シークレット・ダンジョン⑧
☆
「ね――貴方の趣味って何?」
「そ、そうだな……貯金ぐらいかな」
「ふふっ、その割に有り金飛ばすスキルを使うのね」
「クマーも知ってるのか!?」
「ええ。案外商人の隠しスキルについては広まってるわよ、特に生産職の間ではね」
「そっか、知らなかった――」
「――あ、そこトラップ」
「!流石、よく気付くな」
アレから、クマーと話しながらダンジョンを進んでいた。
道のりは案外平和だった。理由としては、先行していた彼らがいたからだろう。
それらしい形跡があったし、解除された罠らしいものもあった。
色々簡単な謎解き要素もあったらしいが、今のところ全部終わっている。
これに関してはクマーが悔しがっていた。そういうの好きそうだしな。
その代わりといってはアレだが、彼女は罠を真っ先に見つけてくれていた。
正直助かるよ。
……実のところ、俺は今かなり集中力が欠けているから。
その理由は――
《――「私が認めてあげる。貴方はとっても強いし、それは貴方の努力と行動が実を結んだ成果よ」――》
彼女の台詞が、俺の脳内に反響にしていく。
ど直球ストレート――己の肯定の台詞。
俺はどう反応していいか分からなかった。
これまでの人生で、そんな言葉を掛けられる事はほとんど無かったからだ。
まして大人になってから――そんな真っ直ぐな台詞を受けるなんて思わなかった。
俺はそれに、素直に喜んでいいのだろうか?
「……さっきから何ボーッとしてるの?」
「あ、ああ――ごめんごめん、何でもない」
《――「お前は新と舞とは違う『下』の人間なんだ、分かるか?」――》
《――「出ていきたいならとっとと出ていくと良い。お前を認める者等誰も居ない」――》
《――「この、失敗作が」――》
呪縛の様に溢れてくる両親の台詞。
《――「あーあ、また失敗かよ……」――》
《――「商人って本当、カスみたいなGだけだよな」――》
《――「ソロでやってろよ、まあどうせ闘えないんだろうけど」――》
RL。
不遇職と虐げられ、邪魔扱いされていた。
そしてその二つの状況から――逃げ続けていた『自分なんか』が。
分からなかった。
俺は――彼女の言葉を受け取って良いのだろうか。
「……ニシキ?」
「なあ、クマー」
立ち止まる。
制限時間があるから、早く進まなきゃならないのは承知だ。
でも――こんな迷いを持ったままじゃ、この先の戦闘で使いモノにならなくなってしまう。
「……俺は今、役に立ててるか?」
「えっ今更なに言ってるの……当たり前でしょ」
「――!そ、そっか」
「このダンジョンでニシキが居なきゃ、私はもうとっくに死んでるわ」
「いやまあ、それは――」
面倒な事を言ったつもりだったが、即答された。
慣れない返答に言い淀む。
「――ふふ、もう一度言ってあげる。私には貴方が必要よ。ニシキ」
言い淀む俺へ、「まだ分からない?」と笑って加えるクマー。
正直……未だに彼女がここまで自分に言ってくれる理由も、自分が強いという実感も持てない。
――でも。
『それ』を聞いた時、身体が軽くなって――胸の中が熱くなった。
もしかしたら俺は……ずっと心の奥底で、その言葉を欲していたのかもしれない。
「――ありがとう。行こうか」
そして彼女が、例えゲームでもそう思ってくれるのならば。
もう迷わない。
今は、このダンジョンで戦おう。
浸るのは全てが終わってからだ。
「ふふん、ええ。あ、定番のやつ忘れてた。貴方好きな食べものは?」
「え、コーヒーぐらいかな……」
「それ飲み物じゃないの!」
「ご、ごめん」
怒られた。
……やっぱり自分の事を話すのは慣れないな。
☆
進むと、やがて洞窟から大きな広間に変わっていた。
その空間の奥には大きな門がある。
「……で、ようやく行き止まりになったわ」
「ああ。どう見ても、ここで――」
「ええ。恐らくココで『事件』があったのね。あ、何か石板があるわ!」
クマーは眼鏡を光らせる。そして表情も輝いていた。
彼女は謎解きを心待ちにしてたからな。
俺は……こういうのは苦手だから助かるよ。
◇◇◇
【公明正大の試練】
【此処までの君達の道程を正しく示せ】
【さすれば門は開かれん】
◇◇◇
門の横に添えてある石板にはそう書かれている。
そして周囲に落ちている石。
ただの掌大の石コロだが、光る模様のような刻印が入っているな。
また、この広間には微かな骨の欠片のようなモノが散らばっていた。
「これ、もしかしてゴブリン?二匹が一つの石に描かれてる……あ、もう一つの方は一匹だけね。何か強そう」
「こっちにもあったぞ」
「あ、頂戴。うん……間違い無い、これまでの道中のモンスターね。別のモノも混じってるけど。何これ『ドラゴン』に……『巨人』?」
合計七つの石。
まじまじと光る刻印を見るクマー。
その事実には、正直全く気付けなかった。
簡単な線で描かれたそれは、言われてようやく気付けたモノだ。
俺一人じゃきっと時間が掛かっていただろう。
「『ゴブリン二種』、『石像のコウモリ』、『石のスライム』、『オオカミ』、『冠のゴブリン』……スケルトンは居ないのかしら」
「把握するの早いな!……正規じゃなく罠で召喚されたからとか?」
「ええ。恐らく『彼ら』が引っ掛かったんだわ。それにしては数が多すぎる気もするけど」
「はは、そこは分からないな」
一体あの三人は何をしでかしたのやら。
死人に口なし、もうどうしようもないんだけどさ。
明らかなのは、絶対にクマーが居た方が早く進んだという事実。勿体無いな本当に。
「……で、門には『はめてください』って感じの穴が5つ。二回遭遇したのも居るけど、丁度五種類。多分このドラゴンと巨人?は除外ね。きっとフェイクだわ」
「あ、ああ。後はこれをはめるだけか?」
「うーん――でもこれ、石は卵みたいな形で、穴は綺麗な丸なの……一応石を横にしたら穴には入りそうだけれど」
「……けど?」
「うん。そんな手じゃこの『公明正大』の試練に相応しくない。引っ掛からないわよ私は!」
彼女の思考が早くて追いつけない。本当に頭良いんだな。
その眼鏡で石と門の穴を見比べるクマー。
確かに、二つは明らかに違うモノだ。間違って入れたら……罠が起動したりして。
「うーん――絶対に一発成功させて見せるわよ!」
「はは、頼もしい。鑑定士としての腕の見せ所だな」
意気込むクマー。
まあ、流石に何もしない訳には行かないし……適当に物色してみよう。
☆
うんうんと唸るクマーを置いて、しばらく歩き回る。
本当にこの場所は石と石板と門だけだ。
後はこの地面の骨――もしかして、失敗したらこの骨がスケルトンに変化するかもしれない。ちょっと見てみたい気もするな。
……まあ、そうならない様謎解きをしなきゃならないんだが。
骨とはさっき戦ったし、もう十分だ。
「……」
やがて俺は、自然とぎっちりと閉まる門を眺めていた。
触ってみれば、もう何十年も存在してきた様な風格がある…、VRの凄さを感じるよ。
半端な者には開ける気は無いって感じの門だ。
「……はは、コレは流石に
「――!!ニシキ!今何て言ったの!?」
「!?――え、いや流石に壊せそうにないって」
横で悩んでいた彼女が急に俺へ叫ぶ。
……もしかして、マヌケな発言過ぎて怒られたか?
「ご、ごめん。コレはちょっとした独り言で――」
「――そうよ!この卵みたいな形……そうだ、『種類』だけじゃなくて『数』もなのかしら!ニシキ、ちょっと『三回』叩いてみて!これ!」
ハッとした顔でクマーは俺に石を渡す。
どうやら怒られる訳じゃないらしい。
「え?あ、ああ……三回だな――!?」
「ふふん、やっぱり。お手柄ねニシキ!ほらほらコレも」
言われるがまま。
持っていた魂斧で、その刻印を三回コンコンと叩く。壊してしまいそうだから慎重に。
すると――卵が孵化するように、輝く丸い宝石の様なモノが現れた。
「なるほどな、討伐したモンスターの数が対応してるのか。って事はこのガーゴイルは六回で――お、割れた」
「こっちも割れたわ、どうやら『彼ら』はコレには気付けなかったみたいね」
「はは、流石クマーだな」
「ふふ。ありがと、貴方のおかげでもあるわよ……で、後はこれを――」
五個の光輝く宝石をそこにはめていく。
そうすれば――
《最後の試練が突破されました》
《これより先、ダンジョンボスエリアです。移動すると制限時間はリセットされ、制限時間は残り10分間となります。ご注意ください》
5つ揃った瞬間、門が地面を削りながら開いていく。
ズズズ……と、轟音と共に流れるアナウンス。
「――やったわね、一発成功だわ!」
「はは、ああ。後はボスだけだ――ん?何か出て来たぞ」
「あら本当だわ。ようやく出て来たわね……『シークレットチェスト』」
門が開くと同時に、その前に白く輝く箱が浮かび上がる様に現れる。
そういえば確かに始めアナウンスが言っていたような……
「知っているのかクマー?」
「ええ。確かシークレットダンジョン限定でパーティ人数分ダンジョン内に現れるのよ、こういうのが」
「って事は後4つあるのか」
「そうね。ふふ、ちなみにあと4つはもう多分開けてあるわよ」
「……ん?」
これまでそんな宝箱存在していなかったし、クマーがそういうのを見つける事も無かった。
……あ。
「分かった?彼らがどうしてあそこまで必死に先行したのか」
「もしかして、さっきのスケルトンもか」
「ふふ。それは分からないけれど……まあ『死人に口なし』ってヤツよ」
「そうか、ただ何にせよ後4つは――」
「――いいえ。このダンジョンをクリアしたら手に入るわよ全部」
「……え」
「彼らはもう『失敗』扱い、このダンジョンで得たモノは全部返却よ」
笑うクマー。
『因果応報』、そう言いたげな表情だった。
「ふふ、生きてたら問いただすつもりだったんだけど。手間が省けたわね」
「……案外怖いなクマー」
「アレだけ私達を馬鹿にした挙句、お宝は全部頂いちゃうって酷いでしょ?当然よ当然」
「はは、まあそうか」
ある意味、死んでて正解だったかもな『彼ら』。
「さてと、それじゃ『鑑定』――うん、罠の可能性は低いわね……開けるわよ」
「ああ」
「!上級強化剤だわ!」
「無知で悪いが……良いのかそれ?」
「ええ。価値にしたら百万Gぐらいかしら。武器とか防具とか強化できるやつ」
百万!それはありがたいな。
まさか最後に到達する前に獲得出来るとは。
いや失敗したら終わりなんだけど。
「後で分けましょう。ふふ……これからボスだっていうのに気が緩んじゃうわね」
「はは、確かにな。引き締めて行こうか」
「そうね!クリアしたらこれが四つも手に入るんだから!」
「……ちょっと緊張してきた」
「ふふ、言わない方が良かったかしら」
息を吐く。
正真正銘これでラスト。
ダンジョンボス……一体どんな敵なんだろうか。
「……ね。絶対クリアするわよ、ニシキ!」
「ああ――勿論」
クマーが俺の肩をちょんと叩く。
――ここからは、俺の仕事だ。
信じてくれた彼女の為にも、必ずゴールへ連れて行ってあげないとな。
俺達は――その門に足を踏み入れた。
《BATTLE START》
《制限時間は10分です》
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