シークレット・ダンジョン⑩
☆
『GOAAA……』
アレから、二枚目のHPバーも同じ様に削り切った。
今の所二人ともノーダメージ……時間も後7分ある。
「……次は何が来るかしらね」
「はは、ずっとアレで良いんだけどな――!来るぞ」
『GO、GOGAGAGA……』
「な、何か様子おかしくない?」
「……あのまま死んでくれたら――」
小刻みに震えるゴーレム。
今の内に攻撃……なんて思ったんだが、HPバーはまだゼロなんだよな。
というか、何か地面から吸収しているように見えるんだが。
『GOGAGA、GOAAAAAAAAAAAAA!!!』
「く、来るわ――って何これ!?」
「これは――」
《ヴィクトリアゴーレムによる攻撃を受けた際、状態異常:『泥人形の呪い』となります》
《説明:『泥人形の呪い』……大幅に防御力が低下する》
「……当たったら不味いって事は分かるよ」
「ええ――というかHPバー、何かおかしくない?」
立ち上がろうとするゴーレム。
その姿は――最初の時よりも『三倍』程大きくなり。
また、一本のHPバーが三本連結したように長くなっていた。
「デカすぎ……でもあの『×』も消えてる……ってことは、コレで正真正銘最後ってわけね」
「ああ――あと七分で、何とか削り切るぞ!」
「ええ!」
そう声を掛け合う。
立ち上がろうとする馬鹿デカいゴーレム。
今度は何もない訳でもなく、そして翼がある訳でもなく――
「――何よあれ……『砲台』……?が埋め込まれてる」
「そう、だと思う」
先程は翼だったが、胸の位置に大きな大砲の様なモノが搭載されていた。
そしてそれは、何かをチャージしているかのように『光』が増大していって。
『……GO、GOOOOAAAAAAAAA!!』
――叫ぶ。
こちらへ飛んできたのは――
「――不味い!逃げろ!!」
「レーザーなんておかしいでしょ――!?」
迫る赤い光線。
極太のそれが、俺達に向けて照射されたのだ。
『反射』なんて絶対に不可能なそのレーザービームが、俺達が居た地面を抉り――
「――っ!持続時間長いな!」
ヘイトが向かっているのは俺。
走って逃げている自分へ――追いかけてくるように光線は照射されている。それも俺が走るスピードと同じぐらいに。
もし足がもつれて体勢を崩せば、容赦なく俺の身体はそれに焼かれる事だろう。
盾職なら防げるかもしれないが……俺ならかなりのダメージを食らってしまうはず。
『GOAAAA……』
「はっ、はあ――ようやく止まったか、クマー頼む!」
「ええ、『弱点分析』! 」
走り回って十秒程――ゴーレムは力を回復する様に座り込む。
……ようやく目に見えて分かる反撃のタイミングだ。
クマーの弱点分析によって、また巨体の『拳』へ赤い印が示された。
「――『パワースウィング』!!」
「ウォーターブラスト!」
『GO!?――GOAAAAAA!!!』
立ち上がろうとするゴーレムの拳に一撃を入れる。
クマーも後方から魔法にて攻撃。
怯む巨体――だが、またすぐに立ち上がっていく。
三枚のHPバー……削れたのは、その一枚の内たったの10%。
実質3パーセントか?
魂斧による弱攻、クマーの弱点分析のシナジーの恩恵があってこれだ。
『GOOOOAAAAAAAAA!!』
「!?レーザーだけじゃないのかよ!」
迫る光線。
そして――同時に振り下ろされる巨腕。
「――っ、迫力満点だな――」
照射されるレーザービームを避けながら、巨腕の挙動も観察し走り回った。
――来る!
「うっ、おお――!」
ゆっくりと迫りくる岩石の拳は、余裕を持って避けられた。
でも……地面に到達後、とんでもない『揺れ』が足元を襲う。
「――っぶない!」
『GOAAA……』
ようやくまた休息状態に入るヴィクトリアゴーレム。
……残り時間、後5分。
残りHPはまだ九割を切っていない。
このままでは――間違いなくタイムアップだ。
「――『パワースウィング』!」
「『ウォーターブラスト』……減らないわねホント!」
『……GOAAAAAA!!!』
一撃入れた後、また立ち上がろうとするゴーレム。
……このままじゃ駄目だ。
コイツに勝つために――今俺が持つモノ達を、総動員して立ち向かわないと。
「――なあ、クマー」
「!何?」
「別に今からやる事は、死にに行くわけじゃないからな」
俺は、魂斧をインベントリに仕舞う。
そして――取り出したのは二つの『瓶』。
それを左手で両方持った。
「へぇ?何する気――」
「――長くなるから詳しくは言えないが、『勝負』に出る」
「!分かった……でもそれなら私も負けてられないわ」
「クマーも何かあるのか?」
「ええ――どうせ失敗したら終わりなんだし、もう逃げないわ……『対象増加』、『弱点分析』!」
『GOAAA――』
そう言って、彼女は道中のモンスターに掛けていたスキルを発動。
立ち上がろうとするゴーレムの両手の拳と、片足の
「――選んで、ニシキ。一つなら『何処』が良い?」
「!この中なら足だ!分からないが頼む」
「ふふ。勿論――『対象集中』!」
クマーがそうスキルを発動すると、三つの赤い印が踵の印に集まり一つの白い印となった。
「――言わなくても分かるわね、ニシキ」
「ああ――勿論狙わせてもらう、来い!」
『GOAAA――』
光線射出に入るゴーレムに向けて走り出す。
同時に迫る拳を見ながら、俺はレーザーの挙動も観察。
『GO、GOAAAAAA!!』
やがて光線発射。
この様子なら拳は余裕で避けられる、『やる』なら今だ。
「よっ――来い、『高速戦闘』!」
拳が地面に到達すると同時にジャンプし、揺れで足を取られない様に。
そして着地。
高速戦闘を発動――俺は迫るレーザーに目一杯腕を伸ばして『右手』を突っ込んだ。
同時にインベントリを開き、左手で『増幅毒』を取り出す!
「っ……思ったより減るな!」
「に、ニシキ!?」
右手がVRの熱い感覚に包まれると共に、ゴリゴリと削られる俺のHP。想像通り衝撃は無くひたすら照射され焦がされている感覚だった。
高速戦闘によって、レーザーから右手を引き抜くタイミングを合わせ、減るHPを完璧に『調整』する。
この減少量なら――残りの俺の命を『31%』に限りなく近くに!
《状態異常:泥人形の呪いとなりました》
身体が重くなるが、高速戦闘のおかげで何とか走り抜けられた。
タイミング良くレーザーから手を放すと流れるアナウンス。
それを確認し『増幅毒』を身体に掛けて――
『GOAAA……』
一秒後、レーザーが終わった瞬間再度インベントリを開き――『毒瓶』を経口摂取。
《状態異常:猛毒となりました》
《不屈スキルが発動しました》
「っ、はっ、はあ……よし、ここまでは予定通り――っと」
「――――あ、貴方何してるの……?」
「はは、まあ見ていてくれ――」
遠くからのクマーの声へ返事をして。
そして身体をそれぞれ、不屈の赤いオーラと毒薬の紫のオーラが包み込む。
状態異常、『泥人形の呪い』と『猛毒』という強力なそれが二つ――発動してくれないと困るってものだ。
後は――『アレ』さえ発動してくれたら。
猛烈な勢いで減っていくHPゲージを確認しながら、俺はゴーレムの元へと走る。
猛毒の効果はHPを継続的に減らし、十秒間で三割削る。つまり――俺の残り体力は理想では1%に限りなく近くなるんだ。
これで発動してくれなければ終わり。
「頼むぞ――」
そして。
残りHP、5%になった所で。
《逆境スキルが発動しました!》
「っ、来た!ようやくだな――」
もう一つの赤のオーラが現れ……走りながら、笑ってしまう。
「……何か、やるのね?」
「ああ。見ていてくれ――この、『商人』という職業の可能性を」
「!」
『不屈』。
『逆境』。
この二つが両方発動している今。
やっとだ。
やっと……発動出来る。
この、商人専用の――新しいスキルを。
「――『
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