決着


それは、もはやニシキの本能だった。


回避は不可。

武器による無効化も間に合わない。


そうなった時――自然と、彼の身体は動いていたのだ。




「――らあ!!!」




ナイフがブレて、彼の首に飛来していく時。

ニシキは――地面に刺さっていた、ブラウンの『魂刀』に魂斧を振る。

丁度、鍔の辺りに斧の刃を引っ掛けて。



「っ――」



その角度、力の入れ具合は完璧だった。

そのまま振り上げれば、狙い通り魂刀が持ち主の元へ回転しながら飛んでいくが。


当然の事。


もはやソレは間に合うはずもない。

だがその執念に近い反撃は、両者とも想像しなかった結末を引き起こす。




「なッ――」




その刃が――『糸』に接触したのだ。

ナイフの後ろ、ニシキすら見えなかったブラウンが操る糸に。




「くっ――」




切れる『糸』。


だが結局。それは所詮……悪足搔きだった。

ナイフは速度が落ち、更に軌道がズレるものの――

操作が効かなくなったとはいえ、反撃を選択したニシキの身体は立ち尽くしたままで。






《ブラウン様との決闘に敗北しました》





その後直ぐに、彼の左腕にはナイフが突き刺さっていたのだから。











「……ど、どうなったの?」


「……わ、分からない、ギリギリ過ぎて……」




地面に倒れながら、その二人の声が聞こえた。

……ああ、俺は死んでしまったのか。



「久しぶりだな……」



その時の環境、商人の初見殺しである『黄金の一撃』スキルのおかげで、俺は何だかんだでギリギリ勝ち続けていた。



『亡霊』、『ベアー』、『十六夜』、『五人』、『両手片手斧』のPK職も全て。



だからだろう。

何時からか。

俺は――忘れてしまっていた。




「……っ」



声にならない声が漏れる。

勝ち続けていたからこそ、その感覚は増幅していく。



その――『敗北』の悔しさが。




「負けたんだな、俺は……」



思い浮かぶのは『二人』の姿。


レン。ドク。

この二人は、俺が強いと思って弟子として志願してくれた。

だからこそ――この負けが響く。



「……」



この世界は、俺の為に出来ていない。


何時からか、自分は甘えていたんじゃないのか?

積み上げてきた勝利に、胡坐を掻いて座っていたんじゃないのか?




「……そうだよな」




今の俺がやる事は決まっている。

この敗北すらも糧にして――強くなることだ。




《通常フィールドに戻ります》







「……強いね、ニシキっち。まさかオレが負けるなんて思わなかったよ」


「……は?」


「最後のキミの足掻きは予想出来なかった。それが無ければ、一瞬の差でオレが勝って――」



反省点を並べながら。

王都に戻ったと思ったらそう言いながら肩を叩くブラウン。



「負けたのは俺だ、何言ってるんだ?」


「――はぁ?」


「え?」




お互い目を見合わせる。

……どういう事だ?


この様子じゃ嘘なんて付いてるわけないし、付く様なヤツじゃないだろう。



「……俺が負けたんだけど……」

「いやオレが負けたっての!」

「いやいや、だから……」

「いやいやいや!確かに俺は出血と部位欠損の継続ダメージで――」



「――ちょっといい、二人」



どっちが負けたかの言い争い?を割ったのはクマーだった。



「……このゲーム、決闘で両者が同時にHPがゼロになったらどうなると思う?」


「え……」

「はあ?そんなコト――」



……もしかして。



「言い換えるわ。『お互い同時に負けた』場合、どんなアナウンスになると思う?」



「……まさか」

「……そういうコト?」



つまり。

ブラウンは状態異常のダメージでHPがゼロに。

俺はナイフの一撃によりHPがゼロに。


そのタイミングが重なって――両者敗北という判定になったと。




「はは……」

「ははッ、そんなキセキ起こるんだね~」




二人して笑う。


そして。

その強者に、俺達は向き直った。




「――強いね、ニシキ」

「――君もだ、ブラウン」




合わせるのはお互いの手。

この『死闘』は――きっと、忘れられないモノになるだろう。




「ッ、商人なのに力つよ……」


「はは、裁縫士には負けないよ」


「裁縫『術』士な!器用さとスピードでは勝ってるからね!」




不自然に『強く』握られたその手を、俺は強く握り返す。

何故か自然と、彼には負けたくない気持ちが強く出てしまう様だった。




《――「貴方によく似てるわね」――》



最初は認めたくなかったが。

そんなクマーの台詞は、あながち間違ってないのかもしれない。







「……で。ブラウンは俺に似てると思うか?」

「は?そんなダサ、いやフツーの装備してるニシキと似てるだって?」

「!……お前はそんな奴に引き分けたんだぞ」

「――!?さ、サイアクだああー!!」

「ははは」



「ニシキ君、笑ってるけど顔死んでるよ……」

「まあ彼以外課金衣装だし、仕方ないわね」



※登場スキル


剛糸増強ストリング・ストロング

HPが少なければ少ない程、次の攻撃のダメージを増加させる。

(次の攻撃にて武器を投擲した場合、伝う糸を用いて投擲物の遠隔操作が可能になる)


戦闘中一度しか発動出来ない。


糸枷ストリングトラップ


対象の足に糸を巻き付け、状態異常『移動速度低下』を付与する。

再使用時間が長く、使い所が肝心。


糸状装甲ストリングアーマー


物理攻撃ダメージ減少効果を自身に付与する。

火・炎属性の攻撃を受けた場合二倍のダメージを受ける。

自身の体力が1割より少なくなる攻撃を受けた時、このスキルは強制的に解除され、代わりに体力が1割残る。


糸伝炎鎖ファイアーチェイン


『糸状装甲』を発動中、対象が物理攻撃を自身に与えていた場合発動出来る。

その対象へ糸を伝わせ引火、火が対象へ到達した瞬間大ダメージを与える。


距離が遠い程ダメージが増加し、対象はこの糸を破壊する事で大ダメージから逃れられる。

発動中は攻撃・スキル発動・移動不可。


再使用時間は長く、使い所が肝心。


縫合治療ストリング・オペレーション

自身に十秒間継続的な回復効果。

状態異常に陥っている時はその状態異常が解除されるまで回復効果。


再使用時間は長く、使い所が肝心。



※未登場スキル



蘇生糸操マリオネット


死亡した後発動できる。

スキル発動後、復活するが1分間経過すると死亡してしまう。

復活後30秒間STR・DEX・AGIが上昇。


戦闘中一度しか発動出来ない。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る