似たもの同士の好敵手
「はいコレ。約束通りのモノね」
アレから、ブラウンに製作依頼をして。
彼は……無償でそれをやってくれるらしく。
「引き分けなんて初めてだしね~ぶっちゃけGは有り余ってるし全然良いよ」
「そうなのか?ありが――」
「――ニシキっち、お金持って無さそうだし」
「……」
「ちょ、ちょっとブラウン君……」
「良いんじゃないかしら?事実だし」
「……そうだな」
俺以外全員かなりの金持ちだと知ってるから、かなり悲しくなる。
そりゃ、黄金の一撃なり毒アイテムなりで毎回飛んでいくからな……
「やっぱり製作職って儲かるのか?」
「ん?まあオレは超売れっ子だし。ある程度製作者によって装備の見た目が変えられるからね、オレのデザインは人気があるから」
「……今更だが、ブラウンってどっかで見たような……あ」
「彼、結構有名なデザイナーよ」
「課金衣装でよく見るよね、女性装備で」
課金商品を見ていた時に見たデザイナーの名前の中に、彼の名前があったが。
まさか、こんな所に居るとはな……。
「そういうコト!じゃ、渡すよー受け取って」
「あ、ああ」
《餓鬼王の冠がブラウン様から譲渡されました 》
《『餓鬼王からの招待状』クエストの受注条件の一つを達成しました》
「!? 何だこれ」
「ん?ああ『アレ』のキーだからねそれ。クエストアイテムってやつ?防具っぽいけど装備もできないよん」
「なんだそうなのか……って『アレ』?」
「ははッ、そうそうアレ……ああそうだ。また何か依頼があれば遠慮なく言って、友情価格でやったげる〜」
笑ってそう言う彼。
「ん、良いのか?」
「おん!ただし、『キミ以外』のモノ限定ね。ニシキっちの装備は作る気ないから」
「……それ、依頼する事ないだろ」
「はッ――女のコへのプレゼントとかね!」
「はは……ブラウンには、今後依頼する事は無さそうだ」
「いやぁそんな事ないと思うケド。つーかその冠持ってる以上また……ってまあ良いや。じゃあねニシキ、熊ちゃんズも!」
「う、うん」
「ええ」
色々と聞く間もなくそのまま手を振り、歩いていくブラウン。
心なしか――決闘の時よりも薄い対応な気がした。
「……ブラウン君?」
「珍しくあっさりね、いつも長話して行くのに」
二人はそう話す。
でも――何となく彼と俺は、『コレ』で良い気がした。
「なに笑ってるの?ニシキ」
「何でもないよ、ありがとな二人とも。良いプレイヤーに会わせてくれて」
「ほっほっほ。あんな試合観戦出来てこっちこそ嬉しいよ」
「金取れるレベルよ」
「はは、それは何より。じゃあな二人とも」
「ええ。さようなら」
「ニシキ君も早いんだねぇ……」
「ふふっ本当に似てるわね」
……似てるかどうかは置いておくとして。
まさか、こんなところでブラウンの様な者に会えるとは思わなかった。
早くこれをメモに残しておきたい。
頭に溢れる反省点は貴重なモノだ。
引き分けとあってはなおさら。
そしてそれを活かす時は勿論、『再戦』の時。
そう……またいつか。
彼と闘う時があるとすれば――
「――次は俺が勝つよ。ブラウン」
そっと、王都の喧騒に呟いて。
俺はログアウトを押したのだった。
☆
ニシキと別れてすぐ。
オレは、工房の中でメモを取っている。
その記憶は忘れないうちに。
出来るヤツは同じ間違いを繰り返さないからね。
□
《武器商人》
商人でお馴染みの黄金の一撃、蘇生術は省略。
武器はキホン片手斧、他にも片手武器は装備できるっぽい。
本人に聞くのは悔しいから知り合いの防具商人に聞いておく。←!忘れないように!
『黄金の意思』
オーラからして不屈と逆境がある場合に発動(予想だよ)
動きも早くなって、攻撃の威力も増えた。
要注意スキル!
『簡易売却術?』
突如として武器が無くなった。
装備固定も解除された為、恐らく存在自体が消された。
訳分かんねえ!
□
「……こんなもんかな」
先程の戦闘を思い出しながら、息を吐く。
商人は攻略サイトから消え去っている為スキルが本当に分からないんだ。こうして書いたノートが大事になってくる。
「あーあ、引き分けか~……」
白星でも黒星でも無いソレ。
カウントしてはマイナスプラス関係ないゼロ。
でも――
「アツかったな、マジで」
久しぶりに、『燃えた』一戦だった。
だからこそ、勝ちたかった。
敗北のアナウンスが聞こえた時にはこれ以上ない程悔しかった。
最後の彼の『殺気』に怯えず、寸での遅れが無ければ勝ってただろうし。
ま、結果引き分けだったけど。
……オレがニシキに必要以上に接しなかったのは、アレ以上話せば彼の事を『知ってしまう』気がしたからだ。
仲良くなってしまえば、それだけ情報は嫌でも入って来る。
だからアイツには出来る限り『対等』で居たいんだよね。
そう。
『フレンド』じゃない『ライバル』だ。
当然、また闘う時は――
「――次こそオレが勝つよ。ニシキ」
慣れ親しんだ工房の中。
好敵手の彼を思い浮かべながら、オレはそう口にした。
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