シークレット・ダンジョン②


《シークレットダンジョンに転移しました》


《それでは、ご健闘を!》



着いたのは、地下の洞窟の様な場所。


あちこちに灯があるものの、薄暗い。

まさしくダンジョンといった感じの雰囲気だ。悪くないな。



「よろしく」「よろしくね、貴方達」



……『雰囲気は悪くない』。


それは――このパーティの中においては違った様で。



《スイカ LEVEL40 狩人》

《くじゃ LEVEL40 魔術士》

《英斗 LEVEL40 騎士》



「……うわ」「マジか」

「あー、よろしく。何出来んの?鑑定士って」



表情。口調。

その全てから……もう、直ぐに分かった。


俺達は――『歓迎』されていない。



「私は主に補助よ。敵に対して弱点の付与とか――」


「――あーそう。了解了解。んじゃ適当に後ろからやっといて~」


「……ええ」



クマーは何か言いたげだったが、堪えて居る様子だと分かる。


ちなみに俺には何も聞いてこなかった。論外って事だろうか。

……強制マッチングってのは、彼女の言う様にメリットでもあるがデメリットもあるな。


久しぶりに、この職業の境遇を感じてしまった気がした。



「行きましょ、ニシキ」


「!ああ」



気のせいか、彼女の声は優しかった。

そして反面――



「……シークレットで超ツイてると思ったらコレかよ」


「……な。生産職二人って――しかも商人とか最悪じゃん」


「……生産職なんだから、『こっち』側に来るなよっての」


「――おい!聞こえるぞ」



そんなクマーとは正反対に、聞こえてくる会話。

俺達を置いてどんどん進むパーティメンバー達。


……協力とかいうのは、どうやら出来ないらしい。

まあ良い――こういうのは昔なら日常茶飯事だ。



《――「手短にお話しします。ニシキさん、今までありがとうございました」――》



掘り起こされる苦い記憶。

正直……ある意味慣れてしまっている。悲しくもあるけどな。





《ゴブリンソルジャー LEVEL41》

《ゴブリンアーチャー LEVEL42》



「――『インパクトアタック』!」


「『ファイアーキャノン』」


「『パワーショット』!」



《経験値を取得しました》


《経験値を取得しました》



まず初めに現れたのは、何処かで見たゴブリン二種類だった。

……まさか、アレ以降見ないと思ったらダンジョンで出没するとは。



「――っし!次々」


「シークレットとか初めてだけど行けそうだな」


「な!」



三人で声を掛け合うパーティメンバー。

ちなみに俺も攻撃に参加しようと思ったら睨まれた。


まあ、変に入ったら邪魔になるかもしれないから良い。もしピンチになったら助太刀するぐらいで良いか。


……生産職だからって、戦えないと決めつけられるのは嫌だけどさ。





《ミニガーゴイル LEVEL41》

《ミニガーゴイル LEVEL41》

《ミニガーゴイル LEVEL42》



「うわっ、何だよコイツら!?」


「――『ダブルショット』!」


「『ソードキャノン』……遠距離からしか無理っぽいぞこれ!」



どうやら彼らはそのモンスターが初見らしい。

……特殊昇進クエストじゃないと出なかったんだな、ミニガーゴイル。



「――『弱点分析』、赤いとこ狙って!」



隣のクマーがそう唱えると、ミニガーゴイルの身体の一部分――翼の付け根が赤く光る。


凄いな、無理やり弱点を追加できるのか。



「……!狙ってあんなとこ当てれるかよ――」


「『ソニックショット』!クソッ――」



狭いダンジョンで飛び回るミニガーゴイルに中々苦戦している様だ。

アイツは結構初見じゃ捉えにくいからな。


……投擲なら、邪魔にはならないだろう。



「――『パワースロー』」



俺は、クマーが付与してくれた赤いポイントにスチールアックスを投擲する。



『――!?』


「お、かなり減る……」



命中。

ミニガーゴイルとは一度戦っているから、狙いは付けやすい。


そして見れば、以前よりも倍以上体力が減っていた。

クマーのおかげだ。彼女の『それ』は中々強いんじゃないか?



「――『ソードキャノン』!」


「……チッ、『ヘビィショット』!」



俺の投擲武器により怯んだミニガーゴイルに、大剣の飛ぶ斬撃を当てる大剣使い。

そして、追撃で大きな矢が石像の身体に当れば――




《経験値を取得しました》





アレから、同じ様にミニガーゴイルを倒していった。

俺が投擲で動きを鈍らせて、三人が追撃。



《経験値を取得しました》



やがて鳴るアナウンス。

中々に上手い事ハマった気がするな。


……でも。

近付いて来るパーティメンバーの顔は、どうしてかイラついている様に見えた。



「……はぁ、邪魔しないでくれよ」


「え?」


「俺達だけで十分だっての」


「鑑定士の補助も微妙なんだよ、狙いにくいし。変にヘイトそっち行ったら面倒だから違うのやって」


「……分かったわ」



戦闘が終わり、掛けられた言葉はそんなモノだった。

クマーの補助はかなり大きいはずなのに。


……幾らなんでも酷くないか?



「――行こうぜ」


「ああ」



やがてどんどんと進んでいく三人。

そして、彼らと距離が大きく離れた後――隣のクマーが口を開いた。



「……ニシキ、分かる?生産職ってたまにこういう目で見られるのよ」


「はは、ああ。嫌なもんだなこれ」


「ごめんなさい――私、知ってて貴方には言わなかったのだけど」



申し訳なさそうに言う彼女。

クマーには珍しく、小さい掠れた声だった。



「……ちょっと、優し過ぎじゃないか?クマー」


「へ?」


「俺がソロで、それで何時かダンジョンに挑む時……『こうなる』から誘ったんだろ?この辛さを一人で抱え込まない様に。『貸し』の名目で」



彼女にしては強引だったダンジョンの誘い。

『暇』、と言っていた時点でちょっと引っ掛かっていたが……今その理由が分かった。



「それは――」


「――ありがとう。嬉しいよ」



彼女は口調はちょっと強いモノがあるものの、最初から人の良さが垣間見えた。

普段の忙しさも――きっとそんなクマーの人柄あってのこそなんだろう。



「そ、そんなストレートにお礼を言われると恥ずかしいのだけれど……」


「……良い人だな、クマーは」


「――! ちょっと、人の真似しないでくれる!?」



しおらしくなったと思えば捲くし立てるクマー。

ようやく、彼女らしくなったか。



「……というか、早速渡した『復活の書』。全く意味無くなってるじゃない!!何だったのよアレは!」


「い、今更だな……」

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