シークレット・ダンジョン⑬
「……まさか、身体ごと吹っ飛んでくるなんて思わなかったぞ。というか良く間に合ったな」
「ふふ、滅茶苦茶ギリギリだったわ!でも大正解でしょ?」
「はは。確かに」
俺達は、先程の彼女のヘッドスライディング?の勢いのまま地面に転がっていた。
鳴るアナウンスも今は聞く気力が無い。
ただただ――二人で洞窟の天井を眺めながら話していた。
「ほんと無茶するんだから……」
「ごめんごめん。流石に疲れたな」
「……でも――ふふ、最後は『アレ』じゃないのね」
「はは、言っただろ。俺の趣味は『貯金』だって」
「あはは!そうだったわね!」
彼女は立ち上がり、両手を上げる。
「……?」
「ほらほら――『全員生還』!こういう時はハイタッチするもんでしょ!」
「ははっ、そうだな――」
俺も身を起こし、彼女の掌に自分のを合わせた。
小気味いい音と共に、クリアの実感が湧いて来る。
……全員というのはあえて突っ込まずに。
「ふふ!後はお宝だけね!」
「ああ。楽しみだ」
二人して、その光の先に歩いていった。
☆
《王都ヴィクトリア・非戦闘フィールドに移動しました!》
《熊さん工房に移動しました!》
「ふー、帰ってきた帰ってきた!」
彼女はそう口にするなり、『定位置』?であるソファーにダイブ。
アレから――ゴール後に現れた『シークレットチェスト』4つを開封。
そして一人一つあるダンジョンチェストなる宝箱を開けて、俺達はダンジョンから出てきていた。
「あー落ち着く。やっぱりここねぇ……ぐぅ」
「……アイテムの確認はどうしたんだ」
ゲームとはいえ、無防備過ぎると思うんだが。
そのまま寝息を立てる勢いだぞ?
最早彼女にとっては、ここは第二の現実。そうなっているのだろうか。
……いつか俺も、そんな場所が出来たら良いんだけど――
「何て顔してるのよ、貴方」
「!?びっくりした……」
いつの間にか、ソファーから俺を見ていた彼女。
目線が急にあって焦ったよ。
「ふふ、貴方もここに住む?歓迎するけど」
「……ありがとう。でも遠慮しとくよ、離れられなくなりそうだ」
「それは当たってるわね!」
「はは、だろ。それじゃ報酬を――」
「――ね、ニシキ」
ソファーに寝転がった彼女は、俺から顔を背けて口を開ける。
「今回のシークレットチェスト分、全部貴方に渡しても良いかなって」
「……え?」
「私――何もしてないもの。ほとんどニシキがやったじゃない」
彼女はそう言い放つ。
クマ耳パーカーの背中がやけに小さく見えて。
……その選択は、俺にとってあり得なかった。
ダンジョンクリアは――彼女が居なきゃ成し遂げられなかった訳で。
「なあ、クマー」
「……なに?」
《――「ふふ、もう一度言ってあげる。私には貴方が必要よ。ニシキ」――》
思い出す、彼女の言葉。
言われ慣れない台詞だった。
でも俺はきっとそれを欲していた。
きっと今、今度は自分が言うべきなんだ。
「クマーが居てくれたおかげで全てが上手くいったんだ。間違いなく、俺には君が――」
「――あーもう流石に恥ずかしい!分かったわよ、受け取る受け取る!」
俺の言葉を遮って、ソファーから軽快に立ち上がる彼女。
やっぱりクマーはそうじゃないとな。
☆
《上級強化剤》
《上級強化剤》
《上級強化剤》
《サクリファイスドール》
《サクリファイスドール》
シークレットチェストから手に入ったのはこの5つ。
そして――
《属性上昇剤》
《王都泥人形の欠片》
《王都泥人形の欠片》
《王都泥人形の欠片》
《王都泥人形の欠片》
《王都泥人形の欠片》
ダンジョンクリア後に手に入ったのがこれ。
属性強化剤ってのがクマーのもの、下の五つある欠片5つが俺の取得したモノだ。
「ほんと、属性上昇剤なんてまたレアなのが……」
「上級強化剤よりもか?」
「ええ。売れば3
「!それは凄いな」
「普通のダンジョンなら、上級強化剤一個でも大分美味しいのに……凄いわねシークレット」
「この王都泥人形ってのは?」
「それは確か普通のダンジョンでも出てくる素材アイテム。でも一気に五個なんて出ないわよ! あのゴーレムが大きいからかしらね」
まさか最初のダンジョンでそれを引いてしまうとは思わなかったな。
ビギナーズラックにも程がある……もうこの先一生出ないなんてのもあり得るぞ。
「……さて、楽しい分配の時間だけれど――」
「ああ、ぶっちゃけ俺は特に欲しいものなんてないんだよな」
どれも見た事の無いアイテムだし。
俺は先にそれらを売って新しい武器や防具を買う事になるから、モノは何でも良いんだよな。
「……ねえ、ニシキ。提案があるんだけれど」
「ん?」
「その『魂斧』、私達に預けてみないかしら」
「それは……どういう意味だ?」
「クマーと私で、その魂斧をアップグレード出来ると思うの。このアイテム達でね。費用もお礼にこっち持ちで良いわ」
……正直、それは喉から手が出る程望んでいる。
魂斧は紛れもないメインウェポンだし、それが強くなるなら尚更だ。
「でも……良いのか?」
「ええ。その代わり貴方の王都泥人形の素材を全部くれたら良いから。ベアーの武器素材になるのよそれ!」
「それなら勿論渡すよ」
「ありがと、約束するわ。ベアーが戻ってきて――準備が整ったら連絡する。分配はこの上級強化剤一つと属性上昇剤を魂斧に使うとして……一人一つ上昇強化剤、サクリファイスドールね!」
手際良くアイテムを並べていく彼女。
……本当にクマーには頭が上がらないな。
☆
彼女には珍しく、工房から出て王都まで送ってくれた。
はは、ずっとあの中に居るイメージだったんだけどな。
「それじゃ……ありがと、ニシキ」
「こちらこそ。クマーとフレンドで良かったよ」
「――!貴方、誰にでもそういう事言いそうね!」
「あ、ああ……何か変か?」
「ふふ、まあいいわよ。悪い気はしないわ」
別に何も変な事は言った気はしていないが……まあ良いか。
「……ねえ、ニシキ」
「ん?」
「きっと、これから『商人』は必要とされていくと思うの。貴方の武器商人のスキル、聞いただけで私達に嬉しい事しか書いてないもの。他の商人の上位職もきっと同じ様にね!」
クマーはそう言う。
分配の後雑談していた時、俺は彼女に新たなスキルについて話していたのだ。
「特にデメリットもなく品質アップとコストダウン……効果が少なくても『居るだけ良い』って、中々だと思うわ」
「……そっか」
「ふふっ、なんて顔してんのよ。カッコいい顔が台無しよ?」
「あ、ああ……え?」
「良かったわね、ニシキ」
優しく笑うクマー。
俺の思考を、全て分かったような表情。
『俺達の苦労』を分かってくれている表情。
……本当に彼女には敵わないな。
「ああ、本当に。それじゃまた連絡くれ」
「ええ!それじゃあね」
俺は彼女に手を振った。
そして、街を歩いていく。
大勢のプレイヤー達。
『狩人』。『魔術師』。『召喚士』。『武器鍛冶師』。『錬金術師』。
多種多様な職業。
その中には当然、『商人』も居る訳で。
何時になるか分からない。……でもクマーが言うなら、きっと俺達はこの世界で欠けてはならないようになるだろう。
あの時。
俺がRLを辞めていたり。
PKK職に転職してしまったりしたら、俺は――
「――この職業で、良かったな」
自然と呟いていたソレは、王都の喧騒へと消えていく。
そのまま疲れた頭を休めるべく俺はそれを押した。
《ログアウトします》
☆
《『レン』様からメールが届きました》
◇◇◇
ニシキさんへ
お願いします
私達に、対人戦闘についてご教授頂けませんか?
◇◇◇
↓作者あとがき↓
これにてシークレットダンジョン編、完結です。
お付き合い頂いてありがとうございました。
そしてまたひたすらカタカタ作業に戻ります。再開は何時になるかまだ言えませんが、二ヶ月先ぐらいですかね?単行本発売日である10月8日までに生存報告として何か上げられたら良いな……と思います。
まだまだ続く、コロナ禍の暇つぶしになっていれば嬉しいです。それでは。
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