透明少女の忠告(アドバイス)


それからハルとは別れて。

俺は考え事をしながら王都を歩いていた。



《――「また私で良ければ力になりますよ☆」――》



そう言ってくれた彼女には頭が上がらない。

忙しいはずなのに本当にありがたいよ。



《――「瞑想VRって……そんなキツいものなんですか?」――》


《――「ああ。軽く勧めるモノではないかな」――》


《――「うーん、難しいですね……☆あくまでこれはゲームですし。でもニシキさんがやるべきというなら、考えた方が良いかもしれませんね☆」――》



さっきの会話を思い出す。

やはりハルも、ゲームの練習としてそんなモノをやらせる事には悩んでいた。


というか――彼女は年下って感じがしない。

相談も親身に受けてくれるし、アドバイスも的確だ。流石チーフの友人だな。

というかチーフが俺より年上なんだから、彼女も年上の可能性は高いか。

敬語で話すべきかと迷う所だ。



「……人は見かけによらないな、本当に――あ」




適当に歩いていれば、辿り着いたのは『デッドゾーン』前。

相変わらず人がいないその場所。



「はは、もはやクセになってるぞ……」



最近は弟子達の事もあってここによく来ていたせいか。

いつの間にか吸い寄せられる様に来てしまった。


そして、俺が今ここで立ち止まっているのは――



「――久しぶりだな、十六夜。どうしたんだ?」


「……!」


「はは、前の様には行かないぞ」



《暗殺者 十六夜 LEVEL43》



気配に気付き振り向けば――暗殺者の彼女が居た。

どうやらまだ上位職ではないらしい。



「……へへ。やっぱりニシキ、気付いてくれた……」


「ん?」


「い、いや……なんでもないよ……」



控えめに笑う彼女。

小さい声で分からなかったが、表情からするにネガティブなモノではないらしい。



「十六夜は上位職じゃないんだな」


「うん。わたし達特殊職は、普通の職業とは大分転職条件が違うし、その先も完全な上位職ってわけじゃないの……わたしはまだ考え中」


「へえ、そうなのか……良い事聞いたな」



確かに言われてみれば、あの時の水魔法を使ってくるPK職以外では上位職っぽいのは見なかった。


転職条件が難しいのか、それとも転職自体があまり普通ではないのか。

分からないが――奴らが強くならないのなら良い。

……俺個人としてはそりゃ強くなって欲しいが、弟子達にとっては駄目だしな。



「それで……さっきから、何をうんうん言って困ってたの……?」



そして続ける十六夜。

さ、さっきから?一体何時からか分からないが……俺そんな顔にも口にも出てたのか。





「――って事があってな。十六夜は弟子とか居ないだろうからあんまり……」


「……わたし、居るもん……」


「え」


「……そんなに意外?」


「あ、ああ。ごめん。でも教えるの上手いもんな、十六夜」


「えへへ……ありがと」



照れる彼女は、どうやら俺よりもそれに慣れている?様だった。

確かに隠密を習ったのも十六夜からだったっけ。



「……それでね。その……『瞑想VR』?だっけ」


「ああ」


「わたしだったら、迷いなくそれを勧めると思う」


「! そうなのか」


「……うん。だってニシキは、それで強くなったんでしょ?それでその子は、ニシキみたいになりたいんでしょ?」


「ああ」


「それなら、答えは決まってると思うな……」


「……」



彼女の髪で隠れた目が、俺を真っ直ぐに捉えて続ける。



「……二人の子は聞いているぶんには、『本気』でニシキに向かっていってるし」


「それがゲームでも……ね」


「だからニシキは、きっとそれに応えてあげるべきだとおもう……」



諭す様に話す彼女の声は、小さいながらも力強く聞こえた。


……そうか。

答えは、今決まったな。



「――ありがとう。少し俺も彼女達に遠慮していたかもしれないな」



「……!」

「ん?どうした?」



「……彼『女』達……?」



だがさっきから、十六夜の雰囲気が少し変わる。

なにか……張り詰めたような。



「あ、ああ」


「弟子さんって、男の人じゃなかったんだ……」


「はは、ああ。リアルの方でたまたま会った子が頼みこんできてな。二人とも良い子達だよ」


「……り、リアルって……そ、そっか……そうなんだ」


「! 全く『そういうの』じゃ無いからな?明らかに年下だし、本当にただの弟子として見てるよ」


「……ふーん」



何が大丈夫か分からないが、思わずそう言ってしまった。

確かに女の子二人対男一人となると変な感じになるな……自分には全くその気は無いが。

というか明らかに俺よりかなりの年下だし。



「……わたしも、その子達に教える……」


「え」


「……だめ?」


「いやいや!むしろお願いしたかったよ、一人には特に『隠密』は会得して欲しかったんだ」


「……うん、だと思う」


「でも……良いのか?一筋縄では行かないかもしれないぞ。習得には俺以上に掛かるかも……」



レンはまだまだ隠密については未知数だ。

そんなに彼女の時間を取ってもらっていいんだろうか。



「……じゃ。『髪飾り』……終わったらいっしょに選んでほしい……」


「! ああ。もちろん良いよ」


「へへ。前約束してたもんね……」



ようやく笑ってくれた彼女。

途中少し怖かったが……弟子達に教えてくれるということもあって万々歳だ。

髪飾りについてもいつ誘うか迷っていたから丁度良かったしな。



「……じゃ、また呼んで?その子が『瞑想VR』を克服出来たらぐらいに……」


「分かった、本当にありがとう。それじゃ――」


「うん。ばいばい……」



俺は、十六夜に手を振った。

あの時と同じく――なにか少し寂し気な彼女を尻目に。




「……」




それは不思議なものだった。

彼女の目は髪で隠れて、更には無言でいるはずなのに……何となくだが思っている事が分かる様になってる。



「――ちょっとだけ」


「……へぇ?」



だから俺は、思わず声を発していた。



「ログアウトまで少し時間があるから、王都の喫茶店にでも行くか?『前』は行けなかったし」


「!!……う、うん!行きたい……」


「はは、ちょうど話したい事があったんだ。『PKK職』に前会ってな――」



表情が明るくなった十六夜を連れ、デッドゾーンから歩いていく。

どうやら俺の選択は間違っていなかったらしい。


さてと。

今日はログアウトまで、久しぶりにゆっくり過ごすとしようか。






「……♪」


「そういえば十六夜の弟子ってどんな人だったんだ?」


「……うーん、大体同じ職業の子達だよ。フレンドも大体暗殺者……」


「はは、当たり前だが中々物騒なフレンド欄だな」


「えへへ……」

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