アバロン③



「来い、アバロン。しっかりと――『俺を目から離す』事の無いようにな」



そう言って、俺は彼へと目をやった。



「あ、ああ……?当たり前だろうそんな事――ッ!」


「はは、掛かって来い」



MPポーションを飲んだ後、走るアバロン。

俺はそれに――ただ立って備えた。


そして、距離にして五メートル。



「食らえ――『邪眼術じゃがんじゅつ蛇睨へびにらみ』!」


「!」



左腕への視線。

次いで彼の右目が黄色に光り……一秒後。



《状態異常:部位麻痺になりました》



「麻痺か――」


「――ぱ、『パワースロー』!」



俺の左腕だけが、痺れた様に動かなくなった。

溜まらず魂斧は手から零れ落ちる。


まさかまだ新しいスキルがあるとはな。



「っと……へえ、投擲なんて君らしくないな」


「! ああ何ひよってんだよおれ――『眼術・弱視』!」



アバロンの手から力なく飛来するナイフ。

そんな『逃げ』じゃ通用しない。

先程のように足が使えない訳じゃないから回避は余裕だ。


その後彼の右目が光り、同じく弱点が……今度は首に表示された。



――さて。

そろそろ、試させて貰おうか。



「う、うおおッ――」


「――っ」



距離にして三メートル。

左手が麻痺となり、何も武器を持ってない俺に飛び込んでくるアバロンへ。


俺は――その右手に隠し持っていた『瓶』の中身を地面へと解放する。



「っ!?あっぶな――」



流石の観察力、その瞬間彼は後ろへ跳んでいた。

彼は恐らくコレを毒だと思っているだろう。


しかし、これは――『砂』だ。

『デッドゾーン』の。

解放した瞬間、アバロンとの間に土埃が舞い上がる。



……名前は『枯れた地の砂』。

れっきとした素材アイテムだが、こんな使い方も出来ると少し前に知っていた。



「――な、なんだ――煙!?」


「……」



《状態異常:部位麻痺が解除されました》


《状態異常:弱点公開が解除されました》



狭い範囲ではあるが、確実に彼と俺の間に薄い砂埃の壁が出来た。

当然彼のスキルの効果も切れる。


そのまま俺は、彼の元に。



「『パワースウィング』」


「――ぐぅッ!?」



明らかな動揺。

そこへ武技は確実に入っていく。


……焦れば焦る程、人の視界は狭まってしまうからな。

重たい一撃は、アバロンを地面に転がらせた。



「くッそぉッ……『邪眼術・蛇睨』――!?」


「ははっそっちは何も持ってないぞ――『ラウンドカット』」


「く、ッ――ぐああ!!」



《状態異常:部位麻痺になりました》


《状態異常:部位麻痺が解除されました》



麻痺する左腕。

右腕に移し替えていた魂斧の武技を、彼の回避ルートに置けば被弾した。

彼の顔に当たる刃。当然視界から俺は消える。


……彼のスキルは、視線の先の対象部位に状態異常を付与するモノが多い。


『蛇睨』なら左腕を見る事で左腕に麻痺を、『能奪』なら足を見る事で足を重く……という様に。

彼の思考を予測すれば大体どこに何が来るのか分かるのだ。

はは、彼の『目』は二つしかないからな。



「……なあアバロン。ちょっと良いか」


「ああ?」

「いつまで――手を抜いてるつもりだ?」



そして俺は、彼にそう声を掛けた。

煽りの言葉じゃない……ただ、闘っていてそう思ったからだ。



「……て、手なんて抜いてねーよ!」


「君は嘘を付く時、目線を下にする癖があるな」


「!? ううっ違う、俺はいつも通りだ……でも、あのスキルだけは――」



意図してスキルを使わない……それが手加減してるって事なんだけどな。


迷いが見られる表情。

アバロンの大きな声も小さくなっていく。



「君の師匠は、『そういう』教えをしているのか?」

「――!し、師匠には……まだ何も、教えてもらってない」


「……? そうなのか」

「お、おれは強いから、誰にも教えを乞わなくても勝てるんだよぉ!」


「いや……じゃあなんで弟子入りしたんだ?」

「師匠はスゲーカッコ良くて――おれはその『左腕』に、その、なる為に……」


「なら尚更――」

「――う、うるせー!喋ってないで掛かってきやがれ!!」



口論?を挟んで十数秒。

俺が彼の師匠なら――なんて考えてしまうのは、レンやドクを教えるようになったからだろうか。


はは、まあ他所の弟子さんに俺の教えを吹き込むのも野暮だよな。



「君が加減しようが関係ない……容赦なく行かせてもらうぞ、アバロン」



インベントリ。

『枯れた地の砂』を取り出しながら――俺は彼へと声を掛けた。


ああそうだ……ちなみにコレ、ほとんど『無料』だから最高なんだよな。









「というか、普通そういうのって『右腕』じゃないか?」

「……」

「……?」

「うがー!知ってるよ、馬鹿にすんな!右の方はもう居るんだよぉ……」

「な、なんかごめん……でも俺としては『左腕』の方が上だから」

「そんなフォローいらねぇ!」




《枯れた地の砂》


採取瓶によって採取された王都・デッドゾーンの砂。

乾燥しサラサラとしているが、どこか不気味な感じもする。

何かに使えるかもしれない。



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