思わぬ助っ人


「――なんて事があったんですよ」


「へえ……花月君も大変ね」



会社内、午後三時。


もうこの自販機も制覇してしまいそう――なんて事はない。

違うモノを飲もうと思っていても、結局同じモノにしてしまうからだ。



「で、何とかなりそうなの?」


「いやあ、色々考えてはいますが纏まりませんね」



……そしてこの真剣な会話内容は、仕事の話では一切ない。



「うーん。魔操士の子、きっとドクって子にかなり頼ってる気がするし。中々時間が掛かるんじゃない?」


「ですかね……」



紛れもなくレンとドクの相談だ。



《――「何かあったの?に……花月君」――》



さっきの事。

コーヒーを飲んでいると掛かったチーフの声。

どうやら、顔に出てしまっていた様で。


流石にゲームの事だし……って思っていたが、それでもという事で話した。



「やっぱり遠距離職には遠距離職じゃないと分からない事とかあるし!」


「……そうですよね、俺は商人ですから。投擲とかはやりますけど魔法となると……」



結果。

流石というか、チーフは瞬時に理解してくれた。


亡霊の時もそうだったが、彼女の理解力は俺なんて比にならない程高い。


まるで、RLをプレイしているのかと思う程に。



「チーフ、RLやってないのにこんなに話せるの凄いですね」


「え゛っ!?……いやいやそんな事ないわよ、そうだ!ふ、フレンドとかに遠距離職のプレイヤーは居ないの?」


「……?そうですね……」


「うんうん!」



まるで何かを期待しているかのような目で見る彼女。


……ただ残念ながら俺、フレンド少ないんだよな。

思い付く遠距離職は、上級鑑定士のクマーと魔弓術士の……ハルだけ。


少なすぎないか?悲しくなってきた。

二人とも忙しいし、コレは無理だな……。



「ちょっと難しいですね――」


「――いや居るでしょ」


「えっ」


「……なんでもないわ!ああもうっ!そうだ!私の友達にRLで遠距離職やってるって言ってた人が居るのよ。あんまり知らないんだけど配信やってる人だったかな、分かんないけど多分結構プレイ歴も長いし魔弓士?か何かって言ってたかな?私はあんまり知らないんだけど最近は対人戦闘にも力を入れてるって言ってたし丁度適役なんじゃないかしら、そうねきっとそう――」



「え、は、はい……え?」


「――うん決めた、その子紹介してあげる!」


「いや……かなり時間を取ってしまうと思いますけど良いんですか?」


「ええ!教えるの好きな人だから!プレイヤーネームとかは知らないけどよく話は聞いてたの」



聞き取れない程の速度で話していた彼女。でもその内容自体は分かった。


要約すれば助っ人を呼んでくれる、と……なんか話がトントン拍子で進んでいく。

凄いありがたい話なんだが、良いのか?



「それじゃ……また都合良い日があったら連絡するわね!」


「分かりました、ありがとうございます」



何はともあれ。

チーフに相談して良かったな。



「ちなみに今日仕事終わりに、その魔操士の子と会うので伝えておきますね」


「え゛っ!?その子リアルでも知り合いなの?」


「はは、偶然たまたま会って」


「……なにそれ……」


「ち、チーフ?」


「あーごめん何でもない!それじゃまた声掛けとくからね」





「――なんて事があったんだよ」


「……それは、ありがたいですね。遠距離職の方が教えてくれるなんて」


「ああ。チーフ……その千葉さんは凄い人だから、多分紹介してくれる人もかなり参考になると思う」



こういう時に限って仕事が……という不幸は無く。

仕事をほぼ定時で上がり、俺は例の公園でレンと会っていた。



「……ありがとうございます。それで、用というのは何でしょうか?」


「ああ。すぐ終わるよ――ほら、コレ。受け取ってくれ」


「!これ……凄い、たくさん書いてある……」



彼女に渡したのは、俺の『RL対人対策ノート』のコピー×2だ。

今になって思うが……かなり量あるんだなコレ。それが二つだとずっしりと来る。


普通ならウっとする量だと思うが、彼女は目を輝かせていた。

……予想外の反応だが良かったな。



「い、良いんですか?こんなの貰ってしまって」


「ああ。しっかり原本はこっちにあるから」


「こ、コピー代は……」


「いやいや流石に良いって」



明らかに年下の彼女からコピー代とか取る気しないし。

まあ結構高かったけど……これは胸の中に仕舞っておこう。



「ただ、これは自分なりに見つけた攻略法だ。どちらかといえば参考程度に、ドクにもそう言っておいてくれ」


「はい」


「はは、自分なりに見つけた攻略法があればそれが一番だからな」


「……分かりました。ありがとうございます、大事にします」



コピー二つを抱えてお辞儀する彼女。

何というか……年不相応な礼儀があるな、レンは。


思えば見るからに十代な彼女がRLを持ってるんだから、もしかしてかなりのご令嬢――いや、やめておこう。

リアルの詮索はNGだ。



「用ってのはソレだけだよ。時間取らせて悪かったな」


「い、いえ……ありがとうございました」


「……それと。ドクにはコレから、ゲームとはいえキツい事をやるかもしれない」


「そ、そうなんですか」


「ああ。もし弱音とか、俺への悪口とか言っていたら付き合ってやってくれよ」



彼女達は、ゲームとは思えない程に本気だった。

だからこそ――俺もそれに応えてあげないといけない。


特に、俺が深く教えてあげられるのはドクだ。近接職だしな……。

修行なんて自分も探り探りだし、それに彼女は何か思う事が出来るかもしれない。

そしてそれは、ドクへ精神的な辛さとして現れてしまうかもしれないし。



「ドクちゃんは――凄い子なんです。きっと……大丈夫です」


「?それなら良い。じゃ、明日待ってるよ」


「……はい」


『ニャー』



影から出て来た顔見知りの猫を撫でて、俺は彼女の顔を見た。


……レンにドクがあそこまで『PK職』との戦闘に拘る理由。

二対三という不利な状況を想定した理由。

それはきっと、俺から聞く事じゃない。


自然と――彼女達が強くなったら、話してくれる事だろう。



「なあ、レン」


「……?」


「何時かは君達で、俺を倒してくれよ」


「――!む、無理ですっ……」


「はは、じゃあな。お前も」


『ニャ』



顔の力が抜けた彼女を見てから、俺は公園に背を向ける。



「……ありがとうございました、ニシキさん」


「ああ」



レンに手を振って、俺は家へと戻る。


……さて。今日は何をやろうかな。

またマコトみたいな強者と闘えると良いんだが。


はは、そう簡単に巡り合える訳もないか――

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