シークレット・ダンジョン⑥


『…………』

『…………』

『…………』



カタカタと音をさせながら近付いて来る骨達。



「……『瞑想』」



慣れているとは言っても――感じていないだけで、俺の中には不安や迷いがあるはずだ。

あの時と違って背後にはクマーが居る。

黄金の蘇生術を使えない以上、死ねば後は彼女だけ……そうなれば結果は目に見える。


ゲームの中とはいえ、俺は一人の命を握っているんだ。

そういえば――初めて行商クエストをクリアした時もそうだったっけな。



「――ふう」



《スケルトン LEVEL40》

《スケルトン LEVEL40》

《スケルトン LEVEL40》

《スケルトン LEVEL40》

《スケルトン LEVEL40》

《スケルトン LEVEL40》

《スケルトン LEVEL40》

《スケルトン LEVEL40》

《スケルトン LEVEL40》

《スケルトン LEVEL40》


《スケルトン LEVEL40》

《スケルトン LEVEL40》

《スケルトン LEVEL40》

《スケルトン LEVEL40》

《スケルトン LEVEL40》

《スケルトン LEVEL40》

《スケルトン LEVEL40》

《スケルトン LEVEL40》

《スケルトン LEVEL40》

《スケルトン LEVEL40》



表示されているのはまず10体。

そして――背後にも同じ様に10体。

合計二十体。


距離にしてもう20メートル先。

もうかなり近い。


俺はその辺にある岩の影に隠れて、インベントリを開くが。



「――自惚れてんのか、俺は?」



分からない。

でも――どうしてか、俺の精神はこの状況に全く恐怖を感じてくれない。


まるで、『こんな状況』は慣れっこだと言うように。

あのクエストをクリアしただけで、何を俺の脳は誤解してるんだか。



「――『パワースロー』!」


『――!?』



投擲したのは『スチールハンマー』。

ベアーが装備していた類の鈍器武器だ。要求STRギリギリのそれ。


まだ慣れないが――案外投擲はやりやすい。


重いその一撃は、スケルトンの頭蓋骨を襲った。



『……?』


『…………』



よし、気付いてない。

とりあえずこっちに来る前に投擲でダメージを稼いでおこう。


大丈夫。やる事は『餓鬼王からの挑戦状』の時と一緒だ。




《経験値を取得しました》




《スケルトン LEVEL40》

《スケルトン LEVEL40》

《スケルトン LEVEL40》

《スケルトン LEVEL40》

《スケルトン LEVEL40》

《スケルトン LEVEL40》

《スケルトン LEVEL40》


《スケルトン LEVEL40》

《スケルトン LEVEL40》

《スケルトン LEVEL40》

《スケルトン LEVEL40》

《スケルトン LEVEL40》

《スケルトン LEVEL40》

《スケルトン LEVEL40》

《スケルトン LEVEL40》

《スケルトン LEVEL40》

《スケルトン LEVEL40》



「……」



手持ちのスチールハンマーとスチールアックスを使い切って、三体減らした。

クマーの助言により弱点が分かっているため削れるスピードが違う。



だが、間もなく――岩陰の横をスケルトンが通る。



『…………』

『…………』

『…………』



息を潜める。

そのまま自分をスルーするスケルトン達。


間もなく全ての骨が俺を素通りしていった。

……鈍すぎないか、幾らなんでも。


もう良い――そこまで鈍感だというのなら、こっちから飛び込んでやろう。

骸の軍勢へ、背後からするっと入っていく。

息を潜め、なんとなく記憶にある『十六夜』を浮かべながら。



「……」



当然の様に気付かない。このまま入口まで一緒に歩いてもバレないかもな。

……クマーに危害が及ぶからやらないけど。


どうやら、この骨共の眼は節穴らしい。

その中で光ってるモノは飾りなのか?



「――『ラウンドカット』!」



隙だらけの骨共にその武技をお見舞いする。

周囲の奴らへ円状に綺麗に入ったその攻撃。



『――!?』

『――……』



《経験値を取得しました》

《経験値を取得しました》



五体程に命中、内の投擲で削っていた二体を倒した。

そして――俺は骨共をすり抜けてダッシュ、出口側へダンジョンを進んでいく。



『――!』

『――!』

『――!』



「こっちに来い!!」



走って距離を取りながら大声で呼び寄せる。

やがて――俺は投擲後の地面に散らばった武器達の場所に辿り着いた。



「らあ! ――『パワースロー』!」



《経験値を取得しました》



地面のスチールハンマーを投擲、その後拾ってもう一つのハンマーを投擲武器。



『――!』

『――!』

『――!』



流石にコイツらも怒っている様だ。

追いつかれ――至近距離。

やがて囲むように俺へと襲い掛かる骨共。


丁度俺の右と左……そして前。



「よっ――」



俺は屈んで――地面の『スイッチ』を押す。

迫る無機質な殺意。

やがてそれは現れ、頭上を『右』から『左』に飛んでいく。



『――!?』

『――……』



同じ無機質な――二つの頭蓋骨を通り抜けて。



「スラッシュ」



《経験値を取得しました》

《経験値を取得しました》

《経験値を取得しました》



骨共にとっては不意の矢と追加の武技で、三体が倒れる。




「はは、罠も使い様だな」






『――!』

『――!』

『――!』




……残り11体。

それが一斉に――俺を襲う。

三つの殺気。背後と斜め右と左。



「らあ――っ!」



一体の骨の首元へ斧を振るう。

もう二体の攻撃は、振るった刃の勢いのまま前へと進んで避けた。


コイツらは見た目通り軽いから、強く押しのける様にすれば簡単に体勢を崩してくれる。


俺は地面に倒れた骨を踏みつけ屈み――



『――!?』

『――……』



《経験値を取得しました》


――また床のスイッチを押す。

俺へと振るわれていた攻撃はそのまま骨達の頭蓋骨へと同士討ち。

また――頭上を掠めた、彼らへの『贈り物』を確認。



《経験値を取得しました》


『――!』


「っ――『ラウンドカット』!」



また迫る一匹のスケルトンの攻撃を食らいながら、武技で周囲を切る。


HPは残り六割。

肉を斬らせて骨を断つ――死なない程度ならそれは減らしても問題ない。



《経験値を取得しました》

《経験値を取得しました》

《経験値を取得しました》



「……まだまだ」







――自分が強いなんて思った事はない。


でも……今。

俺は、自分が自分じゃないと思える程に、この骨共へと戦えている。


まるで――『こんな戦闘』を、幾度となく熟してきたかの様な錯覚。

頭では覚えていないのに、『身体が覚えている』。



「――あの後、俺は――」



魂斧を振るいながら、見失った過去を思い出す。


『餓鬼王からの挑戦状』。

きっと俺はそこで――『こんな戦闘』を繰り返して来たのだろう。


恐らくウェーブ10以降もずっと。あの地獄の中……自分は何を想いながら戦っていたのか。



「――『スラッシュ』!」


《経験値を取得しました》



そんな事、倒れるまで戦った馬鹿な自分が知る由も無いが。



「よっ、こっちだ――『パワースロー』」



残り五体。

距離を取りながら走り、スケルトンが丁度縦に並んだその瞬間に投擲武技を発動。



水平上、サイドスロー。

狙いは重なった直線状。

彼らの弱点、黒い刃は首元を通り裂いて。




《経験値を取得しました》

《経験値を取得しました》

《経験値を取得しました》

《経験値を取得しました》

《経験値を取得しました》



五人?抜き。壁へ魂斧が突き刺さった。

魂斧の『人型特効』、そして『弱点特効』――それが嚙み合った一撃。

奴らの減っていたHPを、同時にまとめてゼロにするには造作も無いだろう。




「……ふう」



息を付く。

スケルトン二十体の討伐に、何とか成功した。

ただ――これまでに戦ってきた強敵達と比べれば、この者共には『骨』が無い。


高速戦闘も、黄金シリーズも使う事がないとは思わなかった。


対多数に関して言えば、あの『五人』のPK集団の方が圧倒的に嫌だったな。中身に人が入っているから当たり前なんだけど――




「――もっと、強い奴と闘いたい……」




自然と、俺は呟いていた。


……もしかしたら、忘れている『その時』の俺も――今と同じ事を言っていたのかもしれないな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る