二人の修行


会社終わり。

今日は、レンとドクとの約束の日だ。


そして――チーフから聞いていた、『助っ人』が来てくれる日でもあった。



「……!」

「――ぁ、あ……ドクの目の前に『ハル』さんが……」



「あはは~☆そんな委縮しないで良いからね」



目の前には、弟子二人のハルが対峙していた。

見るからに緊張したレンとドク。



《――「今日例の知り合いが行けるって言ってたわ!えっと、花月君の名前教えてくれる?」――》


《――「!ありがとうございます。『ニシキ』です」――》


《――「えええー!?ニシキって、よくあの子から聞いていた名前だわ!凄い偶然!」――》


《――「ほ、本当ですか」――》



……なんて会話を経て。

フレンドリストに居たハルから連絡を貰ったのはログインして直ぐの事だった。



「あの。RLで初めて握手会をやったっていう……」

「かわいいですぅ!」


「え?あははありがと☆アレはリスナーさんが凄かっただけだよ☆」


「ハルって有名だったんだな」


「そうですよぉ!可愛いアバターにキャラ、垣間見える大人っぽさも。広まったきっかけは確か、生産職のPKK……あ!あの商人っって」

「ど、ドクちゃん今さら……?」


「その話は恥ずかしいから無しで頼むぞ」


「ええ~?カッコ良かったですよ☆」


「……ありがとう。ただ個人的にあの時のことは思い出したくないからな」



盛り上がるレンとドク、ハル。

当時の俺の動きは今よりお粗末なものだったし、道中のモンスターなんてちぐはぐな動きだった。


配信の動画にて、自分の顔を見た時の恥ずかしさはもう……。



「――それじゃとにかく、ハルの時間が勿体ないから進めるぞ!」





「それじゃレンちゃん頑張ってねぇ!」

「う、うん」


「よろしくな。ハル」

「はーい☆」



二人と別れ、王都を歩いていく。


レンへの特訓はハルに任せて、という事で。

ドクはドクで近接戦闘を磨かなきゃならないからな、教えるのは俺だ。



「……亡霊と闘えればそれが一番なんだけどな」


「?」


「はは、ごめんごめん。独り言だ」



一度ラロシアアイスに戻った時試したが、亡霊とはもう戦えない様になっていた。

……つまりこの亡霊の魂斧も作れないということ。もっと素材集めておけば良かったよ。

それに特訓の対象としては満点だったしな。



《王都ヴィクトリア・戦闘フィールドに移動しました》


《ドク様のパーティーに加入しました》



『ギャギャギャ!』



「それじゃ、ここでゴブリンを狩ろうか」


「え?わ、分かりましたぁ……『ツインキック』」


『ギギャァ!?』



ドクは戸惑いながらも、『格闘』武技である二連蹴りの武技をゴブリンに放った。

言った様に、彼女にはその拳で闘ってもらっている。


素手といっても装備が無い訳ではなく、『ナックル』装備がある。

両拳のグローブ的なそれ。見た目は防具にも見えるが武器だ。

両手武器の為、俺は使えないが。


拳装備ではあるが蹴りにも補正がかかるらしい。便利だな。



「はは、どんどん狩ってくれよ――今に分かる」


「はい……『スピードナックル』!」


『ギャギャギャ!?』





《貴方は死亡しました》


《デスペナルティとして十分間ステータスが低下します》


《パーティリーダーが特殊クエスト:『餓鬼王からの挑戦状』に失敗しました》


《通常フィールドに戻ります》



「……はっ、はっ、はあぁ……」

「はは、お疲れ様。どうだった?一人でクリア出来そうか」

「……ほ、本気で言ってますぅ?」



アレから、ゴブリン達に囲まれてすぐ。

『ウェーブ4』で彼女は撃沈した。


『視野の広さを得る事』。

『多人数との戦闘に慣れる事』。

その課題二つを達成するのには、そのクエストはピッタリだったが……そりゃ最初はこうなるよな。


でも動きは悪くない。

いつも以上に彼女は動けていたんだ。



「はは、本気だよ。いずれは君にアレを――ウェーブ10以上まで行ってもらう」


「……ニシキさん」


「ん?」


「ドクに、出来ますか?」


「――ああ。君ならきっと。その為に俺が居るんだしな」



《――「ドクちゃんは凄いんです」――》



レンがああ言っていたのが分かる程に、彼女の素質は高かった。

最初はかなり動揺していたが――その格闘センスは目を見張るものがある。

鈍器と盾を構えるよりは確実に拳で闘った方が良いだろう。


そして何より、『精神力』が凄い。

敵に囲まれてもなお――死んでしまったが、取り乱さず対応していた様に見えた。


僧侶のスキルも、当たり前だが商人である俺よりも戦闘向けだ。

これは『あわよくば』で言っている訳ではない。



「はは、全財産賭けても良いぞ?」


「……!それならいっぱい頑張りますぅ!」


「ああ。じゃあちょっと反省会だけしてハルの所に戻ろうか」


「はいぃ!」





「……ドクちゃん、どうだった?」

「えへへ、ドクはまだまだ……レンちゃんは?」

「えっと、私は――」


「――うん、動く敵への当て方とか、特に『遠距離狙撃』に関しては伸びが凄かったです☆」

「へえ。それは凄いな」


「……ありがとうございます。違う職業ではありましたが、凄く参考になりました」

「レンちゃんすごい!」



二人と再会。

どうやら中々にレンはスナイパーの才能があるらしい。


……うん、大分二人の役割がはっきりしてきたな。



「ありがとうハル。君が来てくれて良かった」


「えへへ☆」


「で……ちょっと後で良いか?二人で話したいんだ。レンとドクは解散して良いぞ、お疲れ様」


「! え。い、良いですよ☆」


「分かりましたぁ!」

「はい。本当にありがとうございました、ハルさん」





「……それでニシキさん、話っていうのは」


「ああ、ごめんな」



二人と別れ、ハルと王都を歩いていく。



「それで実際――どうだったんだ」


「!……やっぱり課題点は沢山ありました」


「やっぱりメンタル面か?」


「流石ですね、ニシキさん。そうです。ドクさんと離れてから、最初はほとんど実力を出せていませんでした」


「やっぱりそうか」


「後は、モンスターの『視線』が彼女に向いた途端明らかに焦っていたり、攻撃が外れた後にも動揺が見えて……落ち着いてさえいれば凄いんですけど☆」



……それは何となく分かっていた事だ。

レンはドクと明らかにずっと一緒に居て、言い方が悪いが依存してきた事になる。

二人が俺を倒した時も、レンに視線をやった途端攻撃が命中しなくなった。



いきなりの孤独、性格上の問題……仕方が無いが。



「場数で慣れる……には時間が掛かりすぎる」


「うーん、そうですね」


「それを克服するのに一番なのは恐らく『アレ』なんだが……でもな」


「あ、アレ?」


「ああ――『瞑想VR』だ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る