似た者同士②


「どうやら、ナイフの取り扱いはお粗末みたいだねっ!」


「ぐっ――」



アレから、形勢は大きく傾いた。

ブラウンのHPは七割。対して俺は三割を切りそうになっている。

まるで蹂躙だ。


……なんせ俺の武器はスチールナイフ。

武技は当然使えない。

投擲も、行おうとすれば――



《装備は固定されています》



まるでナイフが縛り付けられたかの様に、この手から離れない。

それもそのはず……見れば、実際に手と武器を繋ぐ様に糸が絡まっているのだから。


小刀の戦闘は練習はしたものの――『片手斧』に比べれば酷いモノ。

そこら辺のPK職なら、成す術もなくやられるだろう。


でも……今の俺はコレで闘うしかない。



「――スティング」


「っ!――」


「『スティング』。ははッ、焦りすぎだよニシキっち!」



焦燥。

彼のナイフの突き――ブラフの武技にまんまと騙されて。



《逆境スキルが発動しました》



「ぐっ……」


「まだまだ――わッ!?」



ナイフを振りかざすブラウンの正面、放った麻痺毒瓶――それで俺は追撃を逃れる。



「……」


「まさか毒瓶で強制的に距離を取るとはなあ……こんなやり方もあるんだね!」



笑うブラウン。


……実際今逃げただけで、形勢は何も変わっていないんだ。

この状況を打開しなくては。

彼相手に時間稼ぎは通用しない。



「ははッ、案外このスキルは『対ヒト』で刺さるんだ~ニシキッちにはガン刺さり?かな」


「投擲を使うプレイヤーには、かなり辛いと思うぞ」


「おん!実際オレも使われたら嫌だわ~」


「……ブラウンは、PK職とも闘ってきたのか?」


「勿論。今のジブンは彼らが居てこそだからね~」



俺を見て軽く笑うブラウン。

相当の数、彼は闘ってきているな。


通りで手ごわい訳だよ。



「ねえ、ニシキッち」


「なんだ?」


「――キミがこのままなら、次で終わらせるよ」


「っ!」



彼の宣言。

もうすぐに、俺のHPはゼロになると言っているのだ。



「さてさて!それじゃここまで付き合ってくれたキミへとっておき!」



彼は人差し指をこちらに向けて。




「――『糸伝炎鎖ファイヤーチェイン』!」


「な――」



唱える。

その間俺は接近するものの――思わず足を止めてしまった。


彼の指から現れたのは小さな『火』。

それは――俺の身体へと向かってきているのだ。


まるで導火線の様に。

スキル発動と同時に現れた、俺の身体と彼の指に繋がる糸を伝い。

マッチの様な火だったはずが轟々と燃える炎へ変化して。

逃げ場が、無い。



「っ――ダメか!」



軌道上、俺に繋がっているその糸を切ろうにも、まるで鉄かのように固く切れない。

武技も使えず、更に『スチールナイフ』では……到底切断なんて不可能なそれ。


避けようにもその糸は自分に繋がっている様で回避不可能。




「この糸は生半可な刃じゃ切れない――終わりだよ、ニシキっち」




――このまま突っ込むか?

駄目だ。

進めば――その糸に自分から突っ込む事になる。

彼に飛び込むのは炎に飛び込むのと同義。というか、逃げても『糸』のせいで一緒なんだが。



「どうする――」



このスキルは、恐らく『火』が俺の身体に到達すれば終わり。

残された時間はざっと五秒。



「――!」



迫る燃える糸。

敗北が過った瞬間――俺の頭に一つの案が現れた。




《――「この商人の改善術はともかく、売却術って使う意味あるか……?」――》




思い出すのは自分の台詞。


……ああ。

俺には――そのスキルがあるじゃないか。

これは賭けだが、勝算はある!


ほんの少しの可能性でも、試してみる価値はあるだろう。



「『高速戦闘』――」




まずは時のスピードをゆっくりにして。

次に、本命のソレを発動した。




「――『簡易売却術』!」



《売却するアイテムを選択してください》


《スチールナイフが売却されました》


《5000Gを取得しました》


《状態異常:装備固定が解除されました》



「……はあッ!?」



指を構えたまま、驚愕の声を発するブラウン。


……念のため、少し前に簡易売却術を試していたおかげでスムーズに出来た。

武器が手から離せないのなら、システム的にそれの存在ごと無くしてしまえば良い。

俺は、装備していたスチールナイフを『売却』したのだ。



「やった――」



――賭けは成功。

左手から消えるそれを確認し、魂斧を取り出す。



「――行けるな」



そしてそれは、無事に手に収まった。

装備状態によるステータス補正を感じながら、俺はその武器の属性を発動する。




「『魂刀化』!!」



そのまま俺は『刀』へと変えた。ナイフじゃ不可能だったが『刀』なら別だ。


俺は……『居合』の構えを取って。





「――っ」





切り裂け。

この先の、勝利の為に。





「――『パワースウィング』」




下段から上段への斬り上げ。

手に掛かる『剛糸』の感覚。


俺はそれに負けないよう――構えから全力で振り上げた。




「お……おいおいマジかよ――『糸錠固定』!」



《状態異常:装備固定となりました》


《亡霊の魂斧が装備固定状態となりました》



プツンと消える糸の感覚。

行き場を失った炎は途端に消えて――後ろには、無防備なブラウンの姿。


恐らく投擲を防止する為の『糸錠固定』なんだろうが、それは逆に利用させて貰おう。



――ここで攻める!



《状態異常:毒となりました》



インベントリから毒瓶を服用。

アレから少し、『不屈』スキルについて検証した結果。

二つの状態異常に陥れば――八割程の確率で、それは発動してくれる。



今の場合、『毒』と『装備固定』。


……頼む!



《不屈スキルが発動しました》



「よし――『黄金の意思』!」



《150,000Gを消費しました》




「なんだか分っかんないけど、隙あ――」


「――『スラッシュ』!」



その殺気には、さっきから気付いていた。

取っていた居合の構えから――魂刀でカウンターを。



「ぐあッ――う、うおお!?」



不屈。

逆境。

黄金の意思。




衝撃から地面を転がるブラウン。

それら全てが重なった今、その速さと威力は途轍もない事になる。



『糸状装甲』があったとしても――彼のHPは既に、半分を切った。




装備固定も気にする事は無い。

後は全て……この魂斧で彼を倒すのだから。



《状態異常:毒が解除されました》



「――っ、よし」



彼との距離が離れた隙に『解毒薬』を飲んでおく。

『装備固定』に陥っている今、『不屈』が解除される心配は無い。



……これで後は、攻めるだけだ。




「行くぞ、ブラウン」

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