迅雷と邪血眼②



《ダスト LEVEL48》


「……!」



そして。

追っていくこと数分。

目の前にはあの四人ではなく……レッドの手下の一人だけが居た。


ツンツン頭のヤンキーみたいな男。

確か、ダストっていったっけ。


「バレバレなんだよテメェは。デスする前にさっさと帰れや」

「……気付いたのはおまえじゃないだろ」

「――ハァ!? そんな事どうでも良いだろうが!」


おれ達の雰囲気に気付いていたのはレッド一人だけ。

だからこそ、彼の意図が分かる。


邪魔者を入れたくないんだ、彼らの配信に。



「もう一回言うぜ、帰れ」

「帰らない」

「……」



ダストはナイフを構える。

戦闘態勢。


おれも――ナイフを構え――



「――『雷脚』」


瞬間。

迫りくる、彼の姿。


途轍もないスピードで――おれの目でも追い付けない。



「『ストームラッシュ』」

「――!?」



至近距離、突進しながらのナイフ五連突き。

避ける間もなく一発、二発と食らっていく。



「っ、くそ――!」

「おっせーんだよ――『エネミーバック』!」



おれのスキルは、『見る』事で発動するものばかり。

でも目が追い付かない今は全くソレを使えない。


堪らず後ろへ跳んで逃げようとするものの――そのスキルで、後ろへ回り込まれて。


「死ね――『バックスタブ』」

「ぐッ――『邪眼術・蛇睨』!!」


その武技は、背中への攻撃にボーナスダメージが得られる小刀武技。

大きく減るHP――だがその間、おれはこいつの足元を目で捉えていた。


「チッ――『電転』!」

「な」



でもそれも無駄になってしまう。

一秒後に発動するその麻痺効果、『蛇睨』によってそのスピードを殺したのに……彼はそこから消えたのだ。


恐らく回避、転移系のスキル。



「どこだ……」


視界から消えた時点でスキル効果は無くなってしまう。

また振り出し――



「――ッ、『ダブルエッジ』」

「!? ぐっ、『スティング』!」



今度は左からの急襲。

最初よりは目が慣れた――彼の武技は食らったが、おれの武技も彼に命中。


だがこれじゃジリ貧だ。

ダストの攻撃力は低い……たぶんAGIに大量に振っているんだろう。

でもコレまでの高威力の武技のせいでおれのHPはもう半分。


……何とかしなきゃ。



「っ……」

「ああ? 睨むだけならガキでも出来るぜザコ――」


距離をとった彼は、そう呟いておれに向かってきた。

だが足の帯電は消えておりスピードはそこまでじゃない。

恐らくあの電転は雷脚を解除して発動できるスキルだ。


今なら、準備出来る。

おれはナイフを構え、回避体勢。


「――オラァ! 『スティング』」

「っ――『邪眼術・毒視』!」


隙の少ない突き攻撃。

それに合わせてそのスキルを発動し、徐々に彼のHPを奪っていく。


同時に予備動作、彼の目の動き。刃の軌跡を観察して――避けるんだ!



「チッ、ああうぜえうぜえ――『雷脚』!」

「……っ!」


何とか攻撃を避けた。

減少していくHPを見て苛ついたのか、再度そのスキルを発動する。


……あと3秒。

絶対に、目を彼から離さないように。



「オラ――『ダブルエッジ』!」


「っ……」



凄まじいスピードで突っ込んでくる彼を、そのまま受け止めた。

食らう刃。減るHP。

あと0.5秒――発動準備完了。


「――『邪血眼術』」

「!? 『電転』――」



きっとそれは、ダストの勘だったんだろう。

先程同様、どこかにワープするそのスキルを発動していた――でも遅い。


おれは既に、彼の服を掴んでいた。

こういう転移系のスキルは、術者に触れていれば同じくその場に移動する!



「――『天葬』、『バックスタブ』」


「……クソッ――がッ!?」



おれは右目を失い、HPMP共に半分へ。

目の前に居るダストにそれを発動。


突如暗闇へと堕ちた彼は、おれが背後に居る事にも気付けない。



「『ストームラッシュ』!」

「ッ、クソッ――」


反射でナイフを振るう彼に、おれは余裕で避けて高威力の武技を放つ……命中。

今のうちに、出来る限りでダメージを稼ぐ。


……もちろん『天葬』を使うのに抵抗はあるが、ニシキとの闘いで分かった。

使えるモノは、全部使ってこそなんだ。

ただし相手とタイミングはよく考えて!



「オラァ!!」

「……っ、『スティング』」


逃げることなく暴れるダスト。

……動揺してる、これが当然なんだよな。


ちょっと安心したよ――でも、もうすぐ時間だ。

ここでダメ押し!



「――!? ッ――!!」



効果時間、残り1秒。

そこでおれは『麻痺毒』を彼にぶっかけた。

……これはニシキの手を真似たやつだ。

でも。


「くっ……」

「――よくもやってくれたなクソ野郎」



ほんの少し躊躇してしまった。

彼はその隙を逃さず、盲目から回復した瞬間寸でで麻痺毒を避けて距離をとる。


……ダストのHPは2割。

でも――ここからが遠すぎる。



「テメェ舐めてんのか? そんなスキルがあるなら――!」

「……」

「ハッ、ハハハハハ!! おいおい片目無くしたのか? 今ので?」

「うるせえ――『邪眼術・動奪』!」

「『雷脚』」

「……くっ」


光を失った片目を見て笑うダスト。

喋ってる内にスキルを仕掛けたが、そのスキルで高速移動、逃れられる。

どこに逃げ――



「――『スティング』」

「……っ!?」



聞こえたその声。

右から――


「がっ! ……え?」


『見えなかった』。

そして気付く。

この右目を失ったデメリットに。


右の視界が大きく削られ、死んでいる。

そしてかつ、『遠近感』が掴みにくい。


「ハハハ! もうお前はオレに勝てねえんだよ――」

「っ……」



マズい。

おれはもう彼に対応出来ない。

せっかくこのスピードに慣れてきたってのに――


……そうだ。

コレも、おれの甘えが招いた結果だ。

『天葬』を使った後の戦闘を熟してこなかったからこそ、今こうして不利になっている。


残HPはもう20%を切った。

このまま、おれは負けるのか?



「――『スティング』……ハハハ! ザコが!」

「くっ」

「ふざけた見た目に厨二ネーム。そんで今オレに蹂躙されてよぉ、恥ずかしくねえの?」



――その時。

何かがおれの心の中で暴れていた。

そしてこれは、アイツに対する怒りじゃない。


自分自身への燃えるような感情。



《――「なあ兄ちゃん、ぼくまだこのゲーム出来ねーから代わりにやってよ!」――》

《――「え? いやおれゲームなんて……」――》


《――「勉強の良い息抜きになるって! 兄ちゃん身体動かすのすきだろ」――》

《――「そこまで言うなら……」――》


《――「よっし! じゃあ、ぼくが考えたキャラ名とアバターでやってくれ!」――》

《――「ええ、いや別にいいけどさ……」――》

《――「あとで動画みせてね!」――》


町の福引。

弟が引き当てたそれに、代わりにおれがやる事になって。


《――「おーい! 滅茶苦茶恥ずかしいんだけどこれ……」――》

《――「うおおおおおカッケええ! 兄ちゃんかっけえよ! アニメキャラが動いてるみたいだ!」――》

《――「そ、そうか……?」――》



初めは恥ずかしかったこの名前も、見た目も……喜ぶ弟を見てたら恥ずかしくなくなった。


そしていつの間にか。

おれはこの世界のもう一つの自分で、強くなりたいと思った。

誰よりもカッコよくなりたいと思ったんだ。



……だから。

今――おれは、コイツに勝たなければならない。



「戯れ言は、そんなもんでいいのか?」

「……あァ?」

「掛かってこいよ――怖いのか」



息を吐く。

揺れた心を抑えつけて、おれはナイフを構えた。



「あァ、うぜえうぜえ……その目、アイツにそっくりなんだよ――『電転』!!」



目の前。

消えるダスト。


そうだ――今こそ、おれの持つ全てを使うんだ。

思い出すのは師匠との会話。



《――「良いかアバロン、お前の長所はその目だけじゃない」――》

《――「そうなのか?」――》

《――「ああ。お前は五感全部優秀なんだよ。それにその直感力に反射神経も」――》

《――「なんか照れるなあ」――》

《――「ハッ、じゃなきゃオレの弟子にしてねぇっての」――》



おれは周囲に目を向けることなく、全神経を『耳』に集中させた。


――背後!



「っ――」

「――!? 『ダブルエッジ』!」



迫る彼の足音に反応し、おれは振り向く。

これなら死角は関係ない。

一発目は掠ったが二発目は避けられた。

そのまま――ナイフを突き出す。



「――『スティング』」

「ッ――おせぇんだよ!」



だが、彼の素早いステップで避けられる。

もっとだ――もっと反応を早くしないと。


……もっと。

もっと――感覚を研ぎ澄ませろ!



「……ああ?」



おれは、ナイフを構えるのを止めた。

感覚をより集中させるために。

腕を下げ、深呼吸。



「……舐めてんのか、クソザコが――!!」



そして。

右側のおれの死角に行こうとする彼を、左目で追う。


ダストを視界で捉える。もうそのスピードには慣れた。

見ているだけなら余裕で出来る。


そして――後、『5秒』。



「――『スティング』!」

「――っ」



隙の少ない武技。

回避のみに集中しているからだろう、何とか避けられた。



「チッ――おらァ!」

「ぐっ」


武技では無理だと判断したか、彼は通常攻撃。

流石に避けられない――でもこれじゃおれは死なない。

ダストの服を掴む。


後『0秒』。

さあ――覚悟を決めろよおれ。



これは、自分自身への挑戦だ!



「――『邪血眼術』――」

「な――」


「――『天葬』!!」



瞬間。

おれの視界は、真っ暗闇に堕ちたのだった。

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