エピローグ:黄金の道



「……」


「り、リーダー?」

「あーごめんちょっと話してくる」


「え」

「まさかニシキに」

「教えるのか? この商人スレの事とか――」

「おーい!」

「行っちゃった……」



一号達からは離れ、俺は人の居ない――出来るだけ静かな場所に移動する。


《――「商人ならシルクロードとか憧れるよなぁ。RLにもあるんかな」――》

《――「ははは、アレ何千キロあると思ってるんだ?」――》

《――「うう……昔の人はスゲーよ、行商クエ一つ出来ない俺達には遠すぎる」――》


……そうそう、ここの商人NPCの居る所とか人少ないもんな。

昔は二人でよく笑ったもんだ。楽しかったよな、あの時も。




「……」



『メニュー』、『フレンド一覧』。

その名前をタップ。



《ニシキ 武器商人 LEVEL49》



……『メッセージ』。




『……よう、ニシキ』

『! アスパイアか! 久しぶりだな』



耳に流れる彼の声。

どうやら、着信拒否は無いようだ。



『そうそう。久しぶりだよな』

『もしかして――さっきの配信見ていたのか?』



息が詰まる。

それでも、何でもない様に俺は話す。



『……? 配信ってなんだよ、お前配信者にでもなったのか』

『あ――いや、何でもない』


『な、ニシキ。また時間が出来たらゆっくり話そうぜ」

『ああ……! そうだな、お互い話したい事が一杯あるだろうし』


『へー、ニシキはそんなに濃いRLだったのか』

『ああ、まあそれなりに。お前は?』


『……それなりかな』

『ははは、そうか』



初めて会った時から変わらない声と笑い方。

付いた嘘が胸に刺さる。


……なあ、お前は商人スレじゃ神様みたいな存在なんだぜ。


なのに。

俺如きのメッセージで、そんな嬉しそうに……楽しそうにされると戸惑うんだよ。



『それじゃまたな。王都に着いた時ぐらいにまた声掛けるわ』

『よろしく――あ、そういえばアスパイア』


『ん?』

『その、お前は何でRLに復帰したんだ?』


『……』

『あーいや! 変な聞き方だったなごめん』


『……掃除』

『え?』


『掃除してたら、ホコリがのってるギアセットがあって』

『おいおい、そんな理由か!』


『ははは! そうそう――じゃあな』

『ああ、また――』



――プツンとメッセージが切れる。



「不器用だな、俺も」



しばらくその場で立ち尽くし、歩く。

心配したのかすぐそこにいる仲間へ向かって。



「っし……行くか」


「おっやる気満々だなリーダー!」

「『黄金の意思』取っちゃうか?」

「良いなそれ」


「ははは、そろそろマジで勝ちたいし――頼んだぞお前ら!」


「おー!」

「頑張るぞー!」

「まずは情報整理から、って動画投稿もあるんだった!!」

「亡霊動画とか絶対伸びるって!!」

「ライブ配信にしよう」

「や、やめろ……」



俺達はまた進んでいく。

ニシキが切り開いた黄金の道を、もっともっと輝かせるために。

いつか――ふと後ろを向いた彼が、それに目を眩ますのを楽しみにしながら。

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