二人の弟子②


《経験値を取得しました》


《賞金首を倒した事により、50000Gを取得しました》



「……ふう」



教えながら闘うのは疲れる。

が、案外自分自身を見つめ直すのには良かった。


そのまま俺は倒れているドクの元へ。



「えっと、こういう時の為の……」



《復活の書を使用します》


「……長い」



分かっちゃいたが、使用中はスキルも攻撃も何も出来ない。

蘇生対象の身体に触れたまま十秒間待たなければならないのだ、これはきつい。

戦闘中とか絶対無理だろ……。


でもまあ、こんなに安価なアイテムで復活出来るなら文句は言えないか。



《復活?書を使用しました》


《ドク様が復活しました》



「――!い、生き返りましたぁ……」


「はは、おかえり。次はレンだな」


「あ、あの、ニシキ『先生』!その、復活まで使わせてしまって……」


「……!」


「わぁあすいません!やっぱりドールちゃんを……申し訳ありま――」


「――ああ、いや違う違う!怒ってるわけじゃないんだ、復活は俺のスキルだし」



『先生』。

その呼び名に、少し固まってしまった。



《――「新先生!」――》



それは兄がよくそう呼ばれていたからなんだが。

……まさか、自分がそう呼ばれる事が起きるなんて。



「に、ニシキ先生?なんだか嬉しそうですね!ドクも嬉しいですぅ!」


「……流石に照れるな、その呼び方は」


「そうですかぁ?ドクはずっと、尊敬できる方にはこの呼び方なんです!」



笑う彼女に、毒気は一切見えなかった。

シルバーに似て……自分には無い明るさを持っている。


そして、だからこそ。



「……大丈夫か?あそこまで『質の悪いの』は珍しいが、これから先ああいうのを相手にしていくんだぞ」


「!」



明らかにオーバーなデバフ。

容赦の無さとは違う、もし俺が杖使いの立場ならレン、俺の蘇生の可能性に備えて短めのデバフで終わらせていた。

三重苦が無くても小刀使い二人なら余裕だっただろうし。


加えて……文字通りの『死体蹴り』。

不愉快な言葉も加えて。


彼女達にはそれがとても辛くなると思えたのだ。



「正直に言っちゃうとぉ、かなりきつかったですぅ……」


「……そうか」


「というか二人で闘っている時は……もう、『やっぱり』私達には……なんて思っちゃいました」


「!それは――」


「えへへ、そんな申し訳ない顔しないで下さいよぉ」



ドクの表情は、あの最期の瞬間同様に悔しさと悲しさが入り混じったモノになっている。

無理もないだろう。ゲームとはいえ……あそこまで人の悪意に触れたのだから。



「――でもですねぇ、ニシキ先生」


「なんだ?」


「その後。先生がその嫌な考えを消し飛ばしてくれました」


「……」


「三人を圧倒している姿はぁ……見ていて凄くカッコ良くて、気持ちよくて――」



つらつらと話す彼女の言葉。

真っ直ぐにそう言われると流石に照れる。



「――ドクも、『先生みたいに』、闘ってみたいです!」


「!」



元気よく手を上げるドク。

ふわふわとした印象の彼女だったが、その目は確かにやる気が見えた。



「はは、そこまで言われたら仕方ないな」





《復活の書を使用します》


《レン様が復活しました》


《復活の書を使用しました》



「……!ありがとうございます、ニシキさん」


「ああ」



どうやらレンは『先生』派じゃないらしい。

……助かった。



「とりあえず、ゴールまで向かおうか。ついでに色々反省点も」







「――って訳だから、色々と課題点はあるな」


「!」

「……はい」



行商クエストのゴールに向かうまで……では時間が足らず。

そのままラロシアアイスで話して終わった。


倒す敵の優先順位。

それぞれの動き方、『武器』の少なさ。

何よりも――彼女達二人の距離が近すぎる事。

上手い奴らは、後衛に攻撃が行かないよう前衛が立ち回る、もしくは後衛自身が隠れてるんだ。

あの『五人』がそうだった。嫌な奴らだったが杖使いを徹底的に護衛していたからな。


……ちなみに、レンとドクは真逆の動きをしていた。



「君達はずっとモンスター相手に闘ってきたのか?」


「……はい、最近はずっと」

「ですぅ」


「はは、そりゃそうなるか」



モンスター相手なら、別に距離が近くてもドクの方に攻撃が行くからな。

本当にPVPとPVEは勝手が違う。



「君達がやるべき事は、まずお互いが信頼した上で……別々に離れて戦う事だ。

最初は怖いだろうけど、その孤独には慣れるしかない」

後――ドクはいつも武器は何で闘ってる?」


「えっと、基本はこのメイス、敵によっては拳です。僧侶はどっちも使えるので」


「敵によってってのは?後『拳』で専用のスキルがあるのか?」


「その、スピードが速い敵とか、レンちゃん達を守らなくていい……ソロの時ですかねぇ。拳は両手武器扱いで盾を持てないので。スキルも一応あります」


「……決まりだな。ドクは拳で闘おう」


「えっその、大丈夫ですか?ドクはあまりコレ苦手というか、盾も持てないですし微妙かなって」


「大丈夫だ」


「!わ、分かりました」



不安になる気持ちも分かる、コレまで盾と鈍器でパーティの盾を担っていたんだからな。

でもあの時――不意とはいえ、その拳で彼女は小刀使いに攻撃を当てた訳で。



「……で、レンは――」


「は、はい」



『瞑想、隠密スキルを』、そう言いかけて止める。

俺があのスキルを取得したのは、『瞑想VR』があってこそだ。


あの地獄を――彼女に味わわせて良いのだろうか。


……いや、駄目だ。

流石にそこまでやらずとも、敵に捉えられにくくなる手はある。



「っとごめん。レンは……とりあえず隠れる練習と、遠くから当てる……狙撃の練習だな」


「?わ、分かりました」



詰まった俺に疑問を感じていそうだったが、とにかく今は伏せておこう。

やるべき事は沢山あるんだから。


……一気に色々やってもアレだし、今日はこれぐらいにしておこう。



「時間も遅いし、今日はここまでにしよう。質問何かあるか?」


「先生、ありがとうございましたぁ!ドクは何もないです!」

「……ありがとうございました。私も無いです」


「よし。ちなみに明日は?」


「……すいません、『家』の都合で明日は私達二人とも夜遅くまで用事があります」

「ごめんなさいぃ!あんなの、抜け出したいぐらいなんですが」


「はは、別に良いって。分かった分かった」



よく分からないが、彼女達はリアルでも仲が良いんだな。

……あまりそういうのは俺が関与すべきじゃないだろう。



って。ああそうだ、一番大事な事を忘れていた。



「レン、また例の公園で会えるか?渡したいモノがある」


「……!わ、分かりました。明日、早い時間、18時ぐらいなら大丈夫です」


「そうか。念の為の電話番号は……俺のを教えておいた方が良いな」


「……自分のでも大丈夫ですが」


「はは、流石にそういう訳には行かないって。例の公園に18時。良いか? 」


「はい」



その時間なら変な奴らも湧かないだろう。

それにしても……ゲーム内でリアルの約束ってのも違和感がある。



「レンちゃんと先生は現実でも面識がおありなんですねぇ」

「……本当に偶然でしたよね」


「それも二回な」


「じゃあドクもいつか、先生と会えるかも!」

「……ど、ドクちゃん」


「はは、信用してくれるのは嬉しいが危機感も持ってくれよ」



ゲームはゲーム、現実は現実だ。

……一応俺は男なんだからな。そんな気は起こすつもりは毛頭無いが。



「――よし、それじゃ今日はここまで。続きは明後日だ、レンは明日な」



「うーん?分かりましたぁ!」

「はい、待ってます」



元気に手を上げるドク、頭を下げるレン。

俺は二人に軽く手を振り後にした。






《ログアウトします》




「……ふう」



ログアウトして、テーブルに座り明後日の事を考える。

次は彼女達のスキル構成を聞いて、本格的に戦術も考えて行かないとな。



「『先生』、か」



本当に、俺は『弟子』を持ったんだと認識する。

ゲームなのに大袈裟かもしれないが……彼女達は本気だった。


それに答えられる様、自分も出来る事はしてあげないとな。



「……よし、寝よう」



完成、というかコンビニでコピーする予定の『ノート』を鞄に入れて。


レンとの約束もある。

明日は定時で上がる為、少し早めに布団へもぐりこんだのだった。

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