盲目の邪眼術士
☆
HPは残り10%もない。
そして両目は盲目状態。
それはダストも同じだけど――このスキルは二度目。
盲目状態にもある程度は慣れている。効果もばれてる。
このスキルへの対処法――それは逃げる事。
効果時間10秒を過ぎれば、弱体化したおれの姿があるだけなんだから。
「――ハハハハハ! バッカじゃねえのかテメェはよぉ!」
「……」
彼は『天葬』後、すぐに逃げた。
一発武技が入ったおかげでHPは残り15%ぐらい。
状況は完全にダストの有利。
そして今――天葬の効果時間が終わった。
「負けると分かって悪足搔きかァ!? マジでどうしようも――」
「――なあ」
「あ?」
ダストの煽りを遮った。
これは、おれが負けた――師匠も認めた『彼』の台詞だ。
「――覚悟が出来たら来い、ダスト」
「……! クソが、ほざいてろ――『雷脚』!」
高速の足音。
目の前。
見えなくても分かる――彼の到達する未来の場所が。
「『スティング』」
「――ッ!? なんでだよ――『電転』!」
彼の動きを読み、おれは武技を発動。
そのスピードじゃ止まれない。
一発入り……すかさずダストはまた回避。
場所は――左。
「……クソがッ、なんで分かる……!」
その激しい息のせいで、位置はバレバレだ。
彼は気付いていないだろうけど。
「……」
「ッ――オラァ!」
その位置、声。
投擲だ!
「!? ……ざ、ザコが――『雷脚』!!」
横に跳んで、恐らく飛んできたナイフをおれは避けた。
動揺しているダストは――歩み寄るおれから高速で逃げる。
……今になって分かる。
ニシキさんと闘っていた時の、自分の愚かさが。
目の前の怯えるダストが昔のおれに見えたから。
へへ、見えてねえけどな。
さあ――勝ちに行こう。
「ッ――オラアアアアァ!!」
「……っ」
今度は左。
猛スピードで突っ込んでくる彼に。
おれは――隠し持っていた『瓶』の中身をぶっかけた。
「……ッ、な――あ……」
「二回目は予想してなかったみたいだな」
「ッ――道具に頼りやがって――クソザコが――」
「言ってろ……『ストームラッシュ』」
「――があああッ!!」
『電転』で逃げられても大丈夫な様に、彼の首を掴んで。
おれは――最後の武技を放ったのだった。
《経験値を取得しました!》
《レベルが上がりました。任意のステータスにポイントを振ってください》
《1,000,000Gを取得しました!》
《称号『深淵を操りし者』を取得しました!》
《心眼スキルを取得しました!》
☆
「……なんも、見えねぇ……」
空を仰ぐ。
ダストは、あれから起き上がってこない。
恐らく死んで非戦闘フィールドにリスポーンしたのかな。
「……一人は、やったけど」
この両目盲目状態じゃ、そもそも辺境まで着けないし――着いたところで無駄だし。
どうしよう――
「――アバっち、お疲れ様」
「……え?」
背後。
全く気付かなかった――ブラウンさんの声。
「ぶ、ブラウンさん?」
「ははッほんとに見えてないみたーい」
「からかわないで下さいよぉ!」
恐らくおれの前で反復横跳びしている彼。
声があっちこっちにいったりきたり。
「――ってそんな事してる場合じゃなくて! ニシキさんが――」
「ははッダイジョーブダイジョーブ! とっくにキドっちが向かってる」
「え」
「ついでになんかアラタっちも」
「ええ……それはちょっとよく分からないですが」
「だろうね~」
……でもまあ、良かった。
それなら――きっと大丈夫だ。
「……ね、アバっち」
「はい?」
「あのセリフ――ニシキっちのマネ?」
「……」
「ははは! 赤くなってる!可愛いね~」
「って……い、いやいや!居たのなら助太刀してくださいよぉ!」
「まあまあ勝ったから良いじゃん」
「うう……」
……本当に、この人は。
でも結果として、ダストと闘えてよかった。
「はああああぁ……おれは勝ったぞー!!」
「ははは、ホントにお疲れさま。アバっち」
暗闇の中。
空に向かって叫んだ。
……また一つ、おれも強くなれたかな。
☆
「……そういえば、途中でアバっちの事遠目から見てた子いたよ。危ないからって逃がしたけど」
「えっ、それツインテールで可愛い感じの女の子でしたか?」
「アレ気付いてたんだ」
「……いや、その、気付いてないですがちょっと配信で……」
「ええ?」
「一体何者なんだ、あの子……」
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