盲目の邪眼術士



HPは残り10%もない。

そして両目は盲目状態。


それはダストも同じだけど――このスキルは二度目。

盲目状態にもある程度は慣れている。効果もばれてる。


このスキルへの対処法――それは逃げる事。

効果時間10秒を過ぎれば、弱体化したおれの姿があるだけなんだから。



「――ハハハハハ! バッカじゃねえのかテメェはよぉ!」

「……」


彼は『天葬』後、すぐに逃げた。

一発武技が入ったおかげでHPは残り15%ぐらい。


状況は完全にダストの有利。

そして今――天葬の効果時間が終わった。



「負けると分かって悪足搔きかァ!? マジでどうしようも――」

「――なあ」

「あ?」



ダストの煽りを遮った。

これは、おれが負けた――師匠も認めた『彼』の台詞だ。



「――覚悟が出来たら来い、ダスト」


「……! クソが、ほざいてろ――『雷脚』!」



高速の足音。

目の前。

見えなくても分かる――彼の到達する未来の場所が。



「『スティング』」


「――ッ!? なんでだよ――『電転』!」



彼の動きを読み、おれは武技を発動。


そのスピードじゃ止まれない。

一発入り……すかさずダストはまた回避。

場所は――左。



「……クソがッ、なんで分かる……!」


その激しい息のせいで、位置はバレバレだ。

彼は気付いていないだろうけど。


「……」

「ッ――オラァ!」



その位置、声。

投擲だ!


「!? ……ざ、ザコが――『雷脚』!!」


横に跳んで、恐らく飛んできたナイフをおれは避けた。

動揺しているダストは――歩み寄るおれから高速で逃げる。


……今になって分かる。

ニシキさんと闘っていた時の、自分の愚かさが。

目の前の怯えるダストが昔のおれに見えたから。


へへ、見えてねえけどな。

さあ――勝ちに行こう。




「ッ――オラアアアアァ!!」


「……っ」



今度は左。

猛スピードで突っ込んでくる彼に。


おれは――隠し持っていた『瓶』の中身をぶっかけた。



「……ッ、な――あ……」

「二回目は予想してなかったみたいだな」

「ッ――道具に頼りやがって――クソザコが――」


「言ってろ……『ストームラッシュ』」

「――があああッ!!」



『電転』で逃げられても大丈夫な様に、彼の首を掴んで。

おれは――最後の武技を放ったのだった。



《経験値を取得しました!》

《レベルが上がりました。任意のステータスにポイントを振ってください》

《1,000,000Gを取得しました!》

《称号『深淵を操りし者』を取得しました!》

《心眼スキルを取得しました!》







「……なんも、見えねぇ……」



空を仰ぐ。

ダストは、あれから起き上がってこない。

恐らく死んで非戦闘フィールドにリスポーンしたのかな。



「……一人は、やったけど」


この両目盲目状態じゃ、そもそも辺境まで着けないし――着いたところで無駄だし。


どうしよう――


「――アバっち、お疲れ様」

「……え?」


背後。

全く気付かなかった――ブラウンさんの声。


「ぶ、ブラウンさん?」

「ははッほんとに見えてないみたーい」

「からかわないで下さいよぉ!」


恐らくおれの前で反復横跳びしている彼。

声があっちこっちにいったりきたり。



「――ってそんな事してる場合じゃなくて! ニシキさんが――」

「ははッダイジョーブダイジョーブ! とっくにキドっちが向かってる」


「え」

「ついでになんかアラタっちも」

「ええ……それはちょっとよく分からないですが」

「だろうね~」



……でもまあ、良かった。

それなら――きっと大丈夫だ。


「……ね、アバっち」

「はい?」


「あのセリフ――ニシキっちのマネ?」

「……」

「ははは! 赤くなってる!可愛いね~」


「って……い、いやいや!居たのなら助太刀してくださいよぉ!」

「まあまあ勝ったから良いじゃん」

「うう……」


……本当に、この人は。

でも結果として、ダストと闘えてよかった。



「はああああぁ……おれは勝ったぞー!!」

「ははは、ホントにお疲れさま。アバっち」



暗闇の中。

空に向かって叫んだ。



……また一つ、おれも強くなれたかな。






「……そういえば、途中でアバっちの事遠目から見てた子いたよ。危ないからって逃がしたけど」

「えっ、それツインテールで可愛い感じの女の子でしたか?」

「アレ気付いてたんだ」

「……いや、その、気付いてないですがちょっと配信で……」

「ええ?」

「一体何者なんだ、あの子……」

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