復讐者①
◇◇◇
ニシキさんへ
お願いします
私達に、対人戦闘についてご教授頂けませんか?
◇◇◇
「……」
俺がそのメールを見たのは、翌日の事だった。
『レン』……言うまでもなくあの時の彼女。
「まあ、返さない訳にはいかないか」
《レン様にフレンド申請を送りました》
《レン様はオフライン状態です。申請が却下されました》
鳴るアナウンス。
ログアウトの時も申請が残ってくれてたら良いんだが。
って、設定で変更できるんだっけ。
メニューから、オフライン時のフレンド申請も保留出来るよう……
「これでよし。メールも打っとくか」
◇◇◇
レンへ
ごめん、タイミングが悪かった
またログインしたらもう一度申請飛ばしてくれ
◇◇◇
「……さて、と」
メールも送った事だし。
ちょっと、デッドゾーンにでも行こうかな。
☆
「ぐあッ!?」
最初に現れたのは、魔法士の上位職である魔術士だった。
詠唱の隙を与えない様徹底して隙の少ない武技で闘って――
《経験値を取得しました》
《勝利した為、戦闘前の状態に全て回復します》
☆
「なんなんだよお前!?商人の癖に――」
「……『武器』商人だ」
次はPK職。
十六夜同様消えるスキルを使ってきたが、彼女と闘った今は温い。
勿論容赦はしないが――
《経験値を取得しました》
《勝利した為、戦闘前の状態に全て回復します》
☆
次は『狩人』二人だった。
彼らの武器は弓とナイフ。
一人が接近、一人が弓で援護と……中々連携の取れていた良いパーティ。
二人とも隠密系のスキルを持っていた様だったが、流石にPK職には劣る。
消えるというよりかは『迷彩』。見え辛いといった方が正しい。
だがその欠点は理解している様で、そこまでソレに依存した闘いではない。
「――『パワースウィング』」
「はッ!?ちょ、待て――」
「 があッ!クソ……」
だが、『高速戦闘』により彼らの連携を攪乱させた後は楽に行けた。
そりゃいきなり目の前の敵が二倍速になるんだからな、そのまま後衛に張り付いて攻撃すれば――
《経験値を取得しました》
「くそ――『スティング』!」
「ッ、『スラッシュ』」
「うぁ……」
残ったナイフを持つ狩人には、明らかな焦りが見て取れる。
攻撃を最低限の動きで回避――そのまま武技を放てば終わった。
《経験値を取得しました》
《勝利した為、戦闘前の状態に全て回復します》
「……ふう」
息をつく。
闘っていて本当に実感するのが、商人という職業の油断のされ易さだ。
実際さっきからずっとだし。
武器商人、結構強いと思うんだけどな。
……まあ良いか、知られたら知られたで厄介なのも事実。
というか、このデッドゾーンって闘って勝てば勝つほど手強い相手になっている気がする。
「偶然か?それともレートみたいなのがあるのか――!」
独り言を続けて、気付く。
その視線に。
《戦士? LEVEL46》
「えらく強者の匂いがしたと思ったら……商人さんでしたか。これは珍しい」
ハテナマークが付いた見た事のない職業表記。
落ち着いた口調で現れたのは――片手剣に盾を持ったプレイヤー。
その女性は、言ってしまえば『地味』だった。
黒い目に黒の長髪で、防具は黒をベースに揃え武器も無骨な剣と盾。
まるで派手さが無く、何というか……『わざ』とその感じを出している様な。
「貴方には、負けてしまうかもしれませんね」
「……まだ剣を交えても無いんだが」
へらっと笑って、そんな事を言う『戦士?』。
その眼は――台詞とは真逆だったが。
気持ちの悪い感覚。何を企んでいるのか分からない。
「ふふっそれは確かに……失礼。攻撃、どうぞ?」
「――『パワースロー』」
俺はそれの回答の代わりに、スチールアックスを投擲したのだった。
☆
「らあ!」
「っとと――!」
「『スラッシュ』」
「ぐッ――ふふっ、これはお強い」
「……それはどうも」
今の状況。
先程から、彼女の攻撃は一度も食らっていない。
反対に俺の攻撃は全て当たり――彼女のHPはあっと言う間に一割まで減っていた。
そんな優勢な状況だったが、嫌な感覚しか感じない。
彼女から、まるで『観察』されている様に感じた。
「いやあ、武技の軌道を変化させるとは。ソレ中々難しいんですよね、お強い方だ……」
彼女は笑う。まるでそれは『仮面』を張り付けた様に。
「……何を企んでる?」
口からそう漏れる。
正直、不気味だったのだ。
これまでのPK職で……あの『大海原の畏敬』を使っていた彼も、少ないHPからの逆転の手を隠していた。
実際俺も『黄金の意思』、『黒の変質』がある。一定値以下のHPが発動条件のスキルはこの世界に沢山あるのだろう。
……それでも、だからといってここまで極端にする必要はない。
彼女はさっきから武技を発動しているものの、『攻撃の意思』を感じないのだ。実際当たっていないし。
まるで、ダメージを自分から受けに入っている様に。
「ふふっ、自分は絶望している所です。まさかこんなお強い生産職が居るなんて世界が広いですね」
「……」
「止めを刺してくださいよ、貴方に殺されるなら本望です。武器商人さん」
「っ……そうか」
気持ちの悪い感覚。
しかし――俺は、これ以上どうする事も出来ない。
俺は彼女との戦闘を終わらせるべく――走った。
「――『パワースウィング』」
その一撃は、彼女の首元に入っていく。
魂斧の『弱攻』、『人型特効』によるボーナスダメージ。
復活手段もこのデッドゾーンは無い。
――間違いなく、終わる。
『はず』、だった。
「――うッ……なんて」
なのに。
彼女のHPは、0に限りなく近い1で止まる。
「――申し訳ないですね、これまで下手な芝居をして」
そして何か――黒いオーラの様なモノが彼女を覆っていて。
「!?――っらあ!」
「ぐッ……ふふっ、なんちゃって」
それはもはや反射行動だった。
倒れない彼女に、斧の追撃。
「!?な――」
……それでも、彼女のHPはそのまま。
「少々お待ちください。貴方には『鮮血』、『憤怒』、『苦痛』……どれが良いでしょうか」
攻撃しても、こちらへの軽い衝撃のみでまるでHPが減らない。
『無敵状態』。その言葉が似合うソレ。
俺に眼中が無いかの様に、何かを選ぶ仕草を取る彼女。
「うん、恐らくコレでしか勝てないでしょう……『
彼女が、そう唱えた瞬間だった。
包んでいた『黒』のオーラが増大、増大。
そして――
「――『
「がっ――!?」
爆発。
衝撃波の様なモノが俺を襲って吹き飛ばされる。
そして、遠く向こうには――
《復讐者 LEVEL45》
「まずは『痛み分け』――ふふっ。PKK職は初めてですか?」
職業名が変わった彼女が、佇んでいたのだった。
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