似た者同士③


「ほんと彼らを見てたら落ち着かないよ。勿論いい意味でね」


「ええ。こんな決闘を見れるなんて本当にツイてるわ」



観客席、二人は燃え上がる決闘に釘付けになっていた。



『武器商人』と『裁縫術士』の決闘。

長く続いた裁縫術士の優勢は、黄金の意思を発動した商人によって逆転。



「――『スラッシュ』!」


「ぐッ!早すぎっしょ……!」



魂刀化したソレを振るうニシキに、腕を掠ってしまうものの避けるブラウン。



(ははッ、三十秒ってこんな長かったっけ)



『刀』をもったニシキは、もはや別人と思える程に動きが変わっていた。

まるで獣が、獲物を狩る様に。 


確実に殺される。   

決して生きては帰れない――そう錯覚させるほど、彼の動きは速く鋭い。



「っ――」


「――うおおッ!」



それを予測し、ブラウンは持ち前の器用さで避けていく。

彼の並外れた回避能力で、不可能かと思われたニシキの攻勢を何とか凌げていた。


しかしそれでも、着々と追い詰められて。



「『ラウンドカット』!」


「ッ、痛ったいね――」



円周上の武技。

またも腕を掠る、が……



(でもこれで今28秒。もうすぐ魂刀化の効果時間はオワリ!)



ブラウン自身、手に持つのは同じ亡霊の武器。

属性上昇も済んでおり、『黒の変質』から『魂刀化』へと済ませていたのだ。


だからこそ、その情報は取得していた。

未だ魂刀化は発動していない為、当然ニシキはその事に気付いていないが。



「――らあ!」


「くッ――」



(何とか凌ぎきったよ……!これで――)



彼の張り詰めた緊張感は、そこでほんの一瞬解かれる。

なんせ、あの『刀』はもう終わりなのだから。



でも。




「――えッ!?」



確かに、アレから30秒は経っていたはずだった。


なのに――



「――『黄金の一撃』!」



目の前。

当然の様に――彼は未だにその刀を握っていて。



「間に合わな――いッ、『糸枷』!」



《状態異常:出血となりました》


《状態異常:部位欠損となりました》


《不屈スキルが発動しました》


《『糸状装甲』が解除されました》



輝く一閃は、クリーンヒットとはいかないまでも彼の左腕を切りつける。


ブラウンに響く大量のアナウンス。

『糸状装甲』の効果により、何とかブラウンは生き残る。

残りHPはぴったり1割。


そして『糸枷』は、対象の移動速度を低下させるスキル。

そのまま彼はニシキから大きく距離を取った。



「大、惨事じゃん……はッ、装甲無かったら終わってたね」




(なんで、確かにあの効果時間は30秒のはず)


(属性上昇ではそこは変わらなかった、可能性があるとすれば、『商人』の特性なのかな?)



……その考えは正解だった。

ニシキの武器商人のスキルにより、ベアーの加工時に魂刀化の効果時間が15秒伸びていたのだ。

魂刀化+の『+』の効果は――紛れもなく今、ブラウンに刺さっていた。



「はッ、はあッ――ヨミが外れちゃったね……『縫合治療ストリング・オペレーション』」


「回復スキルもあるのか」


「おん!まあ保険程度のもんだけど――」



そのまま次の一手を巡らし自身を施す。

『縫合治療』は、HPを少しずつ継続回復するスキルだ。


『糸枷』と『縫合治療』どちらも一度発動すればリキャストは長い。

ここぞという時に発動するそれらは……ブラウンも久しぶりに発動するもの。


残りHPは刻々と減り、紅い視界に片腕を失った今――彼は確実にピンチだった。



(ニシキっちがここまでやるなんて思わなかったよ)


(出血に、左腕も動かない……縫合治療よりも継続ダメージの方が大きいね)


(このまま逃げてもいずれ敗北とッ、参ったな)



それでもブラウンは、ゆっくりと迫る商人へナイフを構える。

その、亡霊の魂小刀を。


『まだまだ終わらない』、そんな意思を示すように。



「……ははッ、良いね!」



《――「『HPが0.1%になっても、片足を切り離されても」――》


《――「『勝利』の為に足掻き続けろ」――》



ブラウンの頭の中、蘇るのは『最強』の台詞。



(ああ、思い出す……『あの時』の事)

(オレはずっと、彼の言葉通りにやってきたんだ)

(そしてそれは――これからも!)




ゆっくりと流れる時間の中。

彼を支えてきたその言葉が、反復するように響き渡る。




《――「『次からお前は、二度と負けるな』」――》





「――っ!?」




――商人は思わず身構える。



その時。

ブラウンを纏う空気が変わっていった。


今、追い詰めているはずの裁縫術士から。

とてつもない圧がニシキにかかっているからだ。

まるでそれは――過った『勝利』の未来を握りつぶすかの様に。




(超えてみせろよ、オレ)


(この絶体絶命の危機を――ジブンが持つ全てを使って!)




それもそのはず。

彼は――ニシキと同様に。



幾度と迫った『逆境』を、乗り越えてきたプレイヤーなのだから。




《逆境スキルが発動しました》




ブラウンのHPは既に8%。

彼にアナウンスが鳴ると共に――




「始めようか――オレの『逆襲ストライク・バック』を! 」


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