シークレット・ダンジョン⑪



『――『黄金の意思ゴールド・メンタル』!』


『GOAAAAAAAAAA!!!』



立ち上がったヴィクトリアゴーレム。


現在の状況。

俺に掛かっているバフは、『逆境』と『不屈』、『黄金の意思』。

『猛毒』が無くなった今、不屈スキルは『泥人形の呪い』の効果時間が切れたら恐らく切れる。



そして、最も留意しなくてはならない事。

『一度でも当たれば』、俺は死ぬ。


回復しようが、泥人形の呪いの効果で一発で終わりだ。



「ねえ、ニシキ……ほんとに大丈夫なの!?」


「ああ――『パワースロー』!!」



俺はインベントリから取り出したスチールハンマーを投擲。


いつもとは違う、黄金色のエフェクトと共に飛んでいくそれは――



『――GOAAAAA!?』



まるで石を粉砕する様な鈍い衝撃音。

そして――レーザーを発射しようとするゴーレムが怯んでキャンセルされたのだ。



魂斧のパワースウィング以上に削れたその投擲。

クマーの『対象集中』もあって、ゴーレムを怯ませる一撃へと変動した。



当然、現れたその隙は見逃さない!



《体力が一定値以下となった為、黒の変質が発動します》



インベントリ。

温めておいたそれは――取り出した瞬間変質を始めていく。



『GOAAA……』


「はは、コレは凄いな――『パワースウィング』!」



そのまま俺は走り……刀となった魂斧を振るう。

アレだけ減らすのに苦労していたHPバーは、今だけ馬鹿みたいに削れていく。


数値で言えば……一枚の内、三割以上を削っているのだ。



「え――今……攻撃で怯んだの!?」


「クマーのスキルのおかげだよ――『スラッシュ』!」


「凄いわニシキ、って貴方キンピカになってるじゃない!」



彼女は叫ぶ。

見れば――俺の身体は、眩い金色のオーラに包まれていた。


……確かにこれはキンピカだな。



「――と、来る!」


『GO、GOAAAAAA!!』



怯んで長くなった準備時間が終わり、レーザー攻撃に移行するゴーレム。

立ち上がり、俺を見下ろす巨体は……相変わらず迫力がある。


『当たれば終わり』。

そう考えるだけで、中々に怖い。


……でも。

だからこそ、この世界に没入しなくては。

『当たれば己の心臓が止まる』――そう俺の脳に刻み込ませる。



『――GOAAA!!』


「っ、当たるかよ」



ゴーレムにより振り下ろされていた拳が地面に激突。同時にジャンプ。

……迫るレーザービームはバフの効果によって余裕で躱せそうだ。


不屈の残り時間は少ない。

それが切れても逆境と黄金の意思があるが、今はリスクを冒してでもコイツのHPを減らすべきだろう。


その刀を持ちながら――素早く巨体へ接近。



「――『パワースウィング』!」


『GOAAA!?』



レーザーから逃げながら、俺はまたゴーレムの弱点である足へ武技を振るう。

手応えは十分!



「よし――止めだ、『スラッシュ』!」


『GO、GOAAA……』



《泥人形の呪いが解除されました》


《不屈スキルが解除されました》



怯むゴーレムに、更に追撃。

三枚ある内の一枚が消え、残り二枚となった。


驚異的なスピード。

残り時間はあと三分。


これなら――行けるかもしれない!





一発、まともにはいれば終わりのデスゲーム。だからこそ――『没入感』が、これまでに無い程増していく。


アレから何とかダメージは受けずやってきた。

不屈スキルが切れた今でも、数々のバフ、クマーのスキルにより攻撃の威力は凄まじい。


そして、案外『全ステータス』の上昇も大きい気がする。

AGIも上がっているから、集中が切れない限りは拳攻撃とレーザー両方とも余裕で避けられるのだ。



「――『パワースウィング』!」


『GO、GOAAA……!!』



拳攻撃の為、ジャンプしながら武技を『弱点』へ。

その一撃で沈みゆくヴィクトリアゴーレム。


残り一分。

俺達は――その三枚のHPを、残り一枚にする事に成功した。



「……行ける、行けるわよ!」


「このまま、何も起こらなきゃ良いんだが――ん?」



追撃で足の方へ移動しようとしたその時。



『GOAAA……GO、GOGOA――』



地面に倒れたゴーレムが、呻きながら立ち上がる。

見れば――そのHPバーが勝手に少しずつ減少していっていた。



「……減ってるわよね、アレ」


「ああ――何か、嫌な予感がする!」



俺自身、『攻勢の毒薬』を使っていたからだろうか。

減っていくHPバーを見て、素直に喜べないのだ。


そしてそんな予想は、大体当たってしまうモノで。



『――GO、GOGAGAGAGA!!』



倒れていたゴーレムが、『飛び上がる』。

何時か見た、翼を生やして。


そして――その右翼左翼両方に、所狭しと大量の『砲台』が付いていたのだ。



「――まさか、アレ全部レーザーか……!?」


「ふふ、もう絶望感しかないわね――」


『GOGAGAGAGA……』



言っている間にもその翼の大量の砲台は『準備態勢』に入る。


ピカピカと光るそれは――紅い星が瞬く様で、のんびりと眺めていたい。

こんな状況じゃなければだが。

……恐らくアレは、ヘイトなんて関係ない『全範囲』攻撃だよな。



「――くっ、『パワースロー』!」


『GO、GOAAAAAAAA――』


「駄目かっ、逃げ――」



ゴーレムの弱点へスチールアックスを投擲。

何とか命中。HPバーは七割まで減ったが――やはりか怯んでくれない。


そのまま翼に敷き詰められた砲台が光る。

『逃げろ』――そう離れたクマーに言おうとした時。



《――「あ。ちなみにこの『対象増加』……使ってる間私動けないから」――》



思い出したのは、彼女の台詞だった。

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