シークレット・ダンジョン⑫




「ふふ、気付いちゃった?」




笑う彼女。

駄目だ。

彼女が死ぬくらいなら、それの『解除』を――



「……ねえ、ニシキ。私はここでリタイアよ」


「!?何を――」


「――『アレ』は解除したら終わりだけど、発動したまま死んだら別なのよ――あ。来るわ」



諦める様に笑うクマー。



『――GOAAAAAAAAAA!!!』



放たれるゴーレムの声。

同時に地面に無数の紅い点――その表示にレーザーが来るという合図なんてのは、簡単に分かるモノで。


そして。

見上げる彼女のひたいにも、それはあったのだ。




「ふふ。脳天直撃ね、コレ。一発即死かしら――」


「――伏せろ、クマー」


「ちょっと!?貴方何を――」



俺は、考えるよりも先に彼女の前に移動していた。


理屈ではクマーの言う事が正しい。

ダンジョンボスさえ倒せば、報酬は手に入るんだ。例え彼女が居なくなったとしても。


でも、自分は嫌だった。



「――ごめん、クマー」



今はそれだけしか言えない。




――考えるんだ。


彼女がスキルを発動したまま、かつ彼女が生き残れるよう。

そしてアイツも纏めて倒せる手を。

あの光線から、クマーを守る方法を。



「――考えろ」



遠距離攻撃の無効化といえば『反射』。

でも、『常識的』に不可能。

例えばファイアーボールの様に単発なら良い。


でも……数十秒も継続的に降り注いでくるレーザービームに、それが通用する訳が無い。


……諦めて防御しようとしても、恐らく貫通し俺が死んで終わりだ。



「考えろ、考えろ――」



思考の波。

ゆっくりと進んでいく時間。

それでも光を増していく砲台。



――俺にあるモノを。

――この武器商人に宿るスキルを。

――己の持つ全てを、彼女を守る為に使うんだ。




「……『常識的』に、不可能か」



先程の思考の中。

引っ掛かったワード。


それが、答えかもしれない。




『――GOAAAAAAAAAA!!!』




見上げると、ゴーレムがもう光線を発射する所だった。



「――ありがとう、クマー」


「うう――もう知らないから!死んだら承知しないわよ!」



その位置のまま、しゃがんで熊耳フードと頭を同時に押さえるクマー。

俺はそんな彼女の頭上を見る。


同時に――インベントリからある『武器』を取り出した。



《――「ふふん、『信頼』してるわよニシキ。私を守ってね」――》



思い出すのはその台詞。



「まさか、ここで使う事になるなんてな――」



左手に持つのは『片手盾』。

正真正銘、NPC品の『スチールシールド』。



『守る為』の、『武器』だった。




「来る――!」




迫るレーザービーム。

大木の幹程のそれは――ゆっくりと、確実にこちらへ降り注いで来ている。




「――」



――失敗すれば終わり。



でも。

これまでずっと、俺がどれだけ反射してきたと思ってる?


あの時、アイススライムの氷柱から始まって。亡霊の攻撃も、PK職の矢まで……あらゆる攻撃を跳ね返す事に成功してきた。




《――「私が認めてあげる。貴方はとっても強いし、それは貴方の努力と行動が実を結んだ成果よ」――》




彼女の言葉が蘇る。今だけは、自分が強いと信じて。


大丈夫。斧と盾……モノが違うだけだ。


イメージしろ。このレーザーを跳ね返す、絶好のタイミングを!



「――ここだ!!」



ずっと繰り返して来たその行動。

空から迫るレーザーの先端に、片手盾を思いっきり振り上げ持っていく。


その位置、タイミング。


それは、長らくそのスキルを使ってきたからだろうか。

振り上げた瞬間分かった。



文句の言い様もない――





『完璧』の、感覚。





《Special Reflect!》




「――!?何だこれ――」



聞いたことのないアナウンス。

そして――見れば、盾に触れたレーザーが、文字通り『反射』しゴーレムへと向かっているのだ。


手に持つ盾には未だに光線が降り注いでいるが、鏡に映った光の様に継続して反射され続け――



『――GO!?GOAAAAAAA!!?』



ゴーレムの翼へと、そのレーザービームは突き刺さる様に飛んでいく。

俺のHPは全く減らず。

そしてゴーレムのHPは、途轍もない勢いで削れていく。



「……な、何が起こってるの……」


「はは。『反射』、出来たみたいだ」


「貴方なんでもアリね――って落ちて来るわよ!」



『GO、GOAAAAAAAAAA……』



やがて光線による攻撃は終了。

落ちていくゴーレムーーやがて、轟音を響かせ地面に衝突。



『GO、GA……GAGA』


「――『パワースウィング』!」


『GAAAAA!?』



魂斧で斬り――残り、ゴーレムのHPは二割。

瞬時に立ち上がる巨体。



タイムリミット、残り十秒。



『――――GOAAAAA!!!』



そして――足元に居る俺へ、最後の攻撃とばかりに拳を振るうゴーレム。

右腕、左腕双方。

加えて――『光線』も胸から。



「に、ニシキー!!」



聞こえる彼女の声。



タイムリミット、残り七秒。



「――っ」



俺は魂斧を構える。

そして――その武技を発動した。



「『ラウンドカット』――』



迫る拳二つ。

そして弱点である足一つ。


三つ同時に当たる様、攻撃を『置いた』。



タイムリミット、残り五秒。



『GOAAAAAAAAAAAAAAA!!?』



まずは足、そして拳二つ……同時に三つの部位から攻撃を受けた巨体は死へと向かう。

だが――『レーザービーム』は遅れて俺の身体を焼き焦がそうと迫って来る。

もしかしたら、俺はこのまま死ぬ。



でも、構わないんだ。

彼女を守れてかつ、このダンジョンをクリアするのがゴールなのだから――



『GOAAA……』



タイムリミット、残り三秒。

頭の上に迫る光線。

俺は、それに身を任して――



「『解除』――バカ!死なせないわよ――っきゃあ!」


「――う、うおお――!?」



タイムリミット、残り1秒。

『飛んできた』思わぬ背後の衝撃と共に――俺はその攻撃を免れて。




『GA………………』





カウントダウン、残りゼロ。






《おめでとうございます。ダンジョンボスを撃破しました!》


《ダンジョンをクリアしました!宝箱を開けてみましょう!》


《制限時間が解除されます》


《経験値を取得しました》


《レベルが上がりました。任意のステータスにポイントを振ってください》


《片手斧スキルのレベルが上がりました》


《片手槌スキルを取得しました》


《反射スキルのレベルが上がりました》


《反射スキルのレベルが上がりました》


《投擲術スキルのレベルが上がりました》

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