掲示板回:英雄の声
☆
『……と、いうわけで対戦者のニシキさんとレンちゃんでした☆』
『……あ、ありがとうございました』
『どうも』
あっと言う間にインタビューの時間は過ぎて。
ニシキが終始やりにくそうに見えたのは……多分、リスナーがニシキをめちゃくちゃ褒めてたからだろう。
ハルちゃんがそれを伝えるたびに反応に困ってたし。
『まさか、黄金の意思についてそんな聞かれると思わなかったよ。ハルのリスナーには商人も多く居るんだな』
『はい! 沢山居ますよ……うん、挙手してくれてます』
『そうか――聞きにくいが、今でもRLをプレイしてる人達なのか?』
『そうですよ! 中々取得条件が難しいと聞いて凹んでおられる方が多いですが……』
『はは、確かにな――でも案外取れるものだと思うぞ。毒瓶と増幅毒で受動的に逆境と不屈は発動出来るし』
『……リスナーさんからは、だからそれが出来るのはニシキさんだからって声が』
『いや、そんな事無いと思うけどな……』
困惑する画面の中のニシキ。
そりゃアイツにとっての普通は、俺達にとっては凄い事だもんな。
正直俺は……『ニシキ』を眺める者達に、彼は気付いて欲しくないんだ。
何も知らないで、ただ自由に楽しんで欲しい。
それがアイツが一番望んでいることだと思っているから。
わがままで……何様だよって感じだが。
『……そろそろハル、弟子も限界だ』
『え!? わ、分かりました! 最後にニシキさんから言いたい事とかありますか?』
『……え』
□
900:名前:名無しの魔法剣士
はやく終わりたそうw
901:名前:名無しの商人
(こんなんさっさと終わらせてPK職ぶっ××してぇなあ……)
902:名前:名無しの商人
思ってたら笑う
903:名前:名無しの商人
ごめんね でもこんな機会ないから仕方ないよね
904:名前:名無しの商人
コメントじゃまだまだ質問来てるからな
905:名前:名無しの商人
ハルちゃん頑張れ~w
906:名前:名無しの商人
俺達がこうして実況してる事も知らねえんだろうな……
907:名前:名無しの商人
レンちゃんも緊張しっぱなしで可愛いね(はぁと
908:名前:名無しの商人
>>908
次ログインしたら鉄球背後から飛んでくるよ
909:名前:名無しの商人
>>907
●三
●三
●三
□
「あーもう終わりかあ」
「早いな」
「……やっと入力終わった……」
「はは、お疲れ」
一号がメモ書きを終え、他の奴らは名残惜しそうに笑う。
そっか……終わってしまうんだな。
配信も終わりが近くなって。
ふと思う。
ニシキは、フレンドの俺達の事とか覚えてたりするのだろうか。
こうして遠い存在になった今、もしかしたらもう――
『ハルのリスナーには、俺のフレンドとか居たりするのか?』
『え――あ、居るみたいです!』
『反応早いな……でもちょうど良かった。個別で話しかけるのは俺としてもきっかけがなかったからさ、今良いかな』
『勿論です!』
「……!」
タイミングが良すぎるその会話。
思わず息を飲む。
□
950:名前:名無しの商人
やヴぁい俺ニシキのフレンドだ
951:名前:名無しの商人
私も やっば何か言われるかな
952:名前:名無しの商人
フレンド欄から消していいかな? とか言われそう
953:名前:名無しの商人
まあ実際マジで話さないし……というか恐れ多くて話せんし……
954:名前:名無しの商人
関わる事がもうなんか申し訳ないんだわ
955:名前:名無しの商人
多分緊張して俺も話せん
956:名前:名無しの商人
ただフレンドに居るのは誇りみたいなもんなんで 勘弁してくれぇ
957:名前:名無しの商人
ニシキ君が消えたらほんとに悲しい
□
流れる掲示板。
もう次スレを建てる余裕なんて住民には無かった。
……当然、俺も。
『なあハル。本当にこの配信は動画化とかはされないんだよな?』
『えっはい。その気はありませんが……』
『そうか、それなら安心だ』
『……ニシキさん?』
『何でもない』
□
958:名前:名無しの商人
表情暗いよ!!!!!!!
やっぱり言いにくいことなんだって!!!!!!
959:名前:名無しの商人
ああ終わった ニシキ今までありがとう
960:名前:名無しの商人
なんか話し掛けとけばよかった……
961:名前:名無しの商人
まあニシキクラスになればフレンド大量で枠とか無いもんね
962:名前:名無しの商人
俺達の知らない強者達であふれかえってそう
□
「……っ」
息を飲む。
確かにそうだ。
俺達はただフレンドに居るだけ。
まだ、まだ声を掛けるには……そう先延ばしにした結果、何が起こるかは想像出来ることだったんだ。
『……俺が、伝えたい事は――』
もしかしたら――そんな考えが過ったその時。
静寂。
配信画面。
彼の口が開かれる。
まるでこれまでを思い出すかのように――ゆっくりと。
『その……王都に居る同職の姿や、毎日レベルが上がっていくフレンド欄を見て、いつも元気付けられてたよ。俺は一人じゃないんだって』
『どんなきっかけがあったのか分からない。ただの偶然だったのならそれでも良い』
『俺がここまで来れた理由は、君達が復帰してくれたからだ』
「……えっ」
思考が回らず、ただ口から驚嘆の反応が出る。
予想していなかった台詞の数々。
□
996:名前:名無しの商人
何言ってんだよニシキ
997:名前:名無しの商人
え
998:名前:名無しの商人
今、なんて言った?
俺の耳ぶっこわれた?
999:名前:名無しの商人
ってヤバいヤバい次スレ次スレ!!!
1000:名前:名無しの商人
ごめん今マジで「それどころじゃない
1001:名前:名無しの商人
ニシキーーーーー!!!!
□
1000をも突破した、その掲示板の勢いも知らず。
『……だから』
配信画面。
彼には珍しい震えた声。
俺も思考がまとまらないまま。カメラに向き直ったニシキの目が、俺の目と合って。
「『このRLに、戻ってきてくれてありがとう』」
その声が木霊する。
目の前には頭を下げたニシキが居て――
「――何だよ、それ」
今。口にした言葉と共に、走馬灯の如く景色が頭の中に流れていく。
……死んでいた掲示板が復活した時。
アイスウルフを倒せた時。
行商クエストを仲間と一緒にクリアした時も。
カトーにユウキ、ボウケンが仲間になっているのも。
商人スレが活気溢れている今。魔法剣士スレの奴らと手を組んでいるのもそうだ。
そして。
俺達がこの世界に戻ってこれたのも――
「全部、お前のおかげだろうが……!!」
声にならない声で嘆く。
掲示板は――もう1000を超え、とっくに落ちており。
『じゃ――ハル。これぐらいで。行くぞレン』
『え、ニシキさん、まだ――あ……』
そして彼らは配信を離れていく。
俺はフレンドリストを開き、しばらく眺めて考えた。
これから自分は、彼にどうするべきなのか。
俺が今――何をすべきかを。
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