思わぬ刺客②


「皆さんこんばんは☆ハルでーす☆」



『一コメゲット』『かわいいねハルちゃん』『こんにちは~』



「今日もみんなありがと~☆」



いつものあいさつ。

配信を立ち上げ、早速流れてきたコメントに手を振り返す。



《ハル 魔弓術士 LEVEL48》



「えー、今日はコラボの依頼が来てまして……」



『大丈夫かー?』『大分前ヤバいの来たんだっけ』『未だに覚えてるわカズキング』



「あはは……」



コメントで流れるその名前。

……うん、私も覚えてる。というか忘れられない。



あの時のコメントの荒れ様は凄かったし、実際アレからコラボ先はしっかり選ぶようにした。



『アイツ確かアカBANされたんだっけ』『笑うわ』『聖騎士の面汚しよ……』



「ま、まあ!今回は大丈夫ですよ。それじゃ――あ、来られました!」


「……どうもー。ハルハルを守り隊、サブマスターのドラゴン内藤です……」




《ドラゴン内藤 竜騎士 LEVEL49》



『!?』『うわあサブマスターだ!』『内藤さんだ!』

流れるコメント。

大丈夫といったのは勿論憶測じゃなく……いつの間にか作られていた私のファンギルド?の方だったから。

ぼさぼさの黒髪に、眠そうな目と声が特徴の彼。

特徴といえば外せないのが――



『グラァ!』

「……ははっよしよし、バイオレットもよろしくどうぞ」



『コラボ先ってこの人かよw』『バイオレットちゃんかわE』


私の前には紫色、体長2m程のドラゴンが居る。

竜騎士は自分だけでなく、それぞれ手懐けたドラゴンを召喚して戦う職業だ。


最近対人戦闘にハマってると聞いて、声を掛けてくれたのが内藤さんの居るギルドだった。そしてそのギルマスさんが内藤さんを推薦して今に至る。



「あー、この日の為に対人戦死ぬ気で練習しました。よろしくお前ら……」


「うふふ。らしいです☆皆さん拍手!」



『888888』『まあこれなら安心出来るな……』『って事は今日デッドゾーン?』



「はい! 目指せ十連勝! ですね☆」


「うっす! 頑張りましょー」



『わーわー』『確かどんどん強くなってくんだよな』『内藤さんとハルハルのコンビなら良いとこまでいけそう』



盛り上がるコメント欄。

ふう、良かった。

案外対人戦闘は配信受けが良いのよね。やっぱり見ていてハラハラするからかしら?



「じゃ――しゅっぱーつ☆」




アレから四連勝中。

今闘っているのは、後衛二人と前衛一人の三人パーティーだった。



《狩人 LEVEL45》

《聖重騎士 LEVEL46》



……ちなみに後衛は一人既に倒したところ。

私達は未だ二人を維持している。



「『ダブルショット』!!」


「っとあぶな――『竜の一槍』!」

『グラ!』


「く――があッ!」



狩人の矢を、ドラゴンに騎乗しながら避ける内藤さん。

そのまま『竜の一槍』――ドラゴンの突進と槍による二重攻撃でカウンターを行い、大きく狩人のHPバーを削る。


頭上程度の高さにしか飛べないものの、対人戦でそれは脅威だ。

相手にしてこんなに攻撃が当てにくい相手は居ない。

当然、『的』は大きいけどそんなに気にならないわね。



「――『マジカルチャージ』、『ライトニングアロー』!」


「『シャイニングブレード』――ぐッ!?」



竜の一槍の反動により、地面で硬直する彼へ輝く剣を振るう聖重騎士。

だがそれは読んでいた。


内藤さんの遥か後方に潜んでいた私。

予め発動していた溜めスキルが完了した後、射出速度の速いその雷の矢を発射。



「ナイスハルちゃん……『アラウンドスピア』」



「うあッ!」

「ぐ……」



反動が解けた彼は、周囲に槍を振り回すその武技にて纏めて二人に追撃。

そのうちダメージが蓄積していた聖重騎士のHPバーがゼロになった。



《経験値を取得しました》



「ああもう降参だ!! 」


そして残るは狩人――なんだけれど、どうやらもう終わりらしい。

まあ、前衛が居なくなったら辛いもんね。



《対戦相手がデッドゾーンから退出しました》


《経験値を取得しました》


《勝利した為、戦闘前の状態に全て回復します》




「やったー☆ 四連勝ですね~☆」


『決まった!!!』『ハルちゃんサイキョー!』『内藤さん良い動きしてる』



「ふぅ。お疲れハルちゃん……」


『グラ!』



竜騎士という職業は、ドラゴンを召喚する場合パーティ枠を二つ使ってしまうが、その分戦闘力は凄まじい。

一人でも強いのに、鬼に金棒ってやつかしら。



「うふふ☆バイオレットちゃんもありがとうね」


『グラ……』


「かわいー☆」



見た目は少しごついけど、一緒に闘ってくれる仲間だ。

頭を撫でてあげると気持ちよさそうに小さく鳴いて頭を下げてくれた。



『ハルちゃんも可愛いよおおおおおおおおお!!!!!』『←黙れ』『ハルちゃんが可愛いよ』



「あ、あはは」

「ハルちゃんカラーなのは偶然なんでそこん所よろしく……」



『嘘つけ』『ぜってえ合わせたわ』『そろそろ敵来るぞー』



「あ、やば……んじゃ準備よろしくハルちゃん」


「はーい! 『マジカル・カモフラージュ』」



私の役割は、物陰に隠れながらの内藤さんの援護射撃。

ゲーム的に言えばスナイパー。これが本当に楽しいのよね。


上手く立ち回らないと逆に敵の後衛から手痛い一撃を食らうし、内藤さんに迷惑がかかる。

隠密行動を心掛けながら、時には大胆に敵を射抜く――実際彼が優秀過ぎて甘えてしまっている気がするけれど。

何にせよこの戦法で、私達は今四連勝だ。


……今日は初の五連勝、行けるかも?

確か称号がもらえるんだっけ。




「ん、あっちかバイオレット……」

「グラ!」

「あれは一人? 近付いて来る――っな!?」



私が居る逆方向から、敵は来る様だった。

でも、彼の様子がおかしい。



「マジかよ、マジ……?」


「ああ――夢じゃないなこりゃ」



「あの魂斧に雰囲気――間違いない。ああ、マジ? こんなとこで会えるなんて……」



目を凝らす。

まだ接敵はしていないものの――その遠くに見えた敵は、確かに『斧』を持っていた。


黒い、禍々しいその斧を。



『っ、はっハルちゃん、良いか? マジで心して聞いてくれよ』

『……は、はい』




内藤さんのメッセージ。

何となく只事ではないのが分かる。

彼眠たげな声が――今は何かに怯えるように震えていた。




『コレから俺達が闘うのは――『ニシキ』だ……間違いない』

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