数分。
彼女はどこかそわそわとしていた。
「……」
「十六夜?」
「……」
歩きながら、終始そんな様子の彼女。
緊張している様な、何かに怯えている様な。
「この後どうする~?」
「今日人多いからボス空いて無いだろうなー」
「ダンジョン行こうぜ!」
「そういや今日は日曜日か。九時からアレだっけ?」
「ああそうだった。展望台人多そ~」
そしてそれに反し、街行くプレイヤーは特に多く感じる。
日曜日というのもあるし――この時間というのもあるだろう。
それが一層、彼女に不安を与えている気がした。
「十六夜?」
「……」
「十六夜――大丈夫か?」
「……あ、う、うん。ごめんね……っ!」
「どうした?」
「と、とどいたみたい……」
その小さな、震えた声は――純粋な喜びのモノでは無かった。
なんとなく分かるんだ。
恐らく十六夜は、それを着けるのにどうしても抵抗があるんだろう。
実際に今手にして戸惑っている、そんな風に見える。
……どうしよう。
こういう時、どう声を掛けるべきか。
「……デッドゾーン前なら人も居ないしどうだ?」
「……あ、う……」
こんな時。
人の居ないあの場所は便利だった。
……でも。
彼女の顔は、ずっと曇ったままで。背を向けたままで。
チラッと俺の顔を見る十六夜は――白い頬が、真赤になっていて。
「ね、ね……ニシキ……」
「やっぱり、わたし、だめ……」
「ほんとにごめん、なさい……めんどうで、ごめんなさい……『霊化』」
消え入りそうな声。
髪留めらしきモノを握り込んで――彼女は、そのスキルを発動していた。
俺の身体を通り抜ける十六夜。
髪に隠れたその瞳は、最初の様に輝いては居なかった。
「十六夜!? どこに――」
そのスキルを発動しても、『いつもの』彼女なら余裕で見つけられるはずだった。
何となく見つけて欲しいって感じが現れているから。
でも……先程の十六夜は。
まるで『見つけて欲しくない』――そう思っている様に空間に消えていったのだ。
それはデッドゾーンで闘った時より、更に空気へと溶け込む様で。
たった三秒間――瞬く間に彼女の場所が分からなくなってしまった。
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