攻略・ヴィクトリア深部②



「……アレ、商人じゃね?」

「さっきから何やってんだ」

「ずっと斧投げてて笑うんだけど、チキン過ぎだろ」

「おい聞こえるって!」



《ミニドラゴ LEVEL48》



『ゴアア――』

「はは、チキンか……『アックスブーメラン』!」


アレから3時間程だろうか。

大分『コレ』に慣れたせいか……周囲の嫌な声も聞こえる程度には周りが見えるようになった。



『ゴ……ア』


《経験値を取得しました》


《12,000Gを取得しました》



「お、ラッキー……ふう」



俺が投げたスチールアックスが、ミニドラゴの鱗を掠めて戻ってくる。

3時間。

あっと言う間で――そしてその間、俺はアックスブーメランをひたすら練習していたのだ。


何というか、この武技は奥が深い。

力の入れ加減、投げる位置によって軌道も変わって来るし、何なら返ってくる斧にも攻撃判定がある。


そして面白いのが――戻ってきた斧をわざと取らなかった時。

てっきりそのまま落下でもするかと思いきや、そのまま飛んでいって背後から当然のように戻ってきた。


当然威力・飛距離は半減したが……コレは対人戦で使えるかもしれない。



「滅茶苦茶良い武技じゃないか」



魂斧でやる勇気はまだ無いが……使いこなせば良い武器になるだろう。

もっともっと練習しないと!




「おい見ろよ!アイツ馬鹿か?」

「ミニドラゴ3体に喧嘩売ってる奴始めて見た」

「しかもソロだぞ――商人!?」



《ミニドラゴ LEVEL48》

《ミニドラゴ LEVEL48》

《ミニドラゴ LEVEL48》



『「『ゴアア――!』」』



「……『アックスブーメラン』!」


『ゴア!?』

『ゴ!?』

『ゴア――』



アレから、どれぐらい時間が経っただろう。

恐らくそろそろもう一度3時間が終わる。

今はミニドラゴ3体にアックスブーメランで同時攻撃の練習を行っていた。


敵が居ない場合で練習したり、森林エリアにて木々の隙間を通す様に投げて見たり。


本当に、この武技は奥が深い。

噛めば噛むほど味が出てくる様に……やっていて楽しいんだ。

ここまでハマったのは『反射スキル』ぶりだろうか?



「――っと、『スラッシュ』!」


『ゴア!?』


「はは、面白いな」



《経験値を取得しました》


戻ってきた斧をキャッチするのも慣れて来た。

その拾った慣性を活かし武技を放てば、何時もより攻撃スピードが上がっている。


これも新たな発見の一つ。


そして――



「『ラウンドカット』――」


『ゴア!?』

『ゴゴ――!』



《経験値を取得しました》



2匹の間に飛び込んで、ラウンドカットの同時攻撃。


円周上に回し斬り――そしてその動作が終わった後一呼吸おいてクールタイムを待ってから。



「『アックスブーメラン』――『高速戦闘』!」



ブレスを行おうとするミニドラゴから距離を取り、そいつらへ斧をサイドスロー。

同時に高速戦闘。


軌道を予測し、戻って来る方向へ走り込む。



「っと――よし!」



新たなもう一つの発見。

この武技は――わざわざ戻って来るのを『待つ必要』が無い。

帰ってくる斧に向かっていけばそれを受け取る事が可能なのだ。



「『パワースロー』!」

『ゴア……』



ブレス中のソイツへ同じく投擲武技を放てば――終わった。



「あー、楽しかった――」



もう、周囲の目を気にしていられない程夢中になっている。

でも流石にそろそろやめないと流石にヤバい。


そう思った瞬間――



《特殊イベント・『ゴールドスライムの群れ』が発生しました!》


《おめでとうございます!現れるゴールドスライムを倒して、多くのGを獲得しましょう!》



「――!? おいおい、今度は何だ――!」



聞こえるアナウンス。

そして前を見れば……



《ゴールドスライム LEVEL49》



『ピーイ!』


「……す、スライム?」



目の前には……見たことのない、黄金に輝くスライムが居た。


水銀のような液体金属がそのままスライムになったようなそれ。

ソレと違ってこれは金なんだが……まあ、倒すしかないけど。


ミニドラゴとの戦闘でHPが半分近く減ってしまっているってのに……回復の暇を与えてくれないな。






「『スラッシュ』」


「ピィ!?」



昔のレッドスライムは――かなり強かった。


だがコイツは、ぶっちゃけかなり弱い。

戦闘エリア序盤のスライムは分身したりしていたが、コイツは本当にタックルのみ。


HPもそこまで。

かなりの肩透かしだったんだが――



「っ」


『ピィ……』


「あ、終わった――」



《200,000を取得しました》



「――は!?」



目を疑った。

こんな大金、モンスターがドロップする額じゃない。



「……は、入ってる……」



インベントリ。覗けばしっかりその額は入っている。


しかも――



《ゴールドスライム LEVEL48》

《ゴールドスライム LEVEL48》



「お、おいおい……これは夢か?」



さっきまでの疲れは吹き飛んだ。

見れば俺のすぐ前に、またゴールドの塊が2匹生まれている。


目の保養なんてモノじゃない。

《ゴールドスライムラッシュ》と書かれている事から、それはしばらく続くんだろう。

……ありがとう、アックスブーメラン。



「『ラウンドカット』――」



この機会を与えてくれたそれに、感謝を込めて武技を放つ。




――その時だった。




「――っぶねえ!」


「くそ――ファーストアタック取られた!」



《はると 神聖騎士 LEVEL49》

《狩り狩りクン 格闘士 LEVEL48》



俺の前。現れた2匹のゴールドスライムに、攻撃を仕掛けてくる二人。

寸でで武技がスライムに命中したが……もう少しで彼らの方が先に当たってもおかしくなかった。


近付いて来たから何かと思ったら。



『ピィ』

『ピー!』



「……これ、協力クエストってやつなのか?」



こちらへ向かって来るゴールドスライムをとりあえず無視して彼らに声を掛ける。

……そりゃ、確認はしておかないと。



「ああ!? んな訳ねーだろ!」

「チッ……つまんね。行こうぜ」


「……」



このゲームは、一応横取り……通称『横』が出来ない様ファーストアタックに成功した者が経験値、アイテムを得られる権利を持つ。


彼らは見るからに――俺の前のゴールドスライムを倒そうとした。

正直人を悪く見たくないんだが……そういう事なんだろう。



「……アイツらだっさ、『横』失敗してんじゃん」

「名前晒しスレにぶっこんどくか」

「相手商人なのにな!」



聞こえる声が、答え合わせをしてくれる。

ゲームだから仕方ないとはいえ気分は悪い、が。


そんなモノ吹き飛ぶほどの黄金の山が俺を待っている。

ってわけで……このスライム達は、俺が独占していいんだよな!

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