プロローグ:三人の少女

千石銀せんごくぎん 様』。

入口にそう名札が刺された、教室一個分程の大きさの白い個室。

ディスプレイが二つに、クローゼット。壁には、綺麗なギアセットが掛けられている。


そして部屋の隅、装置やボタンが沢山付いた白いベッドに痩せた少女が座っていた。



「レンちゃんにドクちゃん、いつもありがとね!」



そして部屋に立って居るもう二人の少女。

春風伊吹はるかぜいぶき』。

土石つちいしれん』。

その友達に、彼女は声を掛ける。



「次の退院はいつになるんですかぁ?」

「……うん、早く学校に来てほしいな」


「へへ、ありがと。うーん今回はちょっと時間掛かるかも」


「今日もRLはできないです?」

「……せっかくこの前、レベル30になったのに」


「そうだよー!って言っても、二人がいっぱい手伝ってくれたからなんだけど!」


「ふふ、ぎんちゃんも頑張ってましたよ」

「うんうん」


「……で、VRはこの脚に影響無いって言ってるんだけど、まだお父さんが許してくれなくて」



ベッドに座る彼女は、だらんとした脚を撫でながら口にする。



「ぎんちゃんのお父様も厳しいんですねぇ」

「……ね」


「まあ仕方ないかな……でもまた交渉しなきゃ!私は商人ですから~!」


「ふふ、そうですねぇ」

「あはは」



何時ものように、親し気な三人。

夕方のその時間は彼女達にとって大事な時間だった。



「二人はもう上位職?になったんでしょ?羨ましいなあ」


「そうですぅ、でもドクはまだまだ使いこなせてません……」

「私も……難しいんだよね」


「そうなんだ!」


「……」

「……ごめんなさいねぇ。ドク達がもっと強ければ、あのクエストも――」


「――あーアレはもう良いよ!あんなのクリア出来ない!げーむばらんす?がおかしいんだよ!」



申し訳なさそうな二人に、笑って彼女は声を掛ける。

しかしそれは――明らかに無理をしたものだった。



「そんな事より!ダンジョン?にも行けるようになったんだよね?その話聞かせて!」


「……う、うん」

「ふふ、あれは四人以上じゃないと参加できなくてですね。その時一緒に組んだ方が――」



弾む会話。

その病室で、時間はあっという間に経っていった。





「……すぅ……」


「あ、寝ちゃった……」

「ふふっ良い寝顔ですねぇ」



やがて日は落ちて。

ベッドで寝息を立てる彼女を見て、二人は笑う。



「……あのクエスト、そんなにもぎんちゃんには思い入れがあるモノなんですねぇ」

「うん……『いつか絶対三人でクリアしたい』って、最初はずっと言ってたよね」


「……『PK職』なんて、居なければ良いんですぅ」

「あはは、本当だよ……」


「……」

「……」


「本当に――その、ニシキさんって人に教えてもらうんですよね?」

「……うん。ぎんちゃんには内緒だよ」

「ふふっ、分かってますよぉ……それでは、おやすみなさいませ、ぎんちゃん」

「おやすみ」




二人は、寝息を立てる彼女に優しく声を掛けて部屋から出て行った。


これから――『師』となるその人物に、仮想世界で会う為に。

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