似た者同士①




《決闘専用フィールドに移動します》



「ふふ、二人ともがんばれ~」

「観客席で見るのも久しぶりだなあ」

「テンション上がるわねー!」



王都の決闘場は、ラロシアアイスより豪華風だ。


そこの客席には二人の熊が座っている。



「お待た~!今更だけどニシキっちもオーケ?」


「ああ、大丈夫だ」



ブラウンに、俺はそう返す。

インベントリ内にはいつもの『毒』達もあるし、各片手武器も揃ってる。



「っし!それじゃ――」



《ブラウン様から決闘申請を受けました》


《決闘申請が受理されました》


《決闘は三十秒後に開始されます》



「よろしく、ブラウン」


「おん!そうこなくっちゃな~」



相変わらず軽い口調。


でも。

二人が言うからには、きっと警戒しなくてはならないんだろう。



「……そのナイフは、亡霊の素材から?」


「お!流石『武器』商人さん。お目が高いね、その通り~」



彼の持つそれは、俺の亡霊の魂斧の様な見た目をしていた。

予想は出来ていたが、武器も自分と同じで誰かに作ってもらっていたんだな。



「ニシキっちも持ってるんだね、そりゃ種類は違うけど。斧なんて初めて見たなあ」


「ああ。俺も初めてだよ、亡霊シリーズのプレイヤーに会うのは」


「おん!ほんと良い武器だもんねコレ。皆もっと持てば良いのになー!あ、そうだ」




《決闘は十秒後に開始されます》




アナウンス。

それに気に留めない様笑って、彼は不意に何かを取り出す。


それは――五本の黒いナイフで。



「よっよっよっ」


「!?」


「ははッ、アイツと闘うの楽しくて10本分は集まったんだよね!こんな芸も出来ちゃう――」



取り出したナイフ達を、ジャグリングの如く空中に投げるブラウン。

……それは危険な行動をしている筈なのに、全く危なげなく見えた。


彼は、一体何者なんだ?




「――ッと。それじゃ準備運動も終わったし――」




《決闘を開始します》



「――やろうか、ニシキっち! 」


「ああ――『瞑想』」



《瞑想状態になりました》



そんな芸を見せてくれた後、一つを残しナイフを仕舞い彼は俺に向き直る。


……いつも通りやれば良い。

防具がかかっているのは分かる――それでも、落ち着いてやるだけだ。



「――『パワースロー』!」



地面に魂斧を刺し、インベントリからスチールアックスを取り出し投擲。

そのまま俺は魂斧を拾い走って接近する。


この動作にも――大分慣れたもんだな。




「……オレの首元一直線!良い投擲だね――」




笑うブラウン。


その様子には、未だ回避の様子は無い。

まるでその攻撃を『待っている』様に。



「――でも、これは通らない!」


「!?」



――『それ』はいつの間にか自分のモノだと思っていた。

実際これまでどの敵も、どのプレイヤーも使用する事なんて無かったからだ。



でも。

たった今。

目の前に――同じスキルを使う者が居る。



「――ぐっ!!」



その名は『反射』。

成す術なく俺は、首元に跳ね返ってきた斧に被弾した。



「ははッ、クリーンヒット!」



その小さな刃で、俺の投擲したスチールアックスは反射されたのだ。



「――さあ休む隙は与えないよっ、『パワースロー』!」



また同じく、投擲武技。

体勢を崩した俺に向かって迫る小刀。



「……まさか、『反射』なんてな――」



《――「一つ言えるのは、『貴方によく似てる』って事ね」――》




クマーの台詞が蘇る。

……本当に、この世界は広いもんだ。



「――っ!」



俺は、手に持つ魂斧を振るう。


何時もの様に。刃を横に向けて――



《Reflect!》



「――ッ!反射ぁ!?」



間一髪。

彼は跳ね返った己のナイフを避けた。


……あのスピードの反射を避けられるなんて、相当の反射神経だぞ?



「ははッ、いやあ奇遇だね……」


「まさか同じ『反射』持ちとはな」


「対人戦じゃよくある事だけど、流石にコイツはオレだけだと思ってたわぁ!」



お互い距離を取った後、間合いを詰めていく。

こうなると――接近戦で行くしかない。



「――『パワースロー』!」 


「!?」



そう思い、魂斧を手に突っ込もうとした瞬間。

ブラウンから、またも襲い掛かるナイフ。


でも――その武技はよく知ってる。

二度目なら、もう余裕だ!



「――らあ!」


「……ああ、ニシキっちならそう来てくれると思った――ッ!」


「な!?」



反射によって跳ね返されたそのナイフ。


それを、彼は――もう一度『反射』し返したのだ。

襲い掛かる、速度が増したその一撃。



「ぐっ!」


「ははッ、オレってば家庭科の成績だけはいつも10点満点でさ。『器用さ』では誰にも負けた事ないんだよね」



笑って俺に近付くブラウン。

どうやら、彼はかなりの強者らしい。



「まだまだこれからだよ、ニシキっち!」




彼の武器はナイフ。

裁縫術士と言う名前ではあるものの、未だにその要素は無い。

むしろ――



「――『スラッシュ』!」


「ははッ、当たらないよ――『スティング』!」



その動きは、PK職の小刀使いに似たモノがある。

彼の場合スピードに頼らず、身体を器用に動かし回避する為……より厄介なんだが。



「ぐっ――」


「……ニシキっち、こんなもんじゃないよね?」



衝撃のまま後ろに下がり、距離を取る。


挑発というよりも期待という台詞。

……それなら、ここで試してみよう。



「――らあ!」


「!」



俺は、魂斧をインベントリにしまい、反射が出来ない様取り出したスチールアックスを彼の地面に放る。

これはただのブラフと時間稼ぎ。


そして――



「――へえ、ダブルナイフかあ!」



その間インベントリから取り出したのは、二つのスチールナイフ。


商人は両手に武器を装備出来ない。

だが、ただのアイテム扱いとして『持つ』事は出来るんだ。


装備扱いではない右手のナイフは、投擲武技は当然不可能。

ステータスにも負荷補正が掛かっている様で、重く扱いづらい。



「――っ」


「!」



でも、ナイフ程度なら大丈夫だ。

麻痺毒瓶を投げる様、彼へと放つ。


着想はあの時の、水魔法を使うPK職。

それを少し変えた――投擲の同時攻撃。



「――『パワースロー』!」



ブラウンは『反射』行動は無い。

彼が回避を選択したのを確認してから――左手のスチールナイフを遅れて投擲。

直後にダッシュし、インベントリから魂斧を。



「くッ――」


「――『ラウンドカット』!」


「ッ!?避けれな――『糸状装甲ストリングアーマー』 !」



近付いた後、避けようとする彼に円周上を切る武技。

これなら全方位に攻撃できる――そしてその狙いは成功し、彼の左腕を切り裂いた。


……それでも、彼のHPは二割ほどしか削れない。

本来なら三割ぐらい減っていてもおかしくないんだが。


まあそのスキルのせいだってのは分かってるけどさ。



「……硬いな」


「おん!見た目はちょっとダサいけど良いスキルなんだぜ!」



彼を纏う様に現れた、硬い糸が編まれたような鎧。

触り心地が良さそうで……見るからに攻撃を吸収しそうだな。



「……なら――」



もう一度、繰り返すだけだ。

インベントリから、スチールナイフ――




「――ははッ。ごめんねニシキっち、『糸錠固定ストリングロック』」




《状態異常:装備固定となりました》


《スチールナイフが装備固定状態となりました》



俺が魂斧からスチールナイフに装備を変更した瞬間。



「!?」



狙いすました様に、突如流れるアナウンス。

装備固定――その効果は、説明を見なくても分かる。


背中に、冷たい汗が流れていくのを感じた。



……まさかと思い、俺はインベントリを開く。



《状態異常に陥っている為、現在の装備から変更は出来ません》



そして、その予感は当たる。

魂斧にも。



《状態異常に陥っている為、現在の装備から変更は出来ません》



当然の様にスチールアックスにも、もう変えられない。




「封じさせてもらったよ、キミの『斧』を!」



糸状装甲ストリングアーマー


物理攻撃に対しダメージ減少効果を自身に付与する。

火・炎属性の攻撃を受けた場合二倍のダメージを受ける。

自身の体力が1割より少なくなる攻撃を受けた時、このスキルは強制的に解除され、代わりに体力が1割残る。



糸錠固定ストリングロック


対象の装備部位に状態異常『装備固定』を陥らせる。

再使用には時間が掛かるものの、持続時間は長い。



状態異常『装備固定』


この状態異常に掛かった対象部位は、異なる装備に変更・外す事が出来なくなる。

『装備破壊』など装備そのものが無くなった場合や、対象部位が『部位欠損』となった場合などはこの状態異常も同時に解除され、新たな装備を装備出来るようになる。

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