似た者同士①
☆
《決闘専用フィールドに移動します》
「ふふ、二人ともがんばれ~」
「観客席で見るのも久しぶりだなあ」
「テンション上がるわねー!」
王都の決闘場は、ラロシアアイスより豪華風だ。
そこの客席には二人の熊が座っている。
「お待た~!今更だけどニシキっちもオーケ?」
「ああ、大丈夫だ」
ブラウンに、俺はそう返す。
インベントリ内にはいつもの『毒』達もあるし、各片手武器も揃ってる。
「っし!それじゃ――」
《ブラウン様から決闘申請を受けました》
《決闘申請が受理されました》
《決闘は三十秒後に開始されます》
「よろしく、ブラウン」
「おん!そうこなくっちゃな~」
相変わらず軽い口調。
でも。
二人が言うからには、きっと警戒しなくてはならないんだろう。
「……そのナイフは、亡霊の素材から?」
「お!流石『武器』商人さん。お目が高いね、その通り~」
彼の持つそれは、俺の亡霊の魂斧の様な見た目をしていた。
予想は出来ていたが、武器も自分と同じで誰かに作ってもらっていたんだな。
「ニシキっちも持ってるんだね、そりゃ種類は違うけど。斧なんて初めて見たなあ」
「ああ。俺も初めてだよ、亡霊シリーズのプレイヤーに会うのは」
「おん!ほんと良い武器だもんねコレ。皆もっと持てば良いのになー!あ、そうだ」
《決闘は十秒後に開始されます》
アナウンス。
それに気に留めない様笑って、彼は不意に何かを取り出す。
それは――五本の黒いナイフで。
「よっよっよっ」
「!?」
「ははッ、アイツと闘うの楽しくて10本分は集まったんだよね!こんな芸も出来ちゃう――」
取り出したナイフ達を、ジャグリングの如く空中に投げるブラウン。
……それは危険な行動をしている筈なのに、全く危なげなく見えた。
彼は、一体何者なんだ?
「――ッと。それじゃ準備運動も終わったし――」
《決闘を開始します》
「――やろうか、ニシキっち! 」
「ああ――『瞑想』」
《瞑想状態になりました》
そんな芸を見せてくれた後、一つを残しナイフを仕舞い彼は俺に向き直る。
……いつも通りやれば良い。
防具がかかっているのは分かる――それでも、落ち着いてやるだけだ。
「――『パワースロー』!」
地面に魂斧を刺し、インベントリからスチールアックスを取り出し投擲。
そのまま俺は魂斧を拾い走って接近する。
この動作にも――大分慣れたもんだな。
「……オレの首元一直線!良い投擲だね――」
笑うブラウン。
その様子には、未だ回避の様子は無い。
まるでその攻撃を『待っている』様に。
「――でも、これは通らない!」
「!?」
――『それ』はいつの間にか自分のモノだと思っていた。
実際これまでどの敵も、どのプレイヤーも使用する事なんて無かったからだ。
でも。
たった今。
目の前に――同じスキルを使う者が居る。
「――ぐっ!!」
その名は『反射』。
成す術なく俺は、首元に跳ね返ってきた斧に被弾した。
「ははッ、クリーンヒット!」
その小さな刃で、俺の投擲したスチールアックスは反射されたのだ。
「――さあ休む隙は与えないよっ、『パワースロー』!」
また同じく、投擲武技。
体勢を崩した俺に向かって迫る小刀。
「……まさか、『反射』なんてな――」
《――「一つ言えるのは、『貴方によく似てる』って事ね」――》
クマーの台詞が蘇る。
……本当に、この世界は広いもんだ。
「――っ!」
俺は、手に持つ魂斧を振るう。
何時もの様に。刃を横に向けて――
《Reflect!》
「――ッ!反射ぁ!?」
間一髪。
彼は跳ね返った己のナイフを避けた。
……あのスピードの反射を避けられるなんて、相当の反射神経だぞ?
「ははッ、いやあ奇遇だね……」
「まさか同じ『反射』持ちとはな」
「対人戦じゃよくある事だけど、流石にコイツはオレだけだと思ってたわぁ!」
お互い距離を取った後、間合いを詰めていく。
こうなると――接近戦で行くしかない。
「――『パワースロー』!」
「!?」
そう思い、魂斧を手に突っ込もうとした瞬間。
ブラウンから、またも襲い掛かるナイフ。
でも――その武技はよく知ってる。
二度目なら、もう余裕だ!
「――らあ!」
「……ああ、ニシキっちならそう来てくれると思った――ッ!」
「な!?」
反射によって跳ね返されたそのナイフ。
それを、彼は――もう一度『反射』し返したのだ。
襲い掛かる、速度が増したその一撃。
「ぐっ!」
「ははッ、オレってば家庭科の成績だけはいつも10点満点でさ。『器用さ』では誰にも負けた事ないんだよね」
笑って俺に近付くブラウン。
どうやら、彼はかなりの強者らしい。
「まだまだこれからだよ、ニシキっち!」
☆
彼の武器はナイフ。
裁縫術士と言う名前ではあるものの、未だにその要素は無い。
むしろ――
「――『スラッシュ』!」
「ははッ、当たらないよ――『スティング』!」
その動きは、PK職の小刀使いに似たモノがある。
彼の場合スピードに頼らず、身体を器用に動かし回避する為……より厄介なんだが。
「ぐっ――」
「……ニシキっち、こんなもんじゃないよね?」
衝撃のまま後ろに下がり、距離を取る。
挑発というよりも期待という台詞。
……それなら、ここで試してみよう。
「――らあ!」
「!」
俺は、魂斧をインベントリにしまい、反射が出来ない様取り出したスチールアックスを彼の地面に放る。
これはただのブラフと時間稼ぎ。
そして――
「――へえ、ダブルナイフかあ!」
その間インベントリから取り出したのは、二つのスチールナイフ。
商人は両手に武器を装備出来ない。
だが、ただのアイテム扱いとして『持つ』事は出来るんだ。
装備扱いではない右手のナイフは、投擲武技は当然不可能。
ステータスにも負荷補正が掛かっている様で、重く扱いづらい。
「――っ」
「!」
でも、ナイフ程度なら大丈夫だ。
麻痺毒瓶を投げる様、彼へと放つ。
着想はあの時の、水魔法を使うPK職。
それを少し変えた――投擲の同時攻撃。
「――『パワースロー』!」
ブラウンは『反射』行動は無い。
彼が回避を選択したのを確認してから――左手のスチールナイフを遅れて投擲。
直後にダッシュし、インベントリから魂斧を。
「くッ――」
「――『ラウンドカット』!」
「ッ!?避けれな――『
近付いた後、避けようとする彼に円周上を切る武技。
これなら全方位に攻撃できる――そしてその狙いは成功し、彼の左腕を切り裂いた。
……それでも、彼のHPは二割ほどしか削れない。
本来なら三割ぐらい減っていてもおかしくないんだが。
まあそのスキルのせいだってのは分かってるけどさ。
「……硬いな」
「おん!見た目はちょっとダサいけど良いスキルなんだぜ!」
彼を纏う様に現れた、硬い糸が編まれたような鎧。
触り心地が良さそうで……見るからに攻撃を吸収しそうだな。
「……なら――」
もう一度、繰り返すだけだ。
インベントリから、スチールナイフ――
「――ははッ。ごめんねニシキっち、『
《状態異常:装備固定となりました》
《スチールナイフが装備固定状態となりました》
俺が魂斧からスチールナイフに装備を変更した瞬間。
「!?」
狙いすました様に、突如流れるアナウンス。
装備固定――その効果は、説明を見なくても分かる。
背中に、冷たい汗が流れていくのを感じた。
……まさかと思い、俺はインベントリを開く。
《状態異常に陥っている為、現在の装備から変更は出来ません》
そして、その予感は当たる。
魂斧にも。
《状態異常に陥っている為、現在の装備から変更は出来ません》
当然の様にスチールアックスにも、もう変えられない。
「封じさせてもらったよ、キミの『斧』を!」
『
物理攻撃に対しダメージ減少効果を自身に付与する。
火・炎属性の攻撃を受けた場合二倍のダメージを受ける。
自身の体力が1割より少なくなる攻撃を受けた時、このスキルは強制的に解除され、代わりに体力が1割残る。
『
対象の装備部位に状態異常『装備固定』を陥らせる。
再使用には時間が掛かるものの、持続時間は長い。
状態異常『装備固定』
この状態異常に掛かった対象部位は、異なる装備に変更・外す事が出来なくなる。
『装備破壊』など装備そのものが無くなった場合や、対象部位が『部位欠損』となった場合などはこの状態異常も同時に解除され、新たな装備を装備出来るようになる。
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