二人の弟子ともう一人


「『神の息吹』――」


「『サンド・プロテクト』!」



目の前。


かなり遠方の位置に居るレンが、こちらへ向かって来るドクに向け補助魔法を掛けた。

そしてドク自身も補助魔法を掛けている。



「『ウィンドナックル』!」


「――っ」



出が早く隙の少ない格闘武技、『ウィンドナックル』。

そんな拳の振り下ろしをギリギリで躱しながら、俺は魂斧を振りかぶる。



「きゃっ――」


「……『アイアンボール』!」



斧の刃がドクに命中。

しかしながら、遠方のレンが詠唱を完了させていた。


既に近くまで迫る鉄球。

反射のタイミングは――もう逃している。



「――っ!」


「隙ありですよぉ、『気功術』――『ウィンドナックル』!」



ドクに構っている間の隙を狙われたその魔法を――何とか斧の刃で受け止めた。

貫通して減る俺のHP。

そして――ドクはそんな自分を逃さない。


『気功術』。一秒間の硬直があるが、その後3秒間大きくAGIとSTRを上昇させるスキル。

ついで出の早い格闘武技。



「――『高速戦闘』!」


「は、はやっ――」



気功術からの連撃を、切り札の一つであるそのスキルで避ける。


そのまま潜り込む様にドクの身体を追い抜いてレンへ――



「『ストーンボール』!」



その初期の土魔法は、威力、範囲が小さい代わりに詠唱時間が少ない。

だからこその選択。

既にレンは最初の位置から離れ、俺から距離を多く取っている。


……でも、その魔法のタイミングは悪かったかもしれないな。



「っ、『ラウンドカット』!」



タイミングを合わせたその武技。

飛来した石球と――



「『スピードナックル』――やぁっ!?」



背後からのドクを、まともに捉えた。


《Reflect!》


同時に反射される石球。



「……!きゃ――」



そして反射されたそれは、隠れた彼女の位置を教えてくれる。

そのままレンの元に……の前に。



「『パワースウィング』」


「うっ――!」



こちらへと反撃を狙っていたドクに一撃。

悲鳴を上げて倒れる彼女、もう一度遠くのレンに視線をやる。



「――『ストーンランス』!」 



以前のレンなら、きっとその魔法の発動は遅れていた。


だが今は全く違う。

反射に動揺する事なく自身の位置をまた変えて――ドクへの一撃で俺に隙のある今。


タイミングを合わせ……『ストーンランス』、射出速度の速い土魔法を放ってきた。



「……成長したな、レン――ぐっ!」



迫りくるその石槍を、俺はそのまま受けたのだった。





《レン・ドク様との決闘に勝利しました》


《王都ヴィクトリア・非戦闘フィールドに移動します》



「ま、負けましたぁ……ニシキさん強すぎですぅ」

「……そうですね」


「はは、『高速戦闘』も麻痺毒も使わされたし、かなり上達してるぞ君達は」


「! そうですかぁ!?」

「……や、やった……」



落ち込んでいた様子から一転、喜ぶ彼女達。

その言葉は本心だ。

ドクの動きは目に見えて良くなっているし……『課題』はあるが。


レンに関してはかなりの成長を遂げていた。

俺の動きをよく観察しているし読みも冴えている。

これまで避ける様だった彼女の視線が、はっきりと敵を捉えているのだ。



「……レンはもう、アレさえ覚えたら――」


「――アレって何ですか?」


「!」



……びっくりした。

漏らした俺の言葉に、ぐいっと身を寄せ聞いて来るレン。


何よりも彼女が成長したのは、その探求心、積極さにもあるだろう。

気になる事はすぐ聞いて、分からない事があればすぐ質問してくる様になった。

瞑想VRをプレイしてからレンは本当に変わったもんだ。

もちろん良い意味で。

ぐいぐい来るレンにはいまだに慣れないんだけど。



「あー。それを今から来てくれる……いやもうすぐそこに来てるな、彼女に教えてもらう」


「え?」

「……来られてますか?」


「ああ。雑貨屋の近くから……それで今こっちに歩いてきて……あ、立ち止まったな」


「へぇ?」

「……ど、どこですか?」


「ははっ、意地悪だな十六夜も。彼女は今『消える』スキルを使ってるんだ」


「ええ……」

「じゃあなんでニシキさんは分かるんですかぁ……」



不思議そうに言う彼女達。

まあ、俺は十六夜とは何度も会ってるしな。

初見じゃレンやドクと同じ意見を言っているだろう。



「――ってわけで前言っていた、君達に『隠密』を教えてくれる特別講師の『十六夜』だ」



そのまま俺の横に着いた彼女。

恐らく十六夜の肩……を持って、俺はそう言った。



「いや、何も見えない空間に紹介されてもぉ」

「……本当にいらっしゃるんですか?雰囲気全く無いんですけど……」



俺の横をのぞき込むように見る彼女達。

……これは出られないな。



『十六夜、恥ずかしいのは分かるからそろそろ出てきてくれ』


『……! う、うん』


『3秒後にハイド解除だ、良いな』


『分かった……』



「レン、ドク――ほら、あっち向いて――こっちだ」


「へぇ?……あ!」

「え?……!」



彼方を指差せば、二人の視線は彼方へ。

そしてこっちに戻して――ご対面。



「よ、よろしくね……」

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