復讐者③
「――!本当に恐ろしい方ですね。殺気が増していますよ」
「はは、そんな事ないって――行くぞ」
実際、彼女は俺よりHPが上だが『一発』入れば十分だ。
痛み分けはお互いのHPが同じに。
他二つもバフ効果、状態異常の共有。
彼女のスキルは強力ではあるものの、その効果は『平等』になるように仕組まれている。
そこが勝機。
何としてでも『苦の反撃』を搔い潜って攻撃を成功させ、かつこちらは被弾してはならない。
――魂斧を持ち、俺はスタートを切って走り出す。
このまま喋っていたら死んでしまうからな。
「――ッ」
盾を構える復讐者。
そりゃそうだ、待っているだけで俺は死ぬ。
守りに入るのは正解だろう。
……逃げてくれていたら背中を投擲で撃ち抜いたんだが。
ある意味それでも、好都合だ。
一番嫌だったのは攻められる方だったからな。
「――らあ!」
そのまま接近、攻撃。
――ではなく、俺は地面を足で蹴った。
出来る限り『大振り』で。
そこへ復讐者が、意識を持っていくように。
「ッ!?」
十六夜との決闘から――この砂漠の地面は活かせると知っていた。
彼女の盾により砂のショットガンは防がれるが――舞う砂埃はそのまま。
俺と彼女の間に、砂による薄い煙幕が現れる。
……ここの俺の選択が、勝敗を分けるだろう。
「――パワースウィング」
フェイクの武技発動。
そのまま一瞬おいて接近し、『もう一度』麻痺毒瓶を彼女の身体にぶっかける。
盾の下を抜ける様――足元へ向けて。
「――ふッ、読んでましたよ……そのブラフも毒瓶も!」
だが。
その麻痺毒は――瞬時に降ろされた盾によって防がれた。
「っ――」
もはや万事休す。
二回同じ事をする訳が無い、そう読ませたかったが駄目だったようだ。
俺の両手には今――『何も無い』。反撃なんて不可能な訳で。
「終わりです――!」
振り下ろされる彼女の片手剣。
この一撃で、俺は死ぬ。
……なんて。
彼女が思っていたのなら――俺の、『もう一つ』の手は気付けていないだろう。
「――ッ!?」
たった今、彼女の頭上から――魂斧が襲い掛かったのだ。
衝撃で体勢を崩す復讐者。その為、振り下ろされた剣も余裕で避けられた。
砂埃を舞わせた時に、わざと『大振り』にしたのは同時に行った斧の投擲を隠す為。
両手に何も無い事に疑問を持たれたら危ないからだ。
あのタイミングじゃ、気付いたところで遅かったかもしれないが。
意識外の『上空』からの一撃。
これもあの時――十六夜が使っていた最後の手から閃いたモノだった。
「……っと」
脳天に衝突したその斧により、彼女のHPは5%に。
たった今。
彼女と俺のHPは、逆転した。
《状態異常:毒が解除されました》
そのまま距離を取りながら、取り出した『解毒薬』で毒を解除。
同時に取り出したスチールナイフも構えて――立て直した彼女に備える。
追撃はしない。盾で『苦の反撃』をやられたら終わりだからな。
じっくりと、毒によって死んでもらおうか。
「……ああ、そうか。あの時……見逃していた、まさか煙幕の瞬間斧を放っていたとは」
「ん?運もあったよ。もし君がこちらに向かっていたら外れていた」
「守りに入った自分が敗因でしょう。それに毒のダメージで貴方を殺すはずなのに、最後は絶好の機会と感じ反撃を選択してしまった」
「……話しててアレだが、来ないのか?」
「ふふ、私はもう詰んでいます。『痛み分け』も『侵される者の苦痛』を使おうにも、その前に貴方のナイフで終わる」
「そんな隙を与えてくれるなら別ですが」と付け加え、諦める様に笑う彼女。
彼女の言う通り、俺はそのスキルを発動しようとした瞬間これを投げるつもりだった。
発動後の瞬間にダメージを与えればHPの優位は変わらないからな。
「……だから、少しでも貴方と話していたかった。どうせ終わってしまうのならね」
「何か言いたい事でもあったのか?」
「ふふっただの雑談ですよ。貴方は『奴ら』に似ているなと思いまして」
「はは、不快だったかな」
「いいえ。私にとっては盲点でしたよ。あのゴ……失礼、PK職共の技術を模倣するとは」
「君は相当アイツらが嫌いみたいだな、というか今更が過ぎるぞ」
「ふふっこれは失礼。こんな職業になってるモノですから――ああ、もう時間が無い」
本当に辛いと言ったように笑う復讐者。
……何というか、彼女にも色々あったんだろうな。主にPK職と。
「最後に、良いですか」
「何だ?」
「貴方も、『こっち側』に来ませんか?凄く楽しいですよ。クソみたいな仕事のストレスなんてパアですとも!」
彼女は俺にそう言う。勿論こっち側ってのはPKK職の事だろう。
……本当に、あの時のNPCといい隙あらばこの者達は誘って来るな。
「はは、遠慮しておくよ」
「因みにどうして?」
「その職業だと――『奴ら』が逃げて行ってしまうだろ」
「!ふ、ふふっ、PKK職よりも『PKK』に向いていますね、貴方は――…………」
《経験値を取得しました》
「……はは、誉め言葉として受け取っとくよ」
消えゆく彼女に、笑ってそう返す。
商人という職業が好きだから、という理由が一番なのはそうなんだが。
彼女には少しイタズラな回答がしたかった。
「PKK職……か」
嘆く。
その存在は、正直手の届かない場所にやってておきたい自分がいる。
実際闘って分かったが、かなり強いのは確かなんだよ。
万に一つ……気の迷いで転職でもしてしまったら、ずっと商人には戻れないからな。
「でもまあ、闘う相手にしたら楽しいもんだ」
次に会うのは何時か分からないが。
違う種類のPKK職達とも、また闘ってみたい。
《レン様からフレンド申請が届きました!》
《レン様のフレンド申請を受諾しました》
「お、レンか……っと、それじゃ行くか」
タイミングがバッチリ過ぎて怖い。
さて。デッドゾーンから出て、彼女に会うとしよう――
《マコト様からメールが届きました》
《マコト様からメールが届きました》
《マコト様からメールが届きました》
「……は?」
なんて。この砂漠から退こうとした瞬間。
思わず出る声。
アナウンスには、連打する様に三件のメールが届いていた。
◇◇◇
ニシキ様へ
言い忘れていました。
もしPKK職について詳しく聞きたければ何時でもメールを飛ばしてください。
何でもお答え致します。私が所属しているPKKギルドにも貴方なら特別に招待して差し上げますよ。
◇◇◇
◇◇◇
PS
ちなみに貴方がPK職であれば私が勝っていました。
PKK職はPK職には更に強くなれますので。
これといって特別に負け惜しみとかではありませんので勘違いなさらず。
実際ニシキ様はPK職を模倣した手を沢山使っていらしていたので実質引き分けかもしれませんね(笑)
◇◇◇
◇◇◇
PSPS
……私とした事が自己紹介を忘れていました。
先程貴方に『僅差』で敗北してしまったPKK職のマコトと申します。
これといって特別に負けて悔しくて焦って送信していた訳ではございませんので勘違いなさらず。
もしかしたら実質私の勝ちだったかもしれませんね。いつでも再戦のお申込みお待ちしておりますのでどうぞ。
◇◇◇
「……相当悔しかったんだな……というより」
本当に、突っ込みどころが沢山あるけど。
「十六夜といい。ここに居るプレイヤーは何で当然の様に俺の名前を知ってるんだ……?」
……その声に答えてくれる者は居ない。
が、また負けず嫌いの彼女とは再戦してあげても良いかもしれない。
というか――そうしないと毎日メールが届きそうだ。
流石にそれは勘弁だな……。
☆
『復讐者』について
PK職を倒す・またはそれの倒し方によって『流儀』は増えていく。初期の流儀は『憤怒』のみ。
なおPK職以外へのモンスター、プレイヤーへの攻撃ダメージは二割減少する。
通常戦闘フィールドにてPK職以外のプレイヤーを一定回数倒すと、強制的に職業専用スキルは消去されPK職へと転職する。
スキルなど
『復讐』
復讐者専用スキル。
HPが1%まで減少した瞬間、10秒間全てのダメージ・スキルを受け付けなくなる。
また取得した『流儀』を選択し発動する事で『流儀』に応じたスキルを扱える様になる。
『流儀』選択後は自身から広範囲に衝撃波が発生し、1秒後無敵効果が解除される。
『弱者の苦痛』
全ステータスが上昇。
そして以下のスキルを発動出来るようになる。
『痛み分け』
戦闘中、自身に攻撃を与えた全てのプレイヤーと自分のHPは、
それら全てを足して割った割合に変更される。
(今回の場合『ニシキ』のHPが100%、『マコト』のHPが1%によって大体半分になります)
※対象がPK職であった場合、痛み分けのHP計算後さらに対象のHPを半分にする。
『苦の反撃』
盾専用スキル。盾で攻撃をタイミングよく防御すると、攻撃者へカウンターダメージ。
ダメージは攻撃威力・タイミングによって変化。失敗すると自身へダメージ。
※対象がPK職であった場合、カウンターダメージ増加。確率で状態異常:『恐怖』を付与
『持たざる者の苦痛』
戦闘中、自身に攻撃を与えた対象一人に掛かっているバフ効果を自身に共有する。
※対象がPK職であった場合、戦闘中自身に攻撃を与えた全てのプレイヤーのバフ効果を自身に共有する。
『侵される者の苦痛』
自身に掛かっている状態異常効果を、戦闘中自身に攻撃を与えた全てのプレイヤーに掛ける。
※対象がPK職であった場合、プレイヤーに状態異常を掛けた後に深刻化させる。
例『毒』なら『猛毒』に、『移動速度低下』なら『移動不可』に。
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