プランF



『嘘だろ?』

『いや確かにアレ商人って出てる』

『デッドゾーンに居る商人ってもうアイツしかいねーだろwww』



滝の様に流れていくコメント。

アレから所定の位置――廃墟の影に潜んだけれど。


未だに心臓がうるさく鳴っている。



《――『まずは俺が接近戦……敵いそうにないなら『強敵対策用・プランF』で』――》


《――『分かりました』――》


《――『出来る限りハルちゃんは安全重視だ。隙を少しでも見せたらやられる』――》


《――『は、はい』――》


《――『ははは、大丈夫さ。こっちは『三人力』なんだ……なあバイオレット』――》



メッセージ越しでも分かる、彼の声は震えていた。

そして私の手も。


あの、ニシキ君に。

私達の手が通用するか――何時になく緊張していた。



『もうすぐぶつかるぞ』

『間違いねえ、アイツだわ』

『あの黒斧前よりも禍々しい気がするんだが』

『私どっち応援すればいいのか分かんない……』




「……君は一人か?」


「あ、ああ〜そうかも……あんたは?」


「はは、一人かもしれないな――」


「! 行くぞバイオレット!」



良かった。どうやらバレていないらしい。

隠密スキルだろうけど――きっと隙を見せればすぐに気付かれる。


大事なのは初弾。

絶対に、それを当てる!


……その前に内藤さんの接近戦だ。





「『パワースウィング』」

「ぐうっ――『ドラゴンコール』!!」

「!」


「はあ、はあ……あっと言う間に20パー削られたな」



『……』

『内藤さーん!!』

『アイツ本当に商人なの? 動き早すぎない?』

『やっぱあれニシキだわ』

『内藤さんが敵わねえのかよ』



そのコメント通り――二人の一騎打ちはニシキ君優勢だった。

あの内藤さんが敵わない。


私を助けてくれた時もそうだったけど、本当に強いのね……って。

そんな物思いに耽っている場合じゃない。


準備しないと!



「接近戦は敵わない……分かってた、分かってたさ……でも悔しいもんだな」


「?」


「あ~ごめんこっちの話。ココからは――『俺達』のターンだ。行くぞバイオレット」

「グラァ!」



《ハルちゃん、プランFだ。残念だがやっぱ俺じゃ敵いっこない》

《……分かりました!》



ドラゴンで上昇しながらの悔しそうな彼の声。

そりゃ悔しいでしょう――でも。

だからこそ『私達』でニシキ君を倒さなきゃ!


魔弓を強く握る。

強くなったのは彼だけじゃなくて、私もなんだから。


『ハルちゃん頑張れー!!』

『うおおおお』

『まずはドラゴニックファイアを通さないとな』



コメントの言う通り、『プランF』は対強敵、それもソロ向けの作戦だ。


内藤さんが飛び回りながら遠距離攻撃を避け、その後広範囲に炎を撒く『ドラゴニックファイア』で敵の視線と行動を縛る。

敵がそれに気を使っている内に――私が後方から狙撃。狙撃後は直ぐにそこから離れ身を隠す。

単純だが、私の位置も悟られずにかつ狙撃を通せる有用な手だ。



「食らいやがれ――『ドラゴニックファイア』!」

「グラアアア!!」

 

「っ――」



『よく避けられんなアレ……』

『でも完全に注意逸らせてるぞ!』



震える手を抑えて。

逃げるニシキ君の動きを読んで。



「『ライトニングアロー』……!」



私は――影から、その魔法を詠唱した。


「なっ――」



すぐさま私は廃墟の影に隠れ移動。

当たったかどうかは――



『ヒットだ!!』

『当たったぞおおお!』



そのコメントが、教えてくれたのだった。

やったー!!





「『ドラゴニックファイア』!」

「グラアアァ!」


「『ライトニングアロー』」



『良い感じ!』

『おいおいあのニシキに勝ちそうだぞ!!』

『祭りだ祭りだ!』

『お前らやめとけ!! フラグにしかならねえぞ……』



「――このまま危なげなく勝たせてもらうよ、商人」



『内藤さんもフラグ立てないでーーー!!!』

『まあでも結構行けそうですし』

『このまま押し切れば……あの高速戦闘? とかも使ってこないしイケルで』



そのコメント通り、かなり順調にこの決闘は進んでいた。

どうやらニシキ君は本当に1人みたいで――それを『3人がかり』で相手してるから当然かもしれないけど。


もう彼のHPは4割。

このまま行けば――



「――ははは、かかって来い」


「……っ!」



ゾクッとした。

彼は一滴たりとも……この状況に臆していない。


そしてさっきから感じる違和感。

ニシキ君――斧、あんな風に持ってたっけ?



《次、攻撃当たったら一気に決める》

《! わっ、分かりまし――》



浮上している内藤さんからのメッセージ。

それに答えようとした瞬間だった。



「!? 何を――」



『な、何やってんだアレ』

『煙で見えねえ!!』

『あんな地面の使い方あるのね……』



砂漠の地面を蹴り、砂埃を巻き上げる彼。


……これじゃ何処にいるか分からない。

でも――すぐにアレは晴れる。

やることは一緒よ、いつも通りプランFで!



「……そこに居るのは分かってる――『ドラゴニックファイア』!」

「グラアアア!」



上空に居る内藤さんがそれを発動。

私も弓を構え――ようとした時。



「――――」



砂埃の中、『見えた』。


口元が動いているニシキ君が。

斧ではない、『片手盾』を構えた彼が。


スキルか何かを発動したのか、どうして盾なのか――分からないけれど、凄く嫌な予感がする!



《内藤さん、逃げてください!!》



メッセージ。


それでも、遅すぎた。

たった今――



「――は!? ぐぁ!!」

「グラア!?」


『えっどうなってn」の?』

『いやいやオカしい』

『氷弾はギリ分かる、火炎放射は返せるもんじゃねーだろww』

『じゃあアレなんなの』

『商人は反射スキルの使い手が多いって聞くけどさぁ……』

『光景が異様で草』




「――『ライトニングアロー』!」


「っ……」



雷の矢は当然かの様に、盾を持ったまま避けられた。

火炎放射が終わり――ドラゴンと共に落ちていく内藤さん。


……まただ。

また――ニシキ君の口元が動いている。


《――「……あんたは?」――》

《――「はは、一人かもしれないな」――》



フラッシュバック、彼の台詞。



「――っ!」



声にならない声が漏れる。

彼はもしかして、ずっと『指示』していたの? でもそれならどうして――



「――『スラッシュ』」


「ぐうっ、行けるかバイオレット!」

「グラ……!」



劣勢の内藤さん。


駄目だ。

何処にいるか、どうしてずっと黙っていたのか分からないが後衛が居るかもしれない!

伝えなきゃ。でも私の勘違いで居なかったら無駄に注意を逸らしてしまう。

でも。

もし、私がニシキ君の後衛だったなら。『ドラゴンコール』の隙を――



「――『ドラゴンコール』――!?」



《ダメですっ――!!》



それでも、私の思考が遅いせいで遅れてしまった。


飛来する『巨大な鉄球』。

ニシキ君の後衛の魔法が、襲い掛かっていたのだ。

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