掲示板回:英雄の声



『……と、いうわけで対戦者のニシキさんとレンちゃんでした☆』

『……あ、ありがとうございました』

『どうも』



あっと言う間にインタビューの時間は過ぎて。

ニシキが終始やりにくそうに見えたのは……多分、リスナーがニシキをめちゃくちゃ褒めてたからだろう。

ハルちゃんがそれを伝えるたびに反応に困ってたし。



『まさか、黄金の意思についてそんな聞かれると思わなかったよ。ハルのリスナーには商人も多く居るんだな』

『はい! 沢山居ますよ……うん、挙手してくれてます』

『そうか――聞きにくいが、今でもRLをプレイしてる人達なのか?』


『そうですよ! 中々取得条件が難しいと聞いて凹んでおられる方が多いですが……』

『はは、確かにな――でも案外取れるものだと思うぞ。毒瓶と増幅毒で受動的に逆境と不屈は発動出来るし』


『……リスナーさんからは、だからそれが出来るのはニシキさんだからって声が』

『いや、そんな事無いと思うけどな……』



困惑する画面の中のニシキ。


そりゃアイツにとっての普通は、俺達にとっては凄い事だもんな。

正直俺は……『ニシキ』を眺める者達に、彼は気付いて欲しくないんだ。


何も知らないで、ただ自由に楽しんで欲しい。

それがアイツが一番望んでいることだと思っているから。

わがままで……何様だよって感じだが。



『……そろそろハル、弟子も限界だ』

『え!? わ、分かりました! 最後にニシキさんから言いたい事とかありますか?』


『……え』



900:名前:名無しの魔法剣士

はやく終わりたそうw


901:名前:名無しの商人

(こんなんさっさと終わらせてPK職ぶっ××してぇなあ……)


902:名前:名無しの商人

思ってたら笑う


903:名前:名無しの商人

ごめんね でもこんな機会ないから仕方ないよね


904:名前:名無しの商人

コメントじゃまだまだ質問来てるからな


905:名前:名無しの商人

ハルちゃん頑張れ~w


906:名前:名無しの商人

俺達がこうして実況してる事も知らねえんだろうな……


907:名前:名無しの商人

レンちゃんも緊張しっぱなしで可愛いね(はぁと


908:名前:名無しの商人

>>908

次ログインしたら鉄球背後から飛んでくるよ


909:名前:名無しの商人

>>907

●三


●三


●三




「あーもう終わりかあ」

「早いな」

「……やっと入力終わった……」


「はは、お疲れ」


一号がメモ書きを終え、他の奴らは名残惜しそうに笑う。

そっか……終わってしまうんだな。


配信も終わりが近くなって。

ふと思う。

ニシキは、フレンドの俺達の事とか覚えてたりするのだろうか。


こうして遠い存在になった今、もしかしたらもう――



『ハルのリスナーには、俺のフレンドとか居たりするのか?』

『え――あ、居るみたいです!』

『反応早いな……でもちょうど良かった。個別で話しかけるのは俺としてもきっかけがなかったからさ、今良いかな』

『勿論です!』



「……!」


タイミングが良すぎるその会話。

思わず息を飲む。



950:名前:名無しの商人

やヴぁい俺ニシキのフレンドだ


951:名前:名無しの商人

私も やっば何か言われるかな


952:名前:名無しの商人

フレンド欄から消していいかな? とか言われそう


953:名前:名無しの商人

まあ実際マジで話さないし……というか恐れ多くて話せんし……


954:名前:名無しの商人

関わる事がもうなんか申し訳ないんだわ


955:名前:名無しの商人

多分緊張して俺も話せん


956:名前:名無しの商人

ただフレンドに居るのは誇りみたいなもんなんで 勘弁してくれぇ


957:名前:名無しの商人

ニシキ君が消えたらほんとに悲しい




流れる掲示板。

もう次スレを建てる余裕なんて住民には無かった。

……当然、俺も。



『なあハル。本当にこの配信は動画化とかはされないんだよな?』

『えっはい。その気はありませんが……』


『そうか、それなら安心だ』

『……ニシキさん?』

『何でもない』




958:名前:名無しの商人

表情暗いよ!!!!!!!

やっぱり言いにくいことなんだって!!!!!!


959:名前:名無しの商人

ああ終わった ニシキ今までありがとう


960:名前:名無しの商人

なんか話し掛けとけばよかった……


961:名前:名無しの商人

まあニシキクラスになればフレンド大量で枠とか無いもんね


962:名前:名無しの商人

俺達の知らない強者達であふれかえってそう





「……っ」



息を飲む。

確かにそうだ。


俺達はただフレンドに居るだけ。

まだ、まだ声を掛けるには……そう先延ばしにした結果、何が起こるかは想像出来ることだったんだ。



『……俺が、伝えたい事は――』




もしかしたら――そんな考えが過ったその時。


静寂。

配信画面。


彼の口が開かれる。

まるでこれまでを思い出すかのように――ゆっくりと。



『その……王都に居る同職の姿や、毎日レベルが上がっていくフレンド欄を見て、いつも元気付けられてたよ。俺は一人じゃないんだって』


『どんなきっかけがあったのか分からない。ただの偶然だったのならそれでも良い』


『俺がここまで来れた理由は、君達が復帰してくれたからだ』



「……えっ」



思考が回らず、ただ口から驚嘆の反応が出る。

予想していなかった台詞の数々。




996:名前:名無しの商人

何言ってんだよニシキ


997:名前:名無しの商人


998:名前:名無しの商人

今、なんて言った?

俺の耳ぶっこわれた?


999:名前:名無しの商人

ってヤバいヤバい次スレ次スレ!!!


1000:名前:名無しの商人

ごめん今マジで「それどころじゃない


1001:名前:名無しの商人

ニシキーーーーー!!!!





1000をも突破した、その掲示板の勢いも知らず。


『……だから』


配信画面。

彼には珍しい震えた声。

俺も思考がまとまらないまま。カメラに向き直ったニシキの目が、俺の目と合って。



「『このRLに、戻ってきてくれてありがとう』」



その声が木霊する。

目の前には頭を下げたニシキが居て――



「――何だよ、それ」



今。口にした言葉と共に、走馬灯の如く景色が頭の中に流れていく。



……死んでいた掲示板が復活した時。

アイスウルフを倒せた時。

行商クエストを仲間と一緒にクリアした時も。

カトーにユウキ、ボウケンが仲間になっているのも。

商人スレが活気溢れている今。魔法剣士スレの奴らと手を組んでいるのもそうだ。



そして。

俺達がこの世界に戻ってこれたのも――



「全部、お前のおかげだろうが……!!」



声にならない声で嘆く。

掲示板は――もう1000を超え、とっくに落ちており。



『じゃ――ハル。これぐらいで。行くぞレン』

『え、ニシキさん、まだ――あ……』



そして彼らは配信を離れていく。

俺はフレンドリストを開き、しばらく眺めて考えた。



これから自分は、彼にどうするべきなのか。

俺が今――何をすべきかを。

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