閑話・錦の休日

透明少女の身繕い①


《RLショップへ移動します》


《RLショップへようこそ!》


《ここでは、ポイントを使ってアイテムや特殊衣装のレシピを購入できます》



「わ、わ……ここ初めて入ったよ、ニシキ……」


「結構豪勢だろ」



今日は日曜日。

十六夜との約束の日であり、俺達はまずRLショップへと足を運んでいた。


彼女の髪飾りを探しに――とのことだったが、本当に種類が多くてびっくりする。

流石課金要素なだけあるよ。



「まずはココである程度のデザインを絞ってからだな」


「分かった……ありがとね、ニシキ」


「はは、礼を言うのは早すぎるって」



色々と手に取ったり眺めたりする十六夜。

やはり女の子なだけあって、こういう可愛いものには興味があるんだな。

普段の装備じゃ暗殺者だから地味なものしか着れないだろうし。

こういう小さなワンポイントに拘るのも分かる気がするな。



「……俺はまあ、別に良いか」



彼女を眺めるだけってのもあれだし、俺も適当にアクセサリーとかを見てみるが。

どう頑張っても似合う気がしないから止めた。

兄さんみたいに華やかさが無いんだよな、自分には。

隠密の邪魔にならない様仕方が無い、そういうことにしておこうか。





「うん、大体決まったよ……」


「そっか。結構悩んだな」


「こ、こういうの慣れてなくて」



30分程悩んで、十六夜は顔を上げた。

俺への相談とかは全く無かった為、一体どんなモノなのか見当も付かない。


彼女なりに秘密にしたかったんだろう。完成した後、身に着けるから隠す意味はあまりないと思うが。



「別に良いって――じゃ、アイツに依頼しなきゃな」



時刻は夜7時前。

予め言っていたぐらいの時間で良かったよ。



『お疲れブラウン。今から行って良いか?』


『おっ予定通りじゃん、オッケ~』


『ありがとう。んじゃ後で』



「大丈夫みたいだ。それじゃ――はは、依頼する人は信用できる奴だよ」


「……う、うん」


「ちょっと派手だけどな」


「……!」



見た目で人を判断するな――本当にその通りだと思う。


ブラウンは全てを任せても良い安心感があるんだよな。

……あんまり褒めると調子に乗りそうだが。





「……」

「はえー、キミがニシキっちの言ってたコか~強そ~」


「実際強いぞ」

「っ、もう……」



アレから十六夜を連れブラウンの元へ。

今回も工房ではなく街での待ち合わせだ。


彼女とブラウンが並ぶと、なにか凄く対照的に見える。

実際色々真逆だろうし……対人戦が強いってのは共通点だけどな。


女性に強いなんて誉め言葉は適切か分からないが、十六夜はまんざらでもない様子だった。



「……こんな感じので、お願い……」

「おん! アレこんなに控えめなので良いの?」


「う、うん……」

「オッケー、それじゃ百万Gも要らなかったなー」


「っ、ひゃ、百万……?」

「アレ聞いてない?ニシキっちからもう代金預かってんだけど」


「ああそうだった、お礼もあるし十六夜は払わなくていいぞ」


「え……でも――」

「――ははッ、何たってこのヒト商人さんだから金持ってんの……ね?」


「そうそう。気にしなくて良いからな」


「い、いいの……?」


「ああ。寧ろコレまでの事を考えれば安いぐらいだって」



肩を叩くブラウン。

ぶっちゃけゴールドはいつもカツカツだが……今はそう言った方が十六夜に気を遣わせなくて済む。

彼の事だから機転を利かせてくれたんだろう。



「……余ったゴールドはチップにでも取っておいてくれ」


「りょーかい!」



だが利かせて貰いっぱなしは悔しいからそう言った。

……もったいないなんて思ってない、多分。



「それじゃ早速取り掛かるよ~コレだったらもうスグに……」

「……!」


「……っと違うな、もうちょっと掛かるかあ~。それじゃ出来るまで適当に街ぶらついといて!」

「……ど、どうも……」


「? あ、ああ」



十六夜を見て、ブラウンが明らかに言い直していた気がしたが――よく分からない。

意外と難しいモノだった……とか?



「ははッ行ってら~。あ、完成したらメールでイザヨっちに送るから戻ってこなくて良いよ」


「分かった、色々ありがとうな」

「あ、ありがと……」


「おん! それじゃごゆっくり~」


「……い、行こっか。ニシキ」

「ああ。それじゃあなブラウン」



何故か安心したような十六夜。

まあ良いか。後日ブラウンにはしっかりお礼をしないとな。



「――頑張りなよ~ニシキッち」



背中に掛かる声。

何だか分からないが、応援してくれてるし。





《――「どうする?また喫茶店でも入るか?」――》

《――「きょ、今日はちょっと歩いてたいかも……」――》



十六夜がそう言って、アレから十数分。

彼女はどこかそわそわとしていた。



「……」


「十六夜?」


「……」



歩きながら、終始そんな様子の彼女。

緊張している様な、何かに怯えている様な。



「この後どうする~?」

「今日人多いからボス空いて無いだろうなー」

「ダンジョン行こうぜ!」

「そういや今日は日曜日か。九時からアレだっけ?」

「ああそうだった。展望台人多そ~」



そしてそれに反し、街行くプレイヤーは特に多く感じる。


日曜日というのもあるし――この時間というのもあるだろう。

それが一層、彼女に不安を与えている気がした。



「十六夜?」


「……」


「十六夜――大丈夫か?」


「……あ、う、うん。ごめんね……っ!」


「どうした?」


「と、とどいたみたい……」



その小さな、震えた声は――純粋な喜びのモノでは無かった。


なんとなく分かるんだ。

恐らく十六夜は、それを着けるのにどうしても抵抗があるんだろう。

実際に今手にして戸惑っている、そんな風に見える。


……どうしよう。

こういう時、どう声を掛けるべきか。



「……デッドゾーン前なら人も居ないしどうだ?」


「……あ、う……」



こんな時。

人の居ないあの場所は便利だった。


……でも。

彼女の顔は、ずっと曇ったままで。背を向けたままで。


チラッと俺の顔を見る十六夜は――白い頬が、真赤になっていて。



「ね、ね……ニシキ……」

「やっぱり、わたし、だめ……」

「ほんとにごめん、なさい……めんどうで、ごめんなさい……『霊化』」



消え入りそうな声。

髪留めらしきモノを握り込んで――彼女は、そのスキルを発動していた。


俺の身体を通り抜ける十六夜。

髪に隠れたその瞳は、最初の様に輝いては居なかった。



「十六夜!? どこに――」



そのスキルを発動しても、『いつもの』彼女なら余裕で見つけられるはずだった。

何となく見つけて欲しいって感じが現れているから。


でも……先程の十六夜は。

まるで『見つけて欲しくない』――そう思っている様に空間に消えていったのだ。

それはデッドゾーンで闘った時より、更に空気へと溶け込む様で。



たった三秒間――瞬く間に彼女の場所が分からなくなってしまった。

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