ブラウン


「……」


「ほっほ、ニシキって彼女に大分気に入られたね」


「……そうか?」



つい先ほどの事。

餓鬼王の印を見せた後の事だ。



〈――「……頂戴、ほら。見てくるわ」――〉


〈――「えっ今からか?別に急ぎじゃ」――〉


〈――「あーもう!良いから早く!」――〉



そう言って、彼女はそれを受け取り『鑑定部屋』に向かった。

ベアーも居るから忙しいだろうし、悪い気しかしないんだけど。


まあ……せっかくだし彼女には甘えてしまうか。






「……はぁー疲れた。終わったわよ、はい」




【餓鬼王の印】


素材アイテム。


餓鬼王からの挑戦状をクリアした際に得られるモノ。

持っていると、ゴブリン系のモンスターから攻撃されにくくなる。


加工する事で冠のような防具が製作出来そうだ。






「見て分かる様に、防具の素材ね」


「防具?」


「ええ。貴方の場合なら革鎧ね、ちなみにベアーは製作無理よ。鍛冶師だし」


「……うう、そっかあ……ニシキのスキルもあるし、武器だったらなあ」


「はは、しょうがないって」



うなだれるベアーに声を掛ける。

でも――防具か。



「ありがとう、凄く助かったよクマー。後は流石に――」


「――良いの?ニシキ」



『自分で職人を探すよ』、そう言いかけて彼女が止める。


これ以上迷惑を掛けるのは駄目だと思ったし、クマーもそれは――



「私は、嫌じゃないわ」


「!」


「ほっほ、クマーちゃんもこう言ってるんだし」



まるで思考を読むかの様に言う彼女。

敵わないな、クマーには。



「――頼む。『ツテ』があるのなら教えてくれ」


「ふふ。この私よ、当然居るわ――それにいつか貴方には、会って欲しいプレイヤーだったのよ!」



珍しく興奮した様子の彼女。

『会って欲しい』……って、どういう事だ?



「ほっほっほ、『ブラウン』君だね」


「ぶ、ブラウン?……分からないが、紹介してくれるなら誰でもありがたいよ」


「ふふっ、ええ。それなら早速行きましょう」


「分かった……ちなみにその人ってどんな感じなんだ?」



クマーがそう言う人物が、かなり気になった。

会って欲しいという意味もまだ分からないし……。



「……そうね。会ってからのお楽しみだけど、一つ言えるのは――『貴方によく似てる』って事ね」


「えっ」



彼女は、メールらしきものを打ち終わって俺に向く。



「オッケーらしいわ!それじゃ行きましょう!」


「あ、ああ……」


「ほっほっほ」







数分後。

王都の工業エリアにて、そのプレイヤーに俺は出会う。



「おっ!おひさーダブル熊ちゃんズ!いえーい……ん?」



腕に脚に大量のリング、派手に遊んだ茶髪に。

遊んでいそうな顔つきの軽い雰囲気の男。


言ってしまえば――俺とは『正反対』の彼。

それに、思わず嘆いてしまった。



「……俺に、似た……?」



《LEVEL48 ブラウン 裁縫術士》



「チッす!お兄さん聞いてる~?ゲンキ?」


「あ、ああ……」


「ん?もしかしてオレみたいなの苦手なカンジ?」


「……いや、別にそんな事は――」


「――おっマジ?んじゃオレ達もうフレンドね!ヨロシクぅ!」


「ああ……」



《ブラウン様からフレンド申請が届きました》



「ふ、ふふっ、ニシキが困ってるわ……」

「クマーちゃん性格悪いなぁ」



後ろの二人はさておき。



《――「一つ言えるのは――『貴方によく似てる』って事ね」――》



「……いやいや……」


「ん?」



クマーの目には、一体俺がどう映ってるんだ?

いや間違っているのは自分で、実は結構『そういう』風に見えてたりするのか……?




《ブラウン様のフレンド申請を承諾しました》




「あざ!」


「あ、ああ」


「んでクマっち?話は聞いたケド」


「ええ。メール通りよ、餓鬼王の印を加工してほしいの」


「おん!あのクエストアイテムね……でも――『条件』は知ってんだろ?」



なにやら話す二人。

クマーとブラウンは意外と仲が良いみたいだ。



「条件?」


「ええ。このブラウンって男は、自分と『闘って』認めた相手にしか装備を作らないの」


「ザッツライト!面倒なオトコだけど許してちょ~こっちにも事情があんの」



親指を立てて言うブラウン。

……まあそれは、こっちにしても願ったり叶ったりだけど。


何というか、意外だな。



「何回かその素材は加工したことあんだわ!だから安心して~」


「分かった」


「んじゃ早速やろうかあ!決闘の条件と……『商人』は『蘇生術』があるっぽいし、流石に『復活不可』は付けとくか。つーか蘇生アリじゃオレの方が有利になるしな。オーケー?」



「……ああ。構わない」



サラッと言いのけたが、今蘇生術って言ったよな?

まあでも、クマーも知ってたしおかしい事ではないか……。


案外商人の情報は広まってるものなんだな。

……って事は当然、PK職にも知れ渡ってはいるんだろう。



「よっし!出来るだけ『実戦形式』が良いからね~オレも。後は何でもあり……流石に回復アイテムは長引くからやめとくか」


「任せるよ」


「おん!それじゃ準備してくるぜ、ちょっと待ってな~」



そう言って、彼は王都の人込みの中に消えて行った。

……準備ってなんだ?



「……ふう」


「疲れた顔してるわねニシキ」


「そりゃ、思ってたプレイヤーと違ったからな」



勝手に想像していた自分が悪いんだが。

防具製作をやっているという事から、もっとこう……静かで落ち着いたプレイヤーだと思ってしまっていた。


何より、名前がブラウンだし。



「……あんまり彼の不利になる事は言いたくないんだけど」


「ん?」


「ブラウン君は、ボクが相手にならないぐらい強いよ」

「ふふ、ついでに言えば――『亡霊』も倒してるわ」

「ほっほ……彼のHP、一割も減らした事ないや」



「え……」



亡霊はともかく、ベアーが相手にならないってのは――



「闘えば嫌でも分かるって。ニシキ」


「あ、ああ……」



未だに心の整理が付かないまま。

その防具をかけての決闘の時間が迫るのだった。


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