王都ヴィクトリア・中層


翌日、仕事終わりのRL。


俺は一時間程露店エリアを見て回っていた。

そして――



《 筋力のスチールレザーメイル+3を購入しました!》


《1300000Gを消費しました》



「……か、買ってしまった」



手元から大金が消えていく。


久々に装備でも新調しようか、そう見て回って慎重に決めたはずの胴装備だったんだが。

いざ購入した後は本当にこれで良かったのだろうか、と考えてしまう自分が居て――


……スキルで消えていくGとは違う感覚なんだよな。




【筋力のスチールレザーメイル+3】


装備可能条件 level42以上 STR20以上DEX35以上


STR+20 DEF+35 MDEF+25


属性[ステータス上昇]付与品。

鋼を元に造られた革鎧。

鉄防具よりも格段に防御性能がアップした。

またステータス上昇効果を持つ。


レアリティ:4


製作者:ライチ

製作者コメント:――


価格:1300000G




その名前から分かる様に、かなりステータスがアップする。

見た目もNPC装備より革の部分が綺麗で、高級感があった。

+が3も付くとこんな感じになるんだな。



「……」



輝くような胴装備を眺める。


……この前のシークレットダンジョンのおかげでGは300万近くまで溜まったからな。

だがこれでまた大きく減ってしまった。



「……切り替えよう」



根付いた貯金欲の呪縛は解かれる事はまだないが。



――よし!良い機会だしこの装備をモンスターで試してみよう。







「っ、『スラッシュ』。『パワースウィング』……こんなもんか」



少し身体を動かしてから、戦闘フィールドへ。

これまでではスライムとゴブリンしか相手していなかった訳だが……勿論それだけではない。



「……何気にずっとプレイヤーと闘ってたもんな」



VRMMOでは、クエストやモンスターと闘ったりするのが普通だとは思うんだが。

対人戦闘が楽しすぎるのが悪いな、うん。





「綺麗だ……」



ゴブリン地帯を歩いて抜ければ、美しい草原が広がっていた。


プレイヤーも辺りに多く、木々などの遮蔽物がほぼない為丸見えだ。

……ちょっと恥ずかしい。周りパーティばっかりで俺ソロだし、そんな気にしている訳ではないんだが。



「まあ……これならPK職も現れにくいか」



これだけ広い空間。

少し注意すれば、近付いてくる怪しい影にはすぐに気付けるだろう。


それに他で狩っている一般プレイヤーも協力してPK職を倒せる。

周囲の目がある以上奴らもやりにくいだろう。



《ホーンラビット LEVEL45》



「……お、新モンスター」



やがて。

歩いていて目についたのは、かわいらしい兎の見た目のモンスターだった。



《ホーンラビット LEVEL45》

《ホーンラビット LEVEL45》



『キュキュキュ』

『キュキュキュ』



「……?」



遠目から眺める。

すると、また遠くからやってきたもう一匹のホーンラビットが一方に鳴いていた。


そして――



『キュ――ッ!!』

『――キュウ!?』



「……ふ、吹っ飛んだぞ」



元々居たホーンラビットが、もう一匹に突進。

そして――額の小さな角で吹っ飛ばした。


逃げていくよそ者。どうやら縄張り争いだったらしい。



そして当然、今近付いてくる俺にも――



『キュ……ッ!』


「はは、やっぱりか」



一定距離まで近付くと、ホーンラビットは俺へと向いて。

そしてそのまま、額の角を構え――



『キュ――ッ!』


「重い……!」



ちょっとした好奇心で盾で突進を受けると、身体が浮きかけた。

HPも貫通して一割ほど減っている。



『キュ!』

「――っと!」


『キュキュ!』

「はは、隙が無いな」



防御は分が悪い。


突進を回避すると、すぐさま素早い足さばきで身体を翻しこちらへと向かってくる。

……これは良い回避の練習になりそうだ。





《経験値を取得しました》


《11000Gを取得しました》



「ふう」



あれからホーンラビットの突進を捌き、地道に攻撃を与えて行けば終わった。

攻撃パターンは単純だったが中々に楽しめた。



「案外アリかもな、モンスターも」



プレイヤーであそこまで動ける者も少ないだろう。

そもそも四足歩行の動物と比べるのがおかしいんだが。




《リーフタートル LEVEL45》



「『スラッシュ』」


『ゴ……!』



そして新たなモンスター。

戦っているのは甲羅が1メートルぐらいある緑の大亀だ。


攻撃方法は自身の身体を回転させてからの突進。

そして口から液体を吐き出す遠距離攻撃。


最初はいきなり地面で高速回転する大亀に驚いたが、落ち着けば突進の回避は簡単だった。

高速回転しながら液体を吐き出すのにはもっと驚いたが。



『ゴゴッ』


「『パワースウィング』……ああ、また入った」



甲羅に攻撃してもダメージはほぼゼロ。

ダメージを与えるには、甲羅から出ている頭部と尻尾、手足を攻撃する必要がある。

だが……コイツはある程度攻撃を与えるとそれを引っ込めてしまい、しばらくそのままになってしまうのだ。



「……」



しかしながら、その時の大亀は無防備。

再度頭を出すまで暇だった為色々試していると……コイツは、なんと軽かった。


名前をリーフタートル。

いや『リーフ』何てそういう事かよなんて思ったが、本当に座布団ぐらいしかない。


つまり――『ひっくり返す』事が簡単に出来るのだ。

そしてその白いお腹部分は、当然の様に柔らかかった。



「……よっ――『スラッシュ』」


『ゴゴゴッ!?』


「何かやってて可哀そうになるな……『パワースウィング』」



《経験値を取得しました》



ひっくり返った大亀は、十秒近く手足をバタバタさせて戻るが……隙がデカいにも程がある。


そのまま腹に武技を打ち込めば余裕で終わった。

まあ確かに、軽くないとあんな回転攻撃は出来ないよな。



「コイツはあんまり狩るのやめとこ……」



絵面で言えば最悪だ。

当然ゲームだし良いんだが、この見晴らしの良い草原地帯ではやりたくない……。




《ホーンラビット LEVEL45》

《ホーンラビット LEVEL45》



『キュキュ!』

『キュキュ!』



「はは、俺にはコイツのが良いな」



また縄張り争いをする二匹に向かって、まとめて倒すべく俺は走っていった。







アレから少しして。



《ホーンラビット LEVEL45》

《ホーンラビット LEVEL45》

《ホーンラビット LEVEL45》


《リーフタートル LEVEL45》



『キュキュ!』

『キュキュ!』

『キュ!!』


『ゴッ――』



「――っ、『ラウンドカット』!」



迫りくるリーフタートルの遠距離攻撃。

足元付近、前後に二体のホーンラビット。

タイミングを合わせて――その武技を放つ。



《Reflect!》


『キュウ!?』

『キュ……』


『ゴ……』


《経験値を取得しました》

《経験値を取得しました》

《経験値を取得しました》



うん、気持ちいい。

回避と反射の良い練習になるなコレは。


反射のタイミングは日が経てば鈍ってしまう。反射に限らず大体そうだが。

そういう時にはスライムで自分の癖、タイミングを『補正』してたが……今度からコイツらでやる事にしよう。


あと何気に集団戦じゃラウンドカットが大活躍だ。

モンスター相手だと特に光るな。



『キュー!!』



「さて、あと一匹――」




《レン様からメールが届きました》



「――!おっ、もうそんな時間……『スラッシュ』」


『キュ……』


《経験値を取得しました》



「……ふう」



王都ヴィクトリアの攻略はまた今度。次は深部まで行ってみよう。

身体が温まってきた所で勿体無い気もするが――彼女達が最優先だ。




「よし、行くか」



彼女達の選択を聞きに。

俺は――非戦闘フィールドへ足を向けた。


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