ブラウン
「……」
「ほっほ、ニシキって彼女に大分気に入られたね」
「……そうか?」
つい先ほどの事。
餓鬼王の印を見せた後の事だ。
〈――「……頂戴、ほら。見てくるわ」――〉
〈――「えっ今からか?別に急ぎじゃ」――〉
〈――「あーもう!良いから早く!」――〉
そう言って、彼女はそれを受け取り『鑑定部屋』に向かった。
ベアーも居るから忙しいだろうし、悪い気しかしないんだけど。
まあ……せっかくだし彼女には甘えてしまうか。
☆
「……はぁー疲れた。終わったわよ、はい」
□
【餓鬼王の印】
素材アイテム。
餓鬼王からの挑戦状をクリアした際に得られるモノ。
持っていると、ゴブリン系のモンスターから攻撃されにくくなる。
加工する事で冠のような防具が製作出来そうだ。
□
「見て分かる様に、防具の素材ね」
「防具?」
「ええ。貴方の場合なら革鎧ね、ちなみにベアーは製作無理よ。鍛冶師だし」
「……うう、そっかあ……ニシキのスキルもあるし、武器だったらなあ」
「はは、しょうがないって」
うなだれるベアーに声を掛ける。
でも――防具か。
「ありがとう、凄く助かったよクマー。後は流石に――」
「――良いの?ニシキ」
『自分で職人を探すよ』、そう言いかけて彼女が止める。
これ以上迷惑を掛けるのは駄目だと思ったし、クマーもそれは――
「私は、嫌じゃないわ」
「!」
「ほっほ、クマーちゃんもこう言ってるんだし」
まるで思考を読むかの様に言う彼女。
敵わないな、クマーには。
「――頼む。『ツテ』があるのなら教えてくれ」
「ふふ。この私よ、当然居るわ――それにいつか貴方には、会って欲しいプレイヤーだったのよ!」
珍しく興奮した様子の彼女。
『会って欲しい』……って、どういう事だ?
「ほっほっほ、『ブラウン』君だね」
「ぶ、ブラウン?……分からないが、紹介してくれるなら誰でもありがたいよ」
「ふふっ、ええ。それなら早速行きましょう」
「分かった……ちなみにその人ってどんな感じなんだ?」
クマーがそう言う人物が、かなり気になった。
会って欲しいという意味もまだ分からないし……。
「……そうね。会ってからのお楽しみだけど、一つ言えるのは――『貴方によく似てる』って事ね」
「えっ」
彼女は、メールらしきものを打ち終わって俺に向く。
「オッケーらしいわ!それじゃ行きましょう!」
「あ、ああ……」
「ほっほっほ」
☆
数分後。
王都の工業エリアにて、そのプレイヤーに俺は出会う。
「おっ!おひさーダブル熊ちゃんズ!いえーい……ん?」
腕に脚に大量のリング、派手に遊んだ茶髪に。
遊んでいそうな顔つきの軽い雰囲気の男。
言ってしまえば――俺とは『正反対』の彼。
それに、思わず嘆いてしまった。
「……俺に、似た……?」
《LEVEL48 ブラウン 裁縫術士》
「チッす!お兄さん聞いてる~?ゲンキ?」
「あ、ああ……」
「ん?もしかしてオレみたいなの苦手なカンジ?」
「……いや、別にそんな事は――」
「――おっマジ?んじゃオレ達もうフレンドね!ヨロシクぅ!」
「ああ……」
《ブラウン様からフレンド申請が届きました》
「ふ、ふふっ、ニシキが困ってるわ……」
「クマーちゃん性格悪いなぁ」
後ろの二人はさておき。
《――「一つ言えるのは――『貴方によく似てる』って事ね」――》
「……いやいや……」
「ん?」
クマーの目には、一体俺がどう映ってるんだ?
いや間違っているのは自分で、実は結構『そういう』風に見えてたりするのか……?
《ブラウン様のフレンド申請を承諾しました》
「あざ!」
「あ、ああ」
「んでクマっち?話は聞いたケド」
「ええ。メール通りよ、餓鬼王の印を加工してほしいの」
「おん!あのクエストアイテムね……でも――『条件』は知ってんだろ?」
なにやら話す二人。
クマーとブラウンは意外と仲が良いみたいだ。
「条件?」
「ええ。このブラウンって男は、自分と『闘って』認めた相手にしか装備を作らないの」
「ザッツライト!面倒なオトコだけど許してちょ~こっちにも事情があんの」
親指を立てて言うブラウン。
……まあそれは、こっちにしても願ったり叶ったりだけど。
何というか、意外だな。
「何回かその素材は加工したことあんだわ!だから安心して~」
「分かった」
「んじゃ早速やろうかあ!決闘の条件と……『商人』は『蘇生術』があるっぽいし、流石に『復活不可』は付けとくか。つーか蘇生アリじゃオレの方が有利になるしな。オーケー?」
「……ああ。構わない」
サラッと言いのけたが、今蘇生術って言ったよな?
まあでも、クマーも知ってたしおかしい事ではないか……。
案外商人の情報は広まってるものなんだな。
……って事は当然、PK職にも知れ渡ってはいるんだろう。
「よっし!出来るだけ『実戦形式』が良いからね~オレも。後は何でもあり……流石に回復アイテムは長引くからやめとくか」
「任せるよ」
「おん!それじゃ準備してくるぜ、ちょっと待ってな~」
そう言って、彼は王都の人込みの中に消えて行った。
……準備ってなんだ?
「……ふう」
「疲れた顔してるわねニシキ」
「そりゃ、思ってたプレイヤーと違ったからな」
勝手に想像していた自分が悪いんだが。
防具製作をやっているという事から、もっとこう……静かで落ち着いたプレイヤーだと思ってしまっていた。
何より、名前がブラウンだし。
「……あんまり彼の不利になる事は言いたくないんだけど」
「ん?」
「ブラウン君は、ボクが相手にならないぐらい強いよ」
「ふふ、ついでに言えば――『亡霊』も倒してるわ」
「ほっほ……彼のHP、一割も減らした事ないや」
「え……」
亡霊はともかく、ベアーが相手にならないってのは――
「闘えば嫌でも分かるって。ニシキ」
「あ、ああ……」
未だに心の整理が付かないまま。
その防具をかけての決闘の時間が迫るのだった。
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