シークレット・ダンジョン⑤


『シークレットダンジョン』。


発生確率は、10日に1回は遭遇出来たら良いモノだろうか。


中々お目に掛かれない――そして、もし遭遇したら覚えておかなければならない事。

『シークレットチェスト』の存在だ。


ノーマルのダンジョンなら、最後に待つダンジョンボスを倒して報酬獲得……だが、このシークレットチェストは『道中』に隠れている。それを見つけ、開封した者がその中身を得られる。


そしてその発生数はパーティメンバーの数だけ。

普通なら、一人一個ずつ宝箱を開けられる計算。


が――時には例外もあるものなのだ。

先行して、何食わぬ顔で全ての宝箱を独り占めするプレイヤーなんてのも居る。




……そして運悪く、そんな事態にニシキ達は遭遇してしまった。




「な、なあ……本当に大丈夫なんだよな?」


「うるせーな。もう何言っても遅いだろ、引き返すか?」


「ハハ、あの二人が頑張って『掃除』してくれるだろ!俺達はどんどん進もうぜ!」



三人の内、一人は『狩人』。


弓士からの派生上級職だ。

隠密行動が得意で、仲間内にもその隠密行動を共有する事が出来るスキル『範囲迷彩シェイドポケット』を持つ。

それを使用して、モンスター達をスルーしどんどん進んできた。



「実際こっち付いてきてねえしな」


「ああ。アイツらが中途半端に俺達に絡むとうぜえんだよ」


「な、それに――」



三人は笑って顔を見合わす。



「いやあ、『アレ』の存在、あいつ等知らなそうで助かったぜ!」


「俺も攻略でしか見た事無かったわ。ダンジョン内の途中にあるんだろ!? 」


「知ってたら今死に物狂いで着いてきてるだろうしな」


「おう!――来た、アレだ!」



光り輝く宝箱。

見るからに、それは『シークレットチェスト』だった。



「あ、開けてみようぜ……お、これドールじゃん!!ラッキー!」


「……ドール一個だけか、分けられねえけどどうする?」


「確か攻略じゃパーティメンバー分宝箱があったはずだ、なら――」


「ハハ、一人一つ、んで後二個は……」


「俺らのもので良いだろ! 売って三人で分けようぜ!」


「ああ、どうせあいつらろくな戦力じゃねーし良いだろ」



汚く笑う三人。

彼らは後先考えず進んでいく。


……その行動が命取りになるのは知る由もない。





「おいおい、これで四個回収か……」


「へへ、こりゃあ全部で10ミリオンは行くな」


「三人で三百万!あと一つで綺麗に400万だな!」



狩人のスキルもあり、モンスターエリアを超えた『トラップエリア』を簡単に突破。


もはやニシキとクマー二人が、何があっても追いつけない距離になっていた。



「……なあ、ガチでバレない?つかこんな事して良いのかな……」


「はあ!?大丈夫だろ、というかアイツら何も仕事してねえし俺らのモノで良いっての」


「な、俺達のおかげでトラップエリアは余裕で抜けられるだろうし、これぐらいは貰っとかないとな~」


「だ、だよな!まあ最悪見つからなかったで通せば良いし」


「攻略サイトなんて全くあてにならなかったわーなんてな!」



そんな事を言いながら――彼らは辿り着く。


その、『最後の試練』に。



◇◇◇


【公明正大の試練】


【此処までの君達の道程を正しく示せ】


【さすれば門は開かれん】


◇◇◇




やがて、狭い洞窟から大きな広間へと場所は変わる。

待ち受けるのは大きな門。


そして横には、その文字が掛かれた石板があった。



「……で、何だよこれ……」


「くっそ、多分これも謎解きだわ。いらね~」


「……そういやこれまで、罠を一つ抜ける度にシークレットチェスト出てたっけ」


「って事はコレ解いたら最後のチェストが出るっぽいな」


「め、めんどくせえ……早く解いちまおうぜ」



三人は、その文が書かれた石板の前で立ち尽くす。

石板の横には五個の丸い穴が開いた門。

更に地面には七種類の卵型の石があった。



「……どうするよ」


「まあ、穴の中に石を入れるんだろうな」


「何か光ってるのと光ってない奴あるけど……」



一人がその石を並べる。


光る刻印には、弓と剣を持つ小さな鬼に、蝙蝠、スライム、狼、ドラゴン、巨人の刻印。

そして何も光っていない石が一つ。



「……でも、この穴と石、形違うぞ」


「ん?横にしたら入るだろ、その他に入れようないぜ」


「まあそうだけど……んで道程って言ってるが、これまでにドラゴンとか巨人とか居なかったよな?」


「じゃ、この四つか」


「ああ。正しく示せとか書いてるってことは、五つってのはそれこそ罠なんじゃね」


「よし!さっさと解除解除――」



《failure》


《ペナルティが発生します》



「――!?『(範囲迷彩)シェイドポケット』 !!」



《スケルトン LEVEL40》

《スケルトン LEVEL40》

《スケルトン LEVEL40》

《スケルトン LEVEL40》

《スケルトン LEVEL40》



「……あ、あぶね……」


「おいおい、どうすんだよ」


「……『範囲迷彩』、持っててよかったなお前ら」



広場に現れるスケルトン達。

間一髪――狩人のスキルで、彼らは気付かれる事無く済んだ。


しかし。



「……どうするよ、一回アイツら倒すか?五匹居るけど」


「さ、流石に倒しといたほうが良くねえか」


「いや――このまま続行だ。『あの二人』が来るまでに五つ目の『チェスト』を獲得しないと、俺らのモノじゃなくなる上に……」


「……ああ。『バレる』かもしれねえしな……それもそうだ、急がねえと。もしかしたら近くまで来てるかもしんねえ」


「ま、マジ?」


「大丈夫だって!お前のスキルでここまで全く気付かれなかったろ!」


「そりゃそうだけどよ――まあ大丈夫か……」



『また』、判断を間違えるその者共。


彼らの行く末は――





《failure》


《ペナルティが発生します》



《スケルトン LEVEL40》

《スケルトン LEVEL40》

《スケルトン LEVEL40》

《スケルトン LEVEL40》

《スケルトン LEVEL40》


《スケルトン LEVEL40》

《スケルトン LEVEL40》

《スケルトン LEVEL40》

《スケルトン LEVEL40》

《スケルトン LEVEL40》


《スケルトン LEVEL40》

《スケルトン LEVEL40》

《スケルトン LEVEL40》

《スケルトン LEVEL40》

《スケルトン LEVEL40》



「……お、おい――これ、かなりヤバいんじゃねえのか……?」


「そんな事言っても、どうしようもねえんだよ! 倒した順番に入れても無理みたいだし!! んだよこの糞トラップは!」


「声でっけえんだよお前ら……!幾らスキルがあっても大声は――」



最初の失敗 を含めて、早三回の失敗。

彼らの後ろには――蠢く骨が十五体。


しっかりと五体現れる毎に処理していれば、時間は掛かっていたもののそのスケルトン達は脅威にはならなかった。


だがシークレットチェストの存在。そして軽率な判断が、徐々に首を絞めていく。



「――!お、おい!見ろよコレ」


「!き、来た――絶対これでクリアだぜ」



焦燥に駆られる三人の元に、捨てていた三つの石の内――何も光っていなかった最後の石に、刻印が現れている事に気付く。


そこには、『冠を被った鬼』。


実はこの石の刻印は、それぞれに対応したモンスターを倒した時表示するような仕組みになっている。

ミニガーゴイルなら蝙蝠の刻印が。ブラックウルフなら狼の刻印が、という様に。

先程――ニシキ達がハイゴブリンを倒した事で、その刻印が現れたのだ。



間一髪。


彼らは――皮肉にも、馬鹿にしていた二人に助けられた事になる。




「これ、最後に遭遇した『ハイゴブリン』……絶対正解だ。や、やった――」



笑う『一人』。

彼は希望を灯した様に光るその石を、勢いよく門にはめた。








「――これで、最後のチェストは――」










《failure》


《ペナルティが発生します》





「……え?」





失敗、アナウンス。

そして――彼が後ろを振り返れば。



『「『…………』」』




「――ひッ!?」



その顔面に、骸の顔が肉薄していた。

もう当に彼らの範囲迷彩スキルは意味を無くしていたのだ。


冷たい、無機質な手が――彼の肩に触れる。




「あ――」





《スイカが死亡しました》



遠く、逃げようとしていたパーティメンバーの一人の断末魔。




《英斗が死亡しました》



「クソ、何で、これまでの報酬が――――」



逃げていたもう一人も、骨に押し潰される様にHPをゼロにした。



「――誰か、助け――」



最後の一人となった彼に、二十体の骸達が囲い込む。

もはや――その声は、このダンジョン内の誰にも届かないだろう。




「あ、う、うわああああああああ!!」




《貴方は死亡しました》


《ダンジョン内で獲得した報酬は返却されます》

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